人手不足に対する企業の動向調査(2024年1月) 正社員の人手不足は52.6% 「2024年問題」の建設/物流/医療業では約7割

 2023年の人手不足を要因とした倒産は260件にのぼり過去最多を大幅に更新し、人手不足による企業経営への悪影響が顕著にみられた一年だった。物価上昇にともない活発となった「賃上げ」は人材の確保・定着には欠かせない手段であるなか、いわゆる「年収の壁」問題から結果的に総労働時間の制約が指摘されるなど、課題は山積している。人手不足が2024年の景気を見通すうえで懸念材料の上位にあげられているなか、企業の人手不足の状況について調査を実施した。

正社員・非正社員の人手不足割合 月次推移

■調査期間は2024年1月18日~1月31日。調査対象は全国2万7,308社、有効回答企業数は1万1,431社(回答率41.9%) 

なお、雇用の過不足状況に関する調査は2006年5月より毎月実施しており、今回は2024年1月の結果をもとに取りまとめた

■本調査の詳細なデータは、景気動向オンライン(https://www.tdb-di.com)に掲載している

人手不足割合は正社員で52.6% 非正社員も約3割

 2024年1月時点における全業種の従業員の過不足状況について、正社員が「不足」と感じている企業は52.6%だった。前年同月比で0.9ポイント上昇しており、1月としてはこれまで最も高かった2019年(53.0%)に次ぐ高水準となった。

 また、非正社員では29.9%だった。前年同月から1.1ポイント減少したが、引き続き約3割の水準で推移している。

人手不足割合推移(各年1月時点)

正社員・業種別:ITエンジニア不足の情報サービス、77.0%で過去最高を更新

 正社員の人手不足割合を業種別にみると、主にIT企業を指す「情報サービス」が77.0%でトップとなった。15カ月連続で7割以上と高水準が続いているなか、過去最高を更新する結果となった。

 その背景には旺盛なシステム関連需要があり、企業からは「企業のシステム刷新のプロジェクトが相次いで発生し、人手不足の状態が続いている」(東京都)や「企業の設備投資意欲が高く、人手が足りていない状況が継続している」(神奈川県)、「システム開発の案件が増えてきているが、人材不足で対応できず受注に結びつけることができない」(東京都)など、人手不足がボトルネックとなっている現状が多くみられた。

 また、「建設」(69.2%)や活況なインバウンド需要が目立つ「旅館・ホテル」(68.6%)など、8業種が6割台となった。

正社員の人手不足割合(上位10業種)

「2024年問題」が懸念される建設/物流/医療業の約7割が人手不足

 働き方改革関連法によって2024年4月から時間外労働に上限規制が適用されることで、労働力不足の深刻化と、それによる機能の行き詰まりが懸念されている「2024年問題」。その主な対象である建設/物流/医療業の3業種について人手不足の現状を見ると、正社員において物流業(道路貨物運送業)では72.0%、医療業では71.0%、建設業では69.2%の企業が人手不足を感じていた。2024年4月以降は一層の深刻化が予想されるなかで、既に7割の企業が人手不足に陥っている結果となった。

 医療業では勤務医が同関連法の対象となるが、看護師の働き方改革も大きなカギを握る。人材の確保・定着を狙いとする賃上げは診療報酬の改定幅によって左右されるケースが多く、業界特有の背景に悩んでいる現状もみられる。

建設/物流/医療業の人手不足割合(正社員)

非正社員・業種別:飲食店が72.2%でトップ、人材派遣業も6割超と高水準

 非正社員の人手不足割合を業種別にみると、「飲食店」が72.2%となり、前年同月から8.2ポイント減少と人手不足の緩和がみられたものの、引き続きトップとなった。次いで「人材派遣・紹介」(62.0%)では人手不足の高まりによる需要増によって、派遣人材の不足が目立っている。以下、正社員でも上位となった「旅館・ホテル」(59.6%)など、小売・サービス業を中心に個人向け業種が上位に並んだ。

非正社員の人手不足割合(上位10業種)

人材の確保・定着に欠かせない「賃上げ」、人手不足を感じている企業ほど実施する傾向

 2023年は「賃上げ」を実施する傾向が例年より色濃く表れ、2024年もトレンドは継続されると予想される。賃上げは人材の確保・定着の観点でも大きな要素であり、その動向が注目される。

 2024年度における正社員の賃上げ実施見込みについて尋ねたところ、人手不足を感じている企業においては65.9%となり「適正」(55.7%)と「過剰」(51.6%)を大きく上回り、賃上げに積極的である傾向がみられた。しかし、企業からは「労働力不足は顕著であり、賃金を上げないと人員の確保は厳しい」(一般貨物自動車運送、茨城県)などの声に加え、「賃金を上げたいが、材料値上げ分の価格転嫁も出来ないうえに人件費分の価格転嫁を認めてくれない取引先があり、なかなか難しい」(メッキ板等製品製造、山口県)、「大手を中心にベースアップが相次いでいるが、中小企業には逆風」(鉄骨工事、茨城県)など、賃上げの実施に難しさを感じている声が多く聞かれた。

2024年度の賃上げ実施見込み割合(正社員)

まとめ:人手不足が際立つ業種では改善の兆候みられず 賃上げによる人材獲得競争はさらに激化か

 新型コロナウイルス感染症の「5類移行」により経済の正常化が進んだ2023年は人手不足の高止まりが続いたが、正社員・非正社員ともに2024年も同様の傾向で推移することが見込まれる。なかでも、ITエンジニア不足が顕著な情報サービス業や、「2024年問題」が懸念される業種ではさらなる上昇も見られ、今後さらに人手不足が深刻化する可能性がある。

 また、人手不足を感じている企業ほど、2024 年度の賃上げを実施見込みであるという傾向が表れた。一方で、原材料・エネルギーなどのコスト高騰も重くのしかかるなか、賃上げが難航しているという声も寄せられている。そうしたなかで、同業他社の動向なども考慮しつつ、どのように賃上げを行い人材の定着・確保へとつなげられるか、企業は人手不足解消に向けた重要な局面に立たされている。

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