スタジアムは「巨大パブ」サッカーとビールを愛するイギリス人サポーターはとにかく熱い! 世界最高峰のプレミアリーグ、チケット入手と楽しみ方

試合前のアーセナルのホーム、エミレーツ・スタジアム=2023年8月、ロンドン(共同)

 最高峰のプロサッカーリーグ・イングランドのプレミアリーグは、世界的に人気が高くチケットの激しい争奪戦が繰り広げられる。強豪チーム同士の対戦や同じ街のライバルが対戦するダービーマッチといった注目カードは販売開始直後に売り切れる。今シーズンは遠藤航選手が所属するリバプールや冨安健洋選手のアーセナルが首位を競い、日本からの注目度も高まっている。

 ロンドン駐在になって3年間、私は休暇を使って各地のスタジアムに足を運んできた。プレミアリーグを観戦してみたいと思っている日本のサッカーファンにチケットの入手方法や試合の楽しみ方、サポーターの熱狂ぶりを紹介する。(共同通信ロンドン支局=宮毛篤史)

 ▽チケット入手は会員登録が必須
 プレミアリーグは20チームが参加し、各チームは8月から翌年5月のシーズンにホームとアウェイの計38試合を戦う。国内カップ戦やチャンピオンズリーグなど欧州大会を含めると試合数はもっと多いが、注目度の高い試合のチケットは年間数千円から1万円程度かかるクラブの有料会員にならないと入手は困難だ。

 スタジアムが小さい中小クラブも多い。2023~24年シーズンに下部リーグから昇格したルートンの収容人数は1万人しかない。ロンドンを拠点とする強豪チェルシーであってもスタジアムは約4万人で、Jリーグのアルビレックス新潟(約4万2300人)より少ない。

約6万2000人を収容するトットナム・ホットスパー・スタジアム=2月、ロンドン(共同)

 ▽憧れのトットナム
 私はロンドン北部の「トットナム・ホットスパー」の会員になった。ポール・ガスコイン選手や、Jリーグの名古屋グランパスエイトにも所属したゲーリー・リネカー選手といったイングランド代表のスターが活躍している姿を学生時代に見て、憧れの存在だった。イギリスのスポーツブランド「アンブロ」の白のユニホームも好きだった。

 2023~24年シーズンは、成人男性で55ポンド(約1万円)の有料会員「ワンホットスパー・プラス」に入った。通常の「ワンホットスパー」より10ポンド高いが、プラスの会員には1日早くチケットが優先販売される。

 チケットは年間契約以外の席が販売される。試してみた限り、今シーズンはプラス会員向けの販売で売り切れが続出した。通常は午前10時から専用サイトで販売される。早い者勝ちのため、見つけた席をすぐに買い物かごに入れないと一瞬でなくなる。クリックを押す人さし指の瞬発力が問われる。

バイエルン・ミュンヘンに移籍した元トットナムのFWハリー・ケイン選手の壁画=2月、ロンドン(共同)

 ▽有料会員でなくても購入できる特別席も
 チケットが完売となった場合、急な用事などで行けなくなった年間シートの会員が再販する「リセールチケット」を探す。タイミングと運が良ければ、スタンド最前列の席を手数料込みで100ポンド(約1万9000円)程度で確保できることもある。

 ロンドンの街中を歩くと「チケットあります」とうたう店がある。チケットを販売する非正規サイトも。しかし、プレミアリーグは公式サイトで「必ずクラブから直接購入しなければならない」と、正規ルートや提携先を通じての入手を呼びかけている。リーグ側は入場できない場合があると警告しており、周辺で実際に入れなかったケースもあると聞く。

 ただ、アーセナルは優勝争いをするここ最近は有料会員であっても入手が極めて困難で、ファンの間で不満が高まっている。今シーズンは抽選制を採用したが、ダフ屋1人で何十口も会員登録するので太刀打ちできない。

 価格は高いものの、有料会員でなくとも購入できる「ホスピタリティー」と呼ばれる特別席もある。試合前に選手を間近で見られたり、個室を利用しピッチ全体を見渡せたりする特等席で、食事やアルコール飲料が提供される。

 例えば、マンチェスター・シティーのホーム試合では、市内のレストラン代を含む3月のアーセナル戦で、大人1人399ポンド(約7万4000円)というプランがあった。

マンチェスター・シティー戦で競り合うリバプールの遠藤選手(左から2人目)=3月10日、リバプール(ゲッティ=共同)

 プレミアリーグと比べ、イングランド代表のチケットは意外にも手に入れやすい。3月にロンドンのウェンブリー競技場で開催された親善試合では、対ブラジル代表戦は会員向けセール期間中に完売となったが、対ベルギー代表戦は開催数日前まで売られていた。値段も手ごろで、家族席だと親子4人で80ポンドもかからない。

 ▽地元ファンは早めにスタジアム到着
 スタジアムには早めに到着するのをおすすめする。日本のように時刻表通りに電車が動くとも限らず、賃金や待遇の改善を求めるストライキが頻発している。A4サイズより大きな荷物は持ち込めないことが多い。

 多くのイギリス人は早めに来て、スタンド外でビールを飲んでいる。フーリガン対策のために導入された法律により、座席では観戦中にアルコール飲料を飲めない。プレミアリーグの試合を見ていて試合開始後に「あれ?なんでこの好カードでこんなに席が空いているのだろう?」と不思議に思うことがあったのだが、スタジアム内で飲んでいるためだ。前半終了前の40分ごろになると席を立つビール好きが増える。スタジアムは巨大なパブのように思えてくるほどだ。

ロンドンのウェンブリー競技場でビールを注文しようと列に並ぶサポーター=2月26日(競技場提供)

 ▽熱い地元サポーター
 イギリスのファンはとにかく熱い。そして、やじがすさまじい。応援歌を大声で歌い、シュートチャンスには「シュウ!」と監督のように指示を飛ばす。ミスを恐れた安易なパスを出すと、応援するチームだろうと罵声を浴びせる。

 当然ながら、相手チームに容赦はしない。「Fワード」と呼ばれる公共の場で通常使ってはいけない言葉を多用する。相手チームのファンと接近した席では、試合そっちのけでののしり合う。もめ事を求め、あえてここに座る人もいるという。

 私が観戦したある試合では、応援歌を全力で歌ってくる相手チームのサポーターに対し、数人の中年男性が立ち上がり、満面の笑みで、オーケストラの指揮者のようにタクトを振るう様を演じていなしていた。

 冗談好きなイギリス人のサッカーファンがブラックユーモアを交えて相手と掛け合う行為は「Banter(バンター)」といい、観戦の一つの楽しみだ。ただやり過ぎはいけない。ある中年男性が、不適切な身ぶりをしたところ相手がヒートアップし、警備員が止めに入った。男性の家族も「パパやめて」とたしなめていた。

 口が悪いのは大人だけではない。ピッチ上で倒れている選手がいるのを見て「ヘイ、ボーイ!そんなに寝たかったら家に帰ってベッドで寝てろ」と、叫ぶ小学生とおぼしき少年もいた。

 試合終了後は選手のサインなどを期待して「出待ち」するファンもいる。スタジアムにしばらく居座り、ビールを飲むファンの姿も。スタジアム近くのパブは満席になり、サッカー談議に花を咲かせる。イギリス人サポーターはこよなくサッカーとビールを愛していると実感する。

トットナム・ホットスパー・スタジアムの周辺で、試合後に選手が出てくるのを待つサポーター=2023年4月、ロンドン(共同)

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