【今週のサンモニ】サンモニならではの否定とデマ|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。

30代が経験論でバブルを語る?

2024年2月25日の『サンデーモーニング』のトップニュースは、日経平均の株価が34年ぶりに史上最高値を更新したというニュースでした。もちろん、『サンデーモーニング』のことですから、このニュースを終始否定的に報じています(笑)。

岸田首相:いま日本経済が動き出している。心強く思いますし、力強さも感じているところです。

アナウンサー:一方で街の声は
飲食店経営(50代):どうなのかなっていう不安の方が大きい。いつ落ちるんだろうという
公務員(30代):またバブルみたいに弾けちゃうんじゃないかな
会社員(50代):どこか自分とは違う世界というか、マネーだけが盛り上がっているというのかな
アナウンサー:今の株価高への警戒感でした。

いつものように番組は、番組の論調に100%合致するシニカルな発言だけを街の声として紹介しました。

そもそも34年前のバブル崩壊時の状況を知る由もない30代の公務員が「またバブルみたいに弾けちゃうんじゃないかな」と経験論で語っているのは、無理やり感満点です(笑)。

おそらく、これらの回答には【黙従バイアス acquiescence bias】という認知バイアスが作用していることが考えられます。一般に、アンケートの被験者は、質問に含まれた暗示を肯定的にとらえて回答する傾向があります。

例えば、街角でインタヴューを受ける人は、テレビのレポーターの質問から「求めている回答内容」を察知し、その論調に合った回答をしてしまうのです。多くの場合、編集映像の街角インタヴューは、番組がどのような意見を結論とするかの伏線と言えます。今回もそうでした。

「歪んだ株高」

アナウンサー:日本銀行の植田総裁は…
日本銀行・植田和男総裁:日本経済はデフレではなくインフレの状態にある。雇用賃金が増加する中で物価も緩やかに上昇する好循環が強まっていくと考えています。
アナウンサー:デフレからの脱却を目指してきた中で、それが実現し、今後賃金も上昇していくと自信を見せました。ところが…
会社員(20代):まだちょっと信じられない。数値だけじゃなくて、実生活でも体感できるようなことがあれば嬉しい。
公務員(30代):30ちょっと生きてますけど、すごく景気が良かったことがないので、景気が良くなると言われても
アナウンサー:歴史的な株高の中で、生活が潤う実感は拡がっていません。

さすがは『サンデーモーニング』、しっかりと植田総裁の前向きな声を、街の後ろ向きな声を使って否定しています。まるで、日本の景気が良くなって人々の生活が潤うことに警戒感を持っているかのようです(笑)。

ちなみにサンモニの番組視聴者は、岸田首相や植田総裁のような権力者の意見よりも、番組が紹介するような庶民の声を信じます。なぜなら、番組視聴者は、【格言に訴える論証 appeal to aphorism】によって紹介される「権力者は必ず腐敗する」という格言を常日頃擦り込まれているのと、【彼がそう言っている論証 ipse dixit / he, himself, said it】によって紹介される「口コミ」を信じるよう教育されているからです。

さて、この話題にコメントを発したのは、我らが寺島実郎氏です。

寺島実郎氏:整理しておくと、「歪んだ株高」だということをしっかり見抜かなければいけない。

相変わらず、意味深な【換喩 metonymy】を口にする寺島氏ですが、「歪んだ株高」という表現はその通りだと思います。

日本経済のマクロ指標は低調であり、実体経済と金融経済は乖離しています。円が弱すぎて輸出企業の株がお手頃なのと、中国からの資金の移動によって「歪んだ株高」が発生しているのが現状です。日銀が金融緩和をやめるタイミングで、歪が一気に解消されて負の影響が発生する可能性はあると思います。

投資は金持ちだけの専売特許ではないのに……

寺島実郎氏:何よりも重要なのは、「経済」という言葉は「経世済民」という言葉から始まったので、民が潤っているのかということが一番経済にとって大事だ。ところが、実質賃金は落ちている。もっと言うならば、「株高」と言うが、個人株主の持っている株の3分の2は高齢者が持っている。若い人なんか、株が上がったからって何のプラスにもならない。我々は実体経済と金融経済が乖離を起こしているなかに、現象としての株高が起こっているんだと。大事なのは、本質的な意味で日本の産業力とか技術力とか生産性を高めていく議論に戻さなければいけない。マネーゲームの話で興奮していてはいけない。

本当に残念なのは、マスメディアがバブル崩壊以来、「投資」という資本主義経済を成長させる重要かつ正当な行為を「マネーゲーム」という名で悪魔化してきたことと、賃金所得だけが真っ当な収入であるかのように、マスメディアが日本国民を洗脳してきたことです。

「株を持っているのは一部の悪徳な金持ちだけ」という歪んだ倫理観を視聴者に擦り込み続けた『サンデーモーニング』はその総本山と言えます。投資は、けっして金持ちだけの専売特許ではありません。

結局、その洗脳の結果、バブル崩壊から一気に株価が上昇を続けたアベノミクスという低リスクの官製相場期に個人投資はほとんど進まず、日本国民はみすみす利益を外国人に持っていかれました。本来利益を享受するに相応しい日本国民が、その利益を十分に享受できなかったことは残念というより他にありません。

非武装中立は明確な幻想

さて、話題は変わって、自公の武器輸出に関する議論に対し、この日も目加田説子氏が噛みつきました。

目加田説子氏:公明党のホームページを見ると、福祉の党であると同時に平和の党と書いてある。であるならば、殺傷能力の高い兵器である戦闘機の輸出を一度認めてしまえば、なし崩し的にありとあらゆる兵器をどんどんどん輸出できるようになってしまうのではないかと。(中略)
戦後の安全保障政策を根底から覆すものだ。もっと時間をかけて国民に説明して、公明党も平和の党であるというのであれば、共同開発を含めて、そもそもやるべきなのかということを含めて、きちんと自民党を説得して欲しい。

目加田説子氏

毎回繰り返しますが、中露北という日本と国境を接する軍事国家が、軍事を拡大している中、日本国民の命と財産を守る日本の【安全保障 security】【安全確保 safety】のために、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、自由と民主主義という価値観を共有する国々との間で、戦争の抑止と防衛に欠かすことができない防衛装備を徹底した管理の下で共有することは、平和の実現に極めて重要です。

目加田氏のような非武装中立は明確な幻想であり、国民の生存権を奪いかねません。

そもそも武器輸出禁止は、1960年代の佐藤内閣と1970年代の三木内閣が原則的な考え方を示したものであり、武器輸出を法的に禁止するものではなく、このことを議論することは、戦後の安全保障政策を根底から覆すものではありません。

また、覇権国家の武力の時間的変化に対処可能なように原則を合理的に修正していくことは、国民の生命と財産を守る責任がある主権国家として当然の責務です。これを「なし崩し」と決めつけるのは、無条件に覇権国家に与するものです。

安保法制の議論の時にも、『サンデーモーニング』は「なし崩し」を連発し、「安保法制が成立すれば、日本はいつでもどこでも米国と一緒に戦争できる国になる」ととんでもないデマを流していました。本当にいい加減にして下さい。

関口宏氏の後任司会に最適なのは……!?

ところで、ロシアのウクライナ侵攻が2年を経過したことをめぐり、番組はウクライナの世論調査を報じました。

<現実的な戦争の結末は>
■領土を失っても現状で集結
6%‘(22年5月)→19%(今年2月)
■クリミア含め全領土回復
61%‘(22年5月)→52%(今年2月)

これをうけて、松原耕二氏は、次のようなかなり踏み込んだ問いかけを行いました。あえて全文を文字起こしさせていただきます。

松原耕二氏:ウクライナをめぐる数字(上掲)は1年前とは状況が様変わりした。ウクライナの人々の気持ちも本当に変わってきている。疲れているということだろう。我々の番組(BS)でもいろいろウクライナを取材して、そう思う。

ただ、まだ多くの人、7割くらいの人が「あくまでロシアに対して戦う」と言い続けている。「ウクライナの領土の2割をロシアに占領された形で停戦をするのか」という問いに対して、彼らはNoと言っているわけだ。それはなぜかというと、プーチン大統領の戦争目的が、領土ではなくて、あくまでもウクライナを屈服させて属国化することであるからだ。ずっと言い続けている。これでもし停戦にしても、終わらない、まだまだこれが続く、力を貯めてまたロシアがやって来るということをウクライナの人がわかっているからだと思う。

確かに犠牲がこれだけ増え、やめて停戦になって欲しいと思う。だけど、侵略された国が「まだ戦う」と言っているという状況の中で、それは確かに「もうやめよう」とは言えない気持ちも一方ではある。心配なのは、これでまたプーチン大統領が、勝利という経験を得た時に、「やっぱり力がある人間が世の中動かせるんだ」と、イスラエルもそういう状況になりつつあるが、力ずくで世界を動かせる第二次大戦の時代が戻ることを我々は受け入れられるのか。

そこが本当に我々に突き付けられていると思う。

これは、自由と民主主義の見地から、危害を加えられたウクライナ市民に寄り添って、その意志を尊重し、けっして安易に不戦を求めない責任ある問いかけであり、これこそがリベラリズムの神髄であると考えます。松原氏は言う時は言います。

ちょっと私見をバラせば、松原氏こそ『サンデーモーニング』司会の関口宏氏の後任に最適であると以前からずっと思っていた次第です。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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