焦点:希望見えないウクライナ難民、ホームレス化する人も

Elizabeth Piper

[ハットフィールド(英イングランド) 23日 ロイター] - およそ2年前、ロシアとの激戦で廃墟と化したウクライナの都市マリウポリから逃れてきたミラ・パンチェンコさん(55)は、英国に到着すると、これで数カ月にわたる避難行にようやく終止符を打ち、落ち着ける場所が見つかったと胸をなでおろした。

ところがその後4回も引っ越しを強いられた彼女はついにホームレスとなり、将来が見えなくなっている。彼女には帰る場所もない。住んでいたマリウポリの集合住宅はロシア軍の爆撃で崩壊してしまった。

ロンドンの北約29キロにあるハットフィールドで、YMCAが運営するシェアハウスに一時受け入れてもらっているパンチェンコさんは、自身が英政府の意のままになってしまう境遇に置かれた感じがすると漏らす。

「英政府は戦争が終わればいつでも私に『さようなら』と言える。その時私はどこに行けばいいのか」と問いかけた。

これはパンチェンコさんだけの話ではない。赤十字の調査では、英国で暮らすウクライナ人は他の世帯に比べてホームレスになるリスクが4倍も高いことが分かる。また20万人を超える在英ウクライナ人の一部は、果たして長期的な定住を許可してもらえるのかどうか心配している。

欧州と米国、カナダは、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻から2年が経過した今なお、合計で600万人超の避難民を国内に抱えており、彼らの支援にかかる負担と今後の対応をどうするのかは共通の問題と言える。

各種世論調査に基づくと、ウクライナ人には非常に深い同情が寄せられている。しかし戦争の終わりが見えない中で、短期的な支援措置を講じてきた各国はその費用が想定よりもずっと大きくなり、足元では支出が抑制されようとしている。

英国は新たに入国するウクライナ人の当初滞在可能期間を18カ月と従来の半分に短縮したほか、ウクライナ人が英国内の親族に身を寄せるのを認める制度を打ち切った。

自治体が難民支援に動く際に交付する補助金も削減。これは英国だけでなく複数の東欧諸国も実施しており、アイルランドも検討しているところだ。

ウクライナからの難民約100万人を受け入れているポーランドは今月、福祉手当ての適用を延長したものの、期限は6月までにとどめた。欧州連合(EU)の指針では加盟国は来年3月までこうした手当てを継続しなければならないと定められているが、ポーランドは6月以降、支給額を減らす可能性を示唆している。

<帰る家がない>

英内務省は先週、既に滞在中のウクライナ難民に対して18カ月のビザ(査証)延長を提示したものの、彼らが最終的に帰還してくれるというウクライナ政府の希望を後押しするとも説明した。

だがパンチェンコさんはマリウポリに戻っても住む家がない。彼女はここハットフィールドで生活し続けたいと考えている。

ウクライナの家を失ったり、出身地がロシアの占領下にあるウクライナ人は「英国で社会の役に立ちたい思いがある」という。

占領下のマリウポリから逃げ出したパンチェンコさんはごく短期間イタリアで過ごしてから英国に渡り、最初はウクライナ難民受け入れプログラムに応募した家庭が提供してくれた部屋に入った。すぐにもっと自由に動ける環境を求めて奔走したが、手頃な価格で入居できる家は見つからず、しばらく友人の家を転々とした後、結局ホームレスになった。

公式データによると、1月末時点ではウェルウィン・ハットフィールド地区でウクライナ人の19世帯と9人の単身者が支援対象のホームレスとして登録されている。

英国の自治体がウクライナ難民を3年間にわたって面倒を見るために政府から交付される補助金は23年1月以降、当初の1人当たり1万0500ポンドから5900ポンドに減額された。アフガニスタン難民支援の補助金は1人当たり2万ポンド超だ。

自治体政府の連合組織の広報担当者は、以前に想定していたよりも支援期間が長くなったことや、他の国・地域からの難民支援との重複や住宅不足といった事情が、ウクライナ難民のホームレス増加につながっていると指摘。自治体の難民支援のための資金手当てを緊急に考え直す必要があると訴えた。

英政府高官の1人は、ウクライナ人のホームレスを防ぐため今年追加で1億0900万ポンドの予算を計上したと説明。住宅・地域社会省は、自治体がウクライナ難民とアフガン難民などのために住宅を建設ないし買い取るのを支援する目的で、26年までに12億ポンドを供与する方針も示した。

また同省は、ウクライナ難民受け入れプログラムに応募してくれた家庭への毎月の支給額についても、生活費増大を踏まえて350ポンドから500ポンドに引き上げたとしている。

ただある政府高官の話では、当初の熱気が薄れた今、受け入れプログラムの応募件数は大幅に減ったという。

英国国家統計局が昨年10月に公表した調査では、ホストファミリーの3分の2は生活費が増えたことで支援能力が低下したと回答。18カ月かそれ以上の期間受け入れるつもりと答えたのは全体の半分強にとどまった。

ドイツでも難民受け入れ負担が大きくなっている。最近では地方政府の連合組織トップが、連邦政府からウクライナ難民により手厚い失業手当ての支給を求められていることを巡り、今後のウクライナ難民が受け取る手当ては他の難民並みにするよう要望した。

<進退窮まる>

英政府は今月17日、当初3年とされた有効期限が来年切れるウクライナ難民について、期限を18カ月延長できると表明した。

ウクライナで戒厳令が敷かれる前に逃げてきたボロジミル・ホロバチョフさん(31)は、歓迎すべき対応だが、延長の申請は期限終了の3カ月前からで、英国で定住する道も提供されていないと困惑する。

家主や雇用主は難民の法的地位が保証されるのを望んでいるので、今後どうなるか分からない状態になるのは問題だ、とホロバチョフさんは指摘。「われわれに必要な期間『働ける権利』や『家を借りられる権利』があるとどのように証明できるのかが目先はっきりしなくなっており、それがなければ家主や雇用主の言いなりになるしかない」と述べた。

パンチェンコさんにとっても、英国から追い出されるのではないかとの恐れを打ち消すための手立ては乏しい。

もし定住できる手段が提供され、年金積立金を支払うことができて、ずっと働き、勉強し、生活する権利が得られていれば、今とは違った人生になっただろうと考える彼女は「ずっと不安ばかりだ。私には故郷に戻っても何もない。スーツケースを持ち、豊かなイングランドを離れて、どこに向かうのだろうか」と口にした。

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