【インタビュー】お風呂でピーナッツ、トラップとハウスとJ-POPの斬新な融合に「今、本当にやりたい音楽を」

新しい曲が出るたびに、その音楽性の幅広さと深みに驚かされ、その純粋さと冒険心に胸が熱くなる。お風呂でピーナッツが2月7日、デジタルシングル「擬態」を配信リリースした。

人気モデルとして世界を駆け廻る樋口可弥子、コンポーザー&ギタリストとして多方面で活躍する若林純のユニット、お風呂でピーナッツの新曲「擬態」。スマッシュヒットを記録した前作「エンドレス」の'80年代テイスト満載のレトロポップな世界観とはまったく違う、今度は最新型トラップとハウスとJ-POPとの斬新な融合だ。二人が目指す“今、本当にやりたい音楽”とは何だろう? ロンドンの樋口と東京の若林をリモートで繋ぎ、今の心境を語ってもらった。

◆ ◆ ◆

■今回は歌とサウンドを並列にして■やりたいことをやらせてもらった

──曲の話をする前に、1月6日の自主企画イベント<スーパー銭湯ライブvol.3>を振り返らせてください。どうでした?

樋口:共演者の3組の方々が、本当にいいエナジーがあるパフォーマンスをしてくださって、一観客としても楽しかったですし、毎回<スーパー銭湯ライブ>は4組ぐらいでやっているんですけども、同世代の別々のエナジーが一斉に集まってあの時間を作り出すということが、自分的には熱かったですね。そういう場所に参加できたのが、本当にありがたかったです。

若林:当日になって、Khamai Leonのメンバーが体調不良で参加できなくなって。「どうしよう?」ってなった時に、お風呂でピーナッツのゲストとして参加してくれる予定だったKingoに「バンドで出れる?」って電話したら「いいよ」と言ってくれて。ぶっつけ本番でメンバーに集まってもらって、バンドセットでやってもらえたので。良かったなという安心感と、もちろんKhamai Leonと一緒にやりたかったなという思いと、あとは会場が今までよりも少し大きくなったので、スカスカにならないかな?という不安と、当日はいろんな思いがあったんですけど、ありがたいことに、ギューッていう感じのお客さんの集まり方をしていただいて、すごく安心したというか、聴いてくれてる人がいるんだなということを実感できた日になりましたね。あと、久しぶりにデュオで演奏したのが良かったですね、個人的には。

樋口:良かった。最後にいつやったか覚えてないですけど、バンドセットでのライブで 1曲だけデュオでやるみたいなことも、あんまりなかった気がするので、それもすごく印象的でしたね。年齢や経験は確実に変化しているんですけど、4年前と同じ曲で同じ状況でやっていると、比較がしやすいじゃないですか。変わらないものと変わったものが、すごくきれいにテーブルの上に並んだ感じがあって、振り返るという意味でもこれからを考えるという意味でも、すごく大事な瞬間だったなと思います。

若林:可弥子が言ったみたいに、変化した感覚はすごくあって、お客さんは確実に増えているはずなのに、リラックスしてできた感覚が自分の中にはあって。年1回の、現在地の確認みたいなイベントでしたね。そして集まってくれてるメンバーも年々、たとえば<スーパー銭湯ライブ>の第1回目にはさらさちゃんがいたりとか、出演してくれた人たちもその後どんどん規模感が大きくなって、みんなすげえなっていうところにも刺激を受けるし、これからも大事にしたいイベントですね。

──そして、そのライブでも初披露した「擬態」が2月7日にリリースされました。前作「エンドレス」の'80年代歌謡曲っぽい作風とはまた全然違う、でもめちゃくちゃカッコいい曲。

若林:ありがとうございます。

──これはどんな狙いで、どんなふうに作った曲ですか。

若林:去年夏にレコーディングしたんですけど、最近作っていた曲は歌をすごく大事にしていて、歌の伴奏としてバックサウンドがあるという感覚がけっこう強くあったんですけど、今回は歌とサウンドを並列にして、やりたいことをやらせてもらったという感覚ですね。だから可弥子は、俺のやりたいことに今回はちょっと付き合ってもらったみたいな感覚もあるかもしれない。

樋口:いや、私的には“ずっとやってみたかった曲ができた”みたいな感じで、かなり楽しかったですね。今までの「秋」とか「エンドレス」は、すごくわかりやすい歌ものではあったんですけども、「擬態」はトラックがすごくしっかりしていて、その一方でメロディラインもすごくきれいに、体に馴染みがいい質感のメロディだと思うので、メロディを捨てずにサウンドとうまくバランスを取っている感じが私はすごく好きです。

──これって、ジャンル感で言うと、何になるんですかね。スネアのどっしりした感じと、ハイハットは倍のテンポで、トラップっぽい感じもあるけど、ちょっとうまく表現できなくて。

若林:いや、わかります。ジャンルのルーツで言うといろいろあって、ビート的にはトラップビートも入っているんですけど、Bセクションにはハウスっぽい要素も入れていたり、でも根本にあるのはJ-POPですね。自分の世代なのかもしれないですけど、ジャンルでは聴いていなくて、音楽の要素をつまみ食いしてきたところから出てきた曲かなとは思っていて。だから、カテゴライズするのはすごく難しいですよね。

──決して難しい曲じゃないんだけど、何って説明しろと言われると困っちゃう。

若林:そうですね。でも根本はやっぱり、ボーカルがあってのJ-POPというのはすごく思っていて、その中にどうやっていろんな要素を入れていくか?みたいな感じですかね。この曲は、ドラム以外の打ち込みとギターは全部自分がやっていて、ドラムはコニシセイアちゃんに叩いてもらっているんですけど、全部を流れで録ったわけじゃなくて、素材を録って使わせてもらう、打ち込み的な作り方をしているんですよ。この曲に関しては、あまりプレイヤーに委ねるところがなくて、ほとんど自分がパソコンでこねくり回して作った感じです。「秋」とか「エンドレス」は、レコーディングの現場でプレイヤーに任せて、いいものが出て来て曲になっていった感じなんですけど、今回は設計図があって、セイアちゃんに乗っかってもらって可弥子の歌が入って、歌い方のニュアンスを踏まえてさらに曲が変わっていく、という流れでした。コーラスとか、後付けなんですよね。

樋口:最初はもっと、何も付いているものがない状態でもらったんですけど、若林くんのやりたいことがわかる状態ではあったので、レコーディングの時に困ったとか、そういうことはなかったです。実は当日、私の体調が悪くて、明らかに体調が悪い声なんですけども、曲的にはその日のコンディションが合っていたのかな?と思うし、偶然の産物かなと思ってます。

■これを言うのは恥ずかしいけど■モデルの仕事ってそのまんまそう

──新曲「擬態」は、歌詞も若林さん。どんなイメージで書きましたか。

若林:今回は明確なテーマがあって、それもアレンジに迷わなかった理由かなと思うんですけど、ちょうど読んでいた本にすごく刺激を受けて作った曲で、その本が“懐疑論”について書かれたもので、直接的に“擬態”というテーマに繋がっていくんですけど。内容を自分の解釈で言うと、どんなにコミュニケーションを取っていても、人の中には疑う気持ちが常に消えないということと、生きていく中で“演じる”ということを誰もがやっていて、意識していてもしていなくても“演じる”ということがずっと続くという、そういうことが書いてあって、そこから歌詞を書いたという感じです。今までそういうことは少なくて、内側から出てくる歌詞が多かったんですけど、今回は初めてそういう書き方をしてみました。

──実体験というよりも、哲学的というか、分析的というか。

若林:まぁそうなんですけど、でも日常との繋がりはすごくあるし、その本を読んだ時に自分の中で“そういうことってあるよな”という、今まで自分が体感してきたことを言語化してもらった感覚があったので、それが曲のテーマにも合っていて、そこからふくらませて作っていきました。今回はジャケットワークにもこだわって作ったんですけど、チェスがモチーフになっているんですよ。

──そうですね。白と黒のチェス盤があって、ギリシャ彫刻のような駒が二つ。

若林:それはアーティストのHideoくん(Hideo Daikoku)という人とやり取りする中で、彼が持ち出してくれたテーマなんですけど、チェスもお互いに演じ合って、動き合ってするゲームだし、すごくうまく表現してくれたなと思ってめっちゃ気に入ってます。今回はいろんなものがガチっとはまって、すごく気に入っているんですよね。この作品は全部ブレなかったです、作っている中で。

▲デジタルシングル「擬態」
──樋口さんは、今の若林さんの頭の中のイメージを聞いて、どんなことを思いますか。

樋口:すごく共感するところが多いです。私は防衛本能が強いタイプの人間なので、小さな要素からも不安を感じ取っちゃうし、それを予防するためにうまく立ち回るみたいなところは、常々やっているなと思うんですよね、人と関わる時に。だからあんまりフルタイムで人と一緒にいれないタイプというか。演技というと大げさな気がしますけども、そういうところはあるので、たぶん人とコミュニケーションを取る上で、平均よりは先回りして考えるタイプのような気がするし。あと、この曲を歌いながら重ねていたのが…これを言うのは恥ずかしいけど、モデルの仕事ってそのまんまそうだなと思って。どこか演技しているところはすごくある職業でもあると思うし、リアリティから逸脱した姿で世の中に出る作品というものを仕事にしているので。すごく自意識過剰だとは思うんですけど、私がこれを歌っているのを聴いたら“モデルのことについて言ってるのかな?”と思う人もいるのかなとか思いながら、それは歌詞がどうとかじゃなくて、私が自意識過剰すぎて、ちょっと気恥ずかしくなってしまった部分はあります。これも一種の“演じる”行為なんだろうなと今思ったんですけど、たぶん私は“こう見られたい”像というものがすごく強くあって、そこに向けてどういう要素を出していくか?みたいなところに気を遣ってしまう人間なので。歌詞もしかりで、自分が発するものがどうとらえられるのか、めっちゃ先回りして考えちゃう癖があるので、今“繋がったな”と思いました。

──そこまで読み通して曲を作ったわけですね。若林さんは。

若林:どうなんでしょう(笑)。

樋口:絶対違うと思う(笑)。でも、今の若林くんの本のお話は聞いていなかったので。…普段から歌詞のこと、話さないよね?

若林:話さないね。

樋口:私の場合、急に思春期の子供みたいな気持ちになっちゃうんですよ。自分のものを提出する時も、相手のものを見る時も“ふーん”みたいな感じで、あんまり深入りしないですね、いつも。

若林:今、話しながら思ったのは、あらかじめ共有はしないですけど、俺が歌ってもらいたいニュアンスに対して大きくずれることが今までなかったから、説明していないのかなと。この曲も、全然違う歌い方で来ちゃってたら、説明していたかもしれないんですけど、説明がなくても何か共通の認識は持てているのかな?と思います。そうだし、説明するのは単純に恥ずかしいということもあるし。

樋口:みなさん、話すものなんですかね? 自分の歌詞を説明するのって、けっこう恥ずかしくないですか? 特に、身内に説明するのが恥ずかしいんですよね。こうやってインタビューの場とかで聞いていただく時は、パッケージ化されたストーリーとしてお伝えできるけど、身内で伝えるとなると、私生活のこととも繋がっちゃいそうな感じがあって、ちょっと恥ずかしいのかもしれない。

若林:だからお互い、毎回インタビューしていただいてる時間に、“そうだったんだ”という発見が(笑)。

樋口:めっちゃあります。

──そう言ってもらえると、こっちもやりがいがありますね(笑)。

若林:ありがたいです。

──でも今回の曲は、本当に面白いですよ。「エンドレス」は聴いた瞬間に一発で伝わるキャッチーな曲でしたけど、「擬態」は最初は心地よさと共に謎めいたものを感じて、なんだろう?って聴き込むと細部の音像からいろいろなものが浮かび上がって、歌詞もいろんな解釈ができて、長く楽しみがいのある曲という感じがします。さぁ、ここから始まるお風呂でピーナッツの2024年、今年はどんなふうに活動してくれますか。

若林:今年は純粋に音楽を楽しみたいなという、シンプルな気持ちがありますね。最近はギターを弾いたり、音楽を聴いたり、曲を作るのがすごく楽しくて。去年は楽しいと思う前に“どうやったら聴いてもらえるかな”とか、そういうものをけっこう考えたし、それはこれからも大事にしたいんですけど、今はそれよりも“この音楽って楽しいよね” “俺ってこういうの好きだよね”みたいなことを大切にした活動をしたいなと思っています。

──いいですね。よりシンプルに、自分の心に忠実に。

若林:友達に言われたりとか、作ってきた曲もそうなんですけど、自分のルーツとして、ポップなものを意識しなくてもポップから離れることはたぶんないなということを、すごく感じた2023年でもあって。「擬態」も、ある意味J-POPとして聴き馴染みがある中での自由とか、攻めた部分が入っているのも、そこに繋がるなと思っていて、本当にやりたいことを純粋にやった感覚があるんですね。それが伝わっている感覚もすごくあるので、本当に好きなものをまっすぐやっていこうかなと思うし、だからこそ楽しんでもらえることもあるなと思うし、2024年はもうちょっとわがままに作ってこうかなと思っています。

■まだまだやりたいと思えることがある時点で■すごく嬉しいことだなって本当にそう思う

──樋口さんは今、自分の中で進化したい部分とか、意識している部分とか、ありますか。

樋口:私は最近やっと、海外生活が落ち着いてきたんですね。精神的にも仕事的にも、一旦落ち着いている感じがあって、フェーズが変わった段階にいるなということをすごく強く感じています。2〜3年前ぐらいに、1年半ぐらいめちゃめちゃ鬱だったんですけども、それは段階的に良くなるものだなということを最近ひしひしと感じていて、症状がひどい時は、新しい音楽がまったく聴けなくて、同じ曲しか聴けなかったんですよ。去年1年は全然元気ではあったんですけども、まだその余波があって、音楽をやらせてもらっているのに全然音楽を聴いてなかったんですよね、ここ2〜3年ぐらいは。でも最近は音楽を聴くのがすごく楽しくて、そこにかなり希望があるというか、音楽だけじゃなくてアートとか、いろんなものに新しい興味が出てきているところです。

──素晴らしい。いい時期ですね。

樋口:私は音楽に関してすごくコンプレックスが強くて。幼少期にいろんなジャンルの音楽を聴いてきたわけでもないし、楽典に触れてきたわけでもない。子供時代に何かを押さえていないともう何にもなれないみたいなことを、音楽以外でもなんでも思い込んでいたんですけど。今は視野が広がってきて、いろいろなものを吸収する土台が整ってきたことを実感するので、それがすごく楽しみです。もともとせっかちな性格で、“何かを完成させなきゃ、何かを始める意味はない”ぐらいに思っていたんですけど、“これが何かに繋がるんじゃないか”みたいなことは一旦考えずに、いろいろなものに手を出して、音楽を聴いたり、楽器に挑戦したり、ボーカルを練習してみたり、そういう心の余裕ができたことが、最近すごく嬉しかったことですね。

若林:昨年末に「ボイトレ(ボイストレーニング)行こうかな」みたいな話をしていて、それも今までなかったことだなと思うし、そんなにコンプレックスに思うこともないのにと思いつつ、でもボイトレに行ったらきっと変わることもあるだろうし、音楽のインプットを増やしたらまた変わるものもあるだろうし、また次のステップに行くための準備期間になったらいいですよね。地力をつけるみたいな。

──ジャンプの前に一旦かがむ、みたいな感じですかね。力をためておく。

若林:今までよりもライブの規模感が大きくなると、求められるものも変わってくるし。焦る必要はないですけど、お互いに地力をつけていけたらいいですよね。俺もギターレッスンに行きたいなと最近すごく思ってるし、純粋に頑張るというか、楽しめたらいいなと思いますね。

──二人から、いいヴァイブスを感じます。これからのお風呂でピーナッツ、ますます楽しみです。

樋口:まだまだやりたいと思えることがある時点で、すごく嬉しいことだなというのは、本当にそう思うので。24、25、26歳って、英語だとクォーターライフクライシスって言うんですけど、30歳前ぐらいでちょっと人生に悩み始めるみたいな表現があって、友達の話とかも聞いていると、この2年間ぐらいで社会に出て、社会にもまれて、悩みの段階が全然変わってきているというか、2〜3年前と話す内容も変わったなと思うし。そういう中で自分たちは、やりたいことや興味のあることが明確にあるタイプで、それが許される環境にいるので、恵まれているというか、すごくラッキーなことなのかなと思い始めたりしていますね。

若林:あと、今作っている曲もあるので。それもまた毛色が違う曲なので、楽しみにしていてほしいと思います。

取材・文◎宮本英夫

■デジタルシングル「擬態」

2024年2月7日(水)配信開始
配信リンク:https://ofurodepeanut.lnk.to/gitai
※ストリーミングサービスおよびiTunes Store、レコチョク、moraなど主要ダウンロードサービスにて
作詞 作曲:Jun Wakabayashi
編曲:お風呂でピーナッツ

関連リンク

◆お風呂でピーナッツ オフィシャルTwitter
◆お風呂でピーナッツ オフィシャルInstagram
◆お風呂でピーナッツ オフィシャルYouTubeチャンネル
◆DAM CHANNEL

© BARKS, Inc.