「孤独を感じる人に寄り添う作品を」シンガー・ソングライターsetaさん 芸術や文学にも秀でる創作の原点とは

個展の作品とsetaさん

個性的な高音の歌声が人気を集める岡山県総社市出身のシンガー・ソングライターseta(セタ)さん(30)=東京。NHK「みんなのうた」に書き下ろした曲でメジャーデビューし、手がけた物語が近く漫画・映画化されるなどマルチに活躍の幅を広げている。イラストレーターとしても才能を発揮し、岡山市のカフェで初個展を開催中。音楽、文章、絵と表現は異なるが伝えたいメッセージは一貫している。「人と違ってもいい。自分を認めてくれる人はきっとどこかにいるから」

「歌は自分が楽器。理想の楽器になりたいという欲求が尽きない」

世に出るきっかけとなった歌への気持ちはどこまでも真っすぐだ。3歳からピアノと声楽を習い、中学生で作詞作曲を始めた。大学進学を機に上京してシンガー・ソングライターとして活動をスタート。2016年に現在の事務所に所属し、20年に発表した「しかくい涙」が「みんなのうた」に起用された。

順調に見えた音楽キャリア。しかし、新型コロナウイルス禍で予定していたライブは白紙になり、活動が止まってしまう。歌えない日々に始めた執筆活動がチャンスを運んできた。

投稿サイトで公開した作品が映画プロデューサーの目に留まり、未発表の原作を映画と漫画にするプロジェクトに抜てきされた。書き下ろした物語は「マンガ家、堀マモル」のタイトルで5月に漫画として発売される。8月公開予定の同名の映画はエンディングテーマを歌手の槙原敬之さんが担当し、早くも話題になっている。

物語は「違和感がありながら家族や友人に合わせようとして逆に浮いていた」という子どもの頃の人間関係の悩みが創作の原点。主人公がコンプレックスを抱えながらも自分に打ち勝つストーリーに「思い切って素の自分を出し、好きなことに打ち込んでみることで、周囲から受け入れられるようになった経験を重ねている」と話す。

音楽をはじめ、執筆や絵など活躍の幅を広げているsetaさん

絵も幼い頃から好きで、高校時代は画塾に通いながら美術部に所属、大学では美術を専攻した。音楽活動ともつながっていて、歌詞のインスピレーションや曲作りのヒントを得るため頭に浮かんだイメージを指で描いている。

自身のCDジャケットに使ったイラストが評価され、21年3月には渋谷区の街中に芸能人の横顔を描くユニークなイラスト展を担当。その後も仕事の依頼が増えている。

映画化や個展といった新たな経験を経て、ものづくりの楽しさを再認識したという。「私にとってものづくりは誰かとつながるための架け橋。絵も小説ももっと勉強して表現の幅を広げ、孤独を感じて教室の隅っこにいるような人の心に寄り添い、応援する作品をより多くの人に届けたい」

初個展が国内外を巡回中

setaさんの初個展「My name is...」は国内やアジアを巡っていて、城下カフェ表町店(岡山市北区表町)では3月2日まで開かれている。

setaさんの作品が飾られたカフェ

輪郭に丸みを持たせてカラフルに描いた花束、かすれやにじみで感情の動きを表現した人の顔など独創的な抽象画9点を展観。個展を記念して会場のカフェのために絵筆で制作した作品は窓枠がモチーフで、6枚の窓ガラスに揺れるススキや金魚鉢など異なる景色を収めた。

今夏公開の映画「マンガ家、堀マモル」の主題歌を制作するために描き続けた作品が60枚ほどそろったため企画した。昨年12月にスタートし東京、京都で開催。岡山の後はタイや香港、韓国などで予定する。

setaさんは「音楽だけで伝えきれない思いを絵にしている。自由に感じてほしい」と話す。

営業時間は午前11時~午後6時(金、土曜は午後10時まで)。火曜休み。

(まいどなニュース/山陽新聞)

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