今春解禁「ライドシェア」...働く主婦の「プチバイト」運転手志望1割未満 だが、専門家が予想「体験者が増えると拡大」

一般のドライバーが自家用車を使って有料で人を運ぶ「ライドシェア」が、2024年4月から始まる。運転に自信のある人には副業のチャンスとなりそうだが......。

そんななか、働く主婦・主夫層のホンネ調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2024年2月20日、「ライドシェアの仕事、してみたいと思う?」という調査結果を発表した。

「してみたい」という主婦層はまだ1割に満たないが、興味津々の意欲はあり、拡大するかどうか、専門家に聞いた。

政府と市町村が、別々に加速させるライドシェア

政府がライドシェア導入に踏み切ったのは、都市部や観光地で曜日や時間帯によってタクシー不足が深刻化しているためだ。

一般の人が有料で客を運ぶことは道路運送法で禁じられているが、国土交通省はタクシーが足りない時に限り、タクシー会社が運行を管理し、ドライバーの勤務条件を把握することなどを条件に認める方針だ。

一方、報道によると、政府主導とは別の枠組みで、市町村が運送主体となる「自治体ライドシェア」の動きが広がっている。

「活力ある地方を創る首長の会」が2024年2月22日、5市町でライドシェアを導入すると発表した。事業を始めるのは、大分県別府市、石川県小松市、富山県南砺市、京都府舞鶴市、熊本県高森町で、ほかに20近い自治体が導入検討を始めているという。

もともと、公共運送機関が不足している過疎地では、昨年(2023年)12月の規制緩和で、市町村やNPOが実施主体となるかたちで自家用車による運送が認められたことが背景にあり、ライドシェアの動きは加速しそうだ。

さて、しゅふJOB総研の調査(2024年1月17日~24日)は、就労意欲のある主婦・主夫層536人が対象だ。

まず、「ライドシェアの仕事をしてみたいと思うかどうか」を聞くと、「してみたい」と答えたのは8.2%、「したいと思わない」答えたのは68.7%で、圧倒的に多くの人が否定的だった【図表1】。

ところが、ライドシェアの仕事の印象を、「仕事をしたい」という人と「したくない」という人別に比較すると(複数回答可)、大きな違いが出た【図表2】。

「仕事をしたい」という人では、「時間の融通が利きそう」(68.7%=仕事をしたくない人の4.6倍)、「たくさん収入が得られそう」(20.5%=同10.8倍)、「接客を楽しめそう」(22.7%=同28.4倍)、「運転を楽しめそう」(11.4%=同22.8倍)といった前向きの見方が、仕事をしたくない人より、約5~28倍も高くなるのだ。

「ご近所の役に立ちたい」「どんな客が乗るか、怖い」

フリーコメントでは、「ライドシェアの仕事をしてみたい」という人からは、こんな前向きな意見が相次いだ。

「ご近所のお年寄りや乳幼児がいる人に役にたちやすいと思う。わたしは、子育て介護が終わって時間に余裕があり、運転もよくするので、何らかの役にたてればと思う」(60代:今は働いていない)

「事前予約が第三者からできて、高齢の母の送迎がお願いできたりするなら、家族からするとありがたい」(30代:今は働いていない)

「小さな子たちの親子連れなどは、ライドシェアで主婦の方に乗せてもらったほうが安心すると思います」(40代:今は働いていない)

「田舎では、近所の方や知り合いをよく送迎するのは当たり前になっている。『タクシー代ね』と包んでいただくことも多いので、ライドシェアのシステムが高齢者にも使いやすいものなら、お互いにいいと思う」(50代:パート/アルバイト)

「身近に利用するようなエリアで、乗車地、降車地の事前予約などわかるようであれば参加してみたい」(50代:今は働いていない)

「地方は免許を返納したら足がなくなるため返納率が低いということなので、こういった制度が充実すれば、公共交通機関が不足している地域でも免許返納率が上がるのではないか」(50代:契約社員)

そして、実施するにあたり、いくつかの要望が寄せられた。

「自家用車をタクシーのように料金メーターをつけたり、運転席にアクリル板などの仕切りをしたりするための補助金制度などがあれば、もっとやりやすくなりそう」(40代:今は働いていない)

「事故や事件に巻き込まれないように、タクシーと同様の車内用カメラや、SOSの赤灯などを無償で取り付けられるようにしてほしい」(50代:パート/アルバイト)

一方、「したいとは思わない」という人からは、こんな不安の意見が聞かれた。

「自家用車を汚されたり、事故にあったりした場合のことを考えると、自分や夫はしないと思う。また、利用することもないと思う」(30代:正社員)

「父がタクシーの運転手をしていたこともあり、大変さを知っているので、簡単にはできないですが、仕事が見つからない方が簡単に始められるという意味ではよいと思います」(50代:パート/アルバイト)

「どんな人が乗ってくるのかわからないので、怖くてできない」(50代:パート/アルバイト)

「人命に関わることなので、安易に引き受けたくない」(60代:パート/アルバイト)

「プロではない分、なにか起こったときの対応を本人でやらなくてはならず、責任が重すぎる」(50代:パート/アルバイト)

家庭と両立目指す主婦層に、プチバイトの選択肢

J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。

――全国ハイヤー・タクシー連合会の「女性乗務員採用状況調査結果」によると、タクシー運転手に占める女性ドライバーの比率はわずか3.7%(2021年度)です。

そんななか、「ライドシェアの仕事してみたい」と答えた人が8.2%いたという結果をどう評価しますか。

川上敬太郎さん 「大いにしてみたい」と回答した人は1%足らずなので、積極的にライドシェアの仕事に就いてみたいという人は、ほんのひと握りのようです。

ただ、「してみたい」と答えた人と「どちらとも言えない」と回答した人を合わせると2割近くになります。ライドシェアの仕事をするか否かについて、検討する余地がある人は決して少なくない印象を受けました。

――ライドシェア解禁についてはどう思いますか。また、働く主婦層がそのドライバーの仕事をすることのメリット、デメリットは何が考えられるでしょうか。

川上敬太郎さん 利用者の利便性向上などを考えると、ライドシェアが解禁に向かうこと自体は自然な流れなのかもしれません。ただ、「事故や事件など危険がありそう」と回答している人が7割を超えているように、いまのところは安全性の確保などへの懸念の方が先に立っている印象を受けます。

また、自分がそのドライバーを務めるとなると、見ず知らずの人を乗せることへの不安や、自家用車を汚されてしまわないかといったリスクを感じている人も見受けられます。

一方で、ドライバーの仕事は、時間制約の壁と調整しながら仕事しなければならない主婦層にとって、時間の融通が利くなどのメリットがあります。「したいと思わない」人が7割近くではあるものの、家庭との両立のために就ける仕事が限られる主婦層にとって、選択肢が増えること自体は望ましいことだと思います。

――フリーコメントをみると、「してみたい」人の中に、「小さな親子連れは、主婦の運転のほうが安心」とか「ご近所のお年寄りや乳幼児のいる人の役に立ちたい」という前向きのコメントが目立ちますね。

川上敬太郎さん ライドシェアの仕事をしてみたいと思っている人は、ドライバー仕事のデメリットよりもメリットのほうに目が向いていることがうかがえます。そこに、今は懸念点のほうが先立っているものの、ライドシェア解禁が今後もたらすかもしれないポジティブな可能性が示されているように感じます。

一方、一部に海外で利用したことがある人がいるものの、多くの人にとってはまだ身近なサービスではないだけに、今後実際に体験する人が増えるにつれて、ポジティブな方向にも、ネガティブな方向にも、印象が変わっていく可能性があると思います。

未経験サービスの不安と期待、将来の拡大はこれから

――ズバリ、ライドシェアは働く主婦層に広がっていくでしょうか。また、課題として何が考えられるでしょうか。

川上敬太郎さん まだ、多くの人はライドシェアの仕事に就くことへの懸念点のほうが勝っている段階であることと、主婦層が希望する職種は圧倒的に事務職が多いことなどから、主婦層の間ですぐに一気に広がるということはないように思います。

ただ、一方で主婦層の間ではスキマ時間を有効に使ってプチバイトしたいという要望もあります。ライドシェアが生活の中に浸透していく中で安全に働ける仕事だと認識され、家事などの空き時間に仕事しやすい環境が整えば、ドライバーの仕事に就いてみたいと思う人は増えていくかもしれません。

――まだ、未経験のサービスであることが、不安材料にも、期待にもつながっているわけですね。

川上敬太郎さん はい。いまは懸念点のほうに目がいきがちの状態です。体験していない人が多いため、得体の知れないものへの不安感が積み増されている面がありそうです。しかし、実際に利用する人が増え、ライドシェアがある社会に慣れてくると、不安感の積み増しは解消されていくと思います。

しかし、事故やトラブルが実際に出てくるようになると、イメージだけで懸念していたことが裏付けられることになります。ライドシェアがこれから人々の生活の中でどのように受け入れられていくかによって、その仕事に対する印象も大きく左右されることになるのではないでしょうか。

(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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