『「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』北米No.2 イーサン・コーエン久々の新作も

北米映画市場に『鬼滅の刃』が再び帰ってきた。2月23日~25日の週末ランキングには、劇場版第4作『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』が第2位で初登場。1949館での公開ながら3日間で1157万ドルを記録し、前週に続いて首位に輝いた『ボブ・マーリー:ONE LOVE』を追いかけた。

『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』は、アニメシリーズの「刀鍛冶の里編」第11話と、2024年春より放送予定の「柱稽古編」第1話を特別上映する、テレビシリーズの劇場上映版。同一形式となった前作『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』(2023年)の北米初動成績は1011万ドルだったため、今回は前回以上のスタートとなった。

世界的人気を誇る『鬼滅の刃』は、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年)が2021年4月に北米公開され、コロナ禍で映画館の休業が続くなか2123万ドルというオープニング興行収入を達成していた。もっとも『絆の奇跡、そして柱稽古へ』が劇場用作品でない以上、同じ『鬼滅の刃』とはいえ同様に比較することは難しいだろう。必然的にファン中心の興行となることも避けられないため、2週目以降はやや大きめの下落が予想される。

大中規模の初登場作品が3本あるなか、第1位を守り抜いた『ボブ・マーリー:ONE LOVE』は、3日間で1350万ドルを記録。前週比も-52.9%と大幅下落を免れた。北米興収は7118万ドル、海外興収は4940万ドルで、世界興収は累計1億2058万ドル。製作費は7000万ドルなので、コストの回収も無事に達成されることになりそうだ。日本公開は5月17日。

第3位に初登場した『Ordinary Angels(原題)』は、ヒラリー・スワンク主演の実話映画で、キリスト教信仰に基づく人間ドラマ。猛吹雪に襲われたケンタッキー州の町を舞台に、重病を患う娘とシングルファーザーを助けるため、ひとりの美容師が地域のコミュニティに働きかける物語だ。

配給のライオンズゲートは3020館での公開に踏み切り、3日間で650万ドルを記録。興行的に十分なオープニング成績とは言えないが、製作費はかなり抑えられているというから、スタジオに甚大なダメージを与えることはないようだ。また、いわゆる「キリスト教映画」の例に漏れず、本作も高い支持を受けており、Rotten Tomatoesでは批評家スコア80%・観客スコア99%を獲得。映画館の出口調査に基づくCinemaScoreでは「A+」評価となった。日本公開は未定。

また、先日日本公開が発表された、「コーエン兄弟の弟」ことイーサン・コーエンの監督最新作『ドライブアウェイ・ドールズ』は第8位に初登場。2280館公開で240万ドルというかなり厳しい初動にはなったが、いろいろな意味で「今週最も注目したい一本」がこの映画だ。

『バスターのバラード』(2018年)を最後にそれぞれのソロ活動を本格化させたコーエン兄弟だが、兄のジョエルが『マクベス』(2021年)を手がけたのに対し、イーサンはこれが6年ぶりの映画にして自身初の単独監督作。妻のトリシア・クックと脚本・製作も兼任した。

本作は、日々の生活に行き詰まったジェイミー&マリアンがドライブ旅行に出かけたところ、謎のスーツケースをめぐってギャングに狙われるコメディロードムービー。キャストには『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)のマーガレット・クアリー、注目株ジェラルディン・ヴィスワナサンのほか、ペドロ・パスカル、マット・デイモン、ビーニー・フェルドスタイン、コールマン・ドミンゴら豪華な顔ぶれが集結した。

当初この作品は2023年9月に北米で公開予定だったが、ストライキの影響で約5カ月の延期となっていた。市場の作品不足=競合不在の状況を受け、配給のFocus Featuresは少しずつ上映規模を拡大していくスタイルではなく、いきなりの拡大公開を決断。しかし、スタジオ側の野心とは裏腹に、熱心な映画ファンに訴求するプロモーションさえ行えなかったのが実情だ。のちに配信でコストを回収できる可能性はあるものの、大人向け映画やニッチなターゲットを狙った映画の劇場公開という点では良い前例をつくれなかった。

評価は賛否まっぷたつで、Rotten Tomatoesでは批評家スコア66%に対し、観客スコア34%、またCinemaScoreでは「C」評価。数字の傾向から察するに、おそらく作家性が相当高い一作に仕上がっているのだろう。日本公開は6月7日、思わぬ大化けに期待したい。

そのほか今週のポイントは、『マダム・ウェブ』が前週比下落率-60%超えと苦戦するなか、同じくソニー・ピクチャーズ配給、シドニー・スウィーニー出演のロマンティックコメディ『Anyone But You(原題)』が公開10週目にして世界興収2億ドルを突破したこと。恋愛コメディとしては『クレイジー・リッチ!』(2018年)以来およそ5年ぶりの快挙、製作費2500万ドルという規模からしても大成功だ。

スウィーニーの相手役を務めたグレン・パウエルによると、2人のもとには新たなプロジェクトの脚本が続々と届いており、次にタッグを組む新作をそろって検討しているとのこと。大作不足の2024年だが、新たな黄金コンビの誕生を受けて業界は色めき立っているようだ。日本でのリリースはいったいどうなる?

なお、2月23日~25日の週末3日間も、北米市場全体の累計興行収入は前年比-18%となった。今後のスケジュール的にも厳しい1年になることはほぼ疑いないが、3月1日には、今年初の大作映画と言える『デューン 砂の惑星PART2』がいよいよ登場。つらい2カ月間を耐えてきた映画館業界はどこまで報われるのか。

■北米映画興行ランキング(2月23日~2月25日)

1.『ボブ・マーリー:ONE LOVE』(→前週1位)
1350万ドル(-52.9%)/3597館(+58館)/累計7118万ドル/2週/パラマウント

2.『「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』(初登場)
1157万ドル/1949館/累計1157万ドル/1週/ソニー

3.『Ordinary Angels(原題)』(初登場)
650万ドル/3020館/累計650万ドル/1週/ライオンズゲート

4.『マダム・ウェブ』(↓前週2位)
600万ドル(-60.9%)/4013館(変動なし)/累計3544万ドル/2週/ソニー

5.『FLY!/フライ!』(↓前週4位)
300万ドル(-21.5%)/2434館(-21館)/累計1億2044万ドル/10週/ユニバーサル

6.『ARGYLLE/アーガイル』(↓前週3位)
280万ドル(-42.7%)/3060館(-587館)/累計4169万ドル/4週/ユニバーサル

7.『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(↓前週6位)
253万ドル(-27.9%)/2203館(-144館)/累計2億1454万ドル/11週/ワーナー

8.『ドライブアウェイ・ドールズ』(初登場)
240万ドル/2280館/累計240万ドル/1週/Focus Features

9.『The Beekeeper(原題)』(↓前週7位)
196万ドル(-38.9%)/2157館(-400館)/累計6314万ドル/7週/Amazon・MGM

10.『The Chosen: S4 Episodes 4-6(原題)』(↓前週2位)
182万ドル(-49.4%)/2090館(-182館)/累計789万ドル/2週/Fathom Events

(※Box Office Mojo、Deadline調べ。データは2024年2月26日未明時点の速報値であり、最終確定値とは誤差が生じることがあります)

参照

https://www.boxofficemojo.com/weekend/2024W08/
https://variety.com/2024/film/box-office/box-office-bob-marley-wins-demon-slayer-surprises-1235922000/
https://variety.com/2024/film/box-office/sydney-sweeney-glen-powell-anyone-but-you-crosses-200-million-poor-things-nears-100-million-mark-1235922019/
https://variety.com/2024/film/news/glen-powell-sydney-sweeney-new-movie-reading-scripts-1235921656/
https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/bob-marley-one-love-box-office-drive-away-dolls-madame-web-1235834503/
https://deadline.com/2024/02/box-office-bob-marley-one-love-demon-slayer-madame-web-1235835359/

(文=稲垣貴俊)

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