東京の地下鉄と郊外に向かう路線の「相互直通」嫌がる人もいるが 実は混雑と混乱を防ぐ名案だった

東京の地下鉄の多くは、郊外へ向かう鉄道に乗り入れて、相互直通している。

地下鉄の相互直通、とくに近年多く見られる複数方面同士の相互直通は、悪く言われることも多い。「どこに行くのかわからない」という人、さらには「遅延が発生したら広範囲に影響が及ぶ」ということで、よく思っていない人はそれなりにいる。

だが、東京の地下鉄と私鉄やJRの相互直通をよく理解すると、鉄道は非常に利用しやすくなる。確かに、遅延が発生して広範囲に影響を及ぼすのは問題ではあるものの、その場合でも多少の時間こそかかるものの、目的地には到着でき、代替ルートも複数用意されるほど鉄道のネットワークは充実している。

むしろ、東京の地下鉄はさまざまな方面と相互直通することを前提にしてつくられている。

日比谷線以降は一部を除き相互直通

営団地下鉄(現在の東京メトロ)では、銀座線と丸ノ内線を運行していた。しかし、これらの地下鉄は都心部で完結する路線網で、ターミナル駅での乗り換えを必要としていた。また、都心部のみの路線網を今後も作り続けると、車両基地などの確保が大変だということが容易に想像できた。

その時代は、都心部の移動は、主に路面電車にたよっていた。山手線のターミナル駅までやってきて、路面電車などに乗り換えて、目的地へと向かう。

しかし路面電車は混雑、道路も渋滞という問題が起こり、地下鉄に切り替える方針を採用するしかなかった。

そこで営団地下鉄では日比谷線以降の路線は、郊外へ向かう鉄道と相互直通することになった。都営地下鉄も、最初にできた都営浅草線から、相互直通を開始した。

これ以降、東京の地下鉄で相互直通しない路線は、都営大江戸線しかない。

都営大江戸線

相互直通のメリットとして、郊外から都心に向かう際に、ターミナル駅で乗り換えなくて済むというものがある。東武スカイツリーラインは、多くの普通列車は北千住から東京メトロ日比谷線に乗り入れ、急行列車は押上から東京メトロ半蔵門線に乗り入れる。その東京メトロ半蔵門線は、東急田園都市線と相互直通している。東急田園都市線は、地下鉄との相互直通を前提として渋谷~二子玉川間の路線をつくった。

東京メトロ半蔵門線と東急田園都市線は相互直通

東京メトロ千代田線に至っては、北綾瀬に車両基地を設け、さらには常磐緩行線と直通運転をするということであのような形態の路線になったのだ。これで常磐線方面の混雑は大きく緩和したのだ。

相互直通によって、東京の地下鉄は大きく発展した。

おそらく評判が悪い相互直通は、東京メトロ有楽町線・副都心線を中心とする複数事業者がからむネットワークだろう。現在ではそこに相鉄・東急新横浜線、東急目黒線、都営三田線、東京メトロ南北線が加わっている。

だがこういったネットワークがあることで、郊外の人が都心にスムーズに行けるというのは否定しがたい。

大きなターミナルを必要としない

相互直通なら、都心のターミナルで折り返さなくて済む

もし地下鉄と私鉄やJRの相互直通がなく、都心部の地下鉄と郊外方面の電車をターミナルで乗り換えなければならなくなったら、ということを考えてみたい。

まず郊外からの列車は、必ずターミナルで折り返す。その際に、ターミナルには広いスペースが必要になる。地上時代の東急東横線渋谷駅を思い出してみよう。また、現在でも広いターミナルである、小田急電鉄の新宿駅などを考えてみるといいかもしれない。

都心でかならず折り返さなくてはいけない、ということでそれなりの折り返し時間が発生し、列車ダイヤに無駄が発生する。地下鉄に直通するなら、普通のホームだけで十分なのに、ターミナルであるがゆえにそれなりの規模の駅にしなくてはならない。

郊外から都心、そして郊外へ向かうことで、大きなターミナルを必要とせず、都心での折り返しの手間も必要なくなる。

いまでも大きなターミナルは山手線上にあるが、相互直通がなければさらにターミナルは数も多くなっていただろう。

また必ずターミナルで乗り換えなければならないとなると、朝ラッシュ時の駅の混雑が異常になり、駅構内が歩けないほどになってくる。

東京の地下鉄が相互直通しなかったら、かえって普段から混乱するようになっていたと考えるのが妥当だろう。

(小林拓矢)


筆者プロフィール

こばやし・たくや/1979年山梨県甲府市生まれ。鉄道などを中心にフリーライターとして執筆活動を行っている。著書『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。

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