日本馬の連覇叶わずも、ウシュバテソーロのアタマ差激走で実感した近代日本競馬の”多様性時代”の到来【サウジカップ】

現地2月24日、賞金総額2000万ドル(約30億円)、優勝賞金1000万ドル(約15億円)という世界最高賞金を誇るサウジカップ(G1、ダート1800m)がサウジアラビアのキングアブドゥルアジーズ競馬場で行なわれ、激しい競り合いの末、セニョールバスカドール(牡6歳/米・T.フィンチャー厩舎)が、川田将雅騎手が手綱をとる日本のウシュバテソーロ(牡7歳/美浦・高木登厩舎)をアタマ差交わして優勝。G1レース初制覇で、垂涎の世界最高の1着賞金を手に入れた。

昨年のパンサラッサに続く日本馬による連覇はならなかったが、ウシュバテソーロは堂々たる2着で、賞金3500万ドル(約5億2500万円)を獲得。昨年のドバイワールドカップ(UAE・G1、メイダン・ダート2000m)の勝ち馬の名に恥じないレースを見せた。

また、昨年のブリーダーズカップ・クラシック(米G1、サンタアニタ・ダート2000m)で勝ち馬から1馬身差の2着に入って一気に評価を高めたデルマソトガケ(牡4歳/栗東・音無秀孝厩舎)も差のない5着に健闘した。

一方、JRA・JpnⅠのダートGⅠを2連勝して臨んだレモンポップ(牡6歳/美浦・田中博康厩舎)は12着。昨年(5着)に続いて参戦したクラウンプライド(牡5歳/栗東・新谷功一厩舎)は9着に敗れた。なお、出走予定で現地入りしていたメイショウハリオ(牡7歳/栗東・岡田稲男厩舎)は主催者の診断によりスクラッチ(出走取消)となった。

深夜にテレビの前で声を枯らして応援したファンも多かったのではなかろうか。何を隠そう筆者もそのひとりだったが、それほどに惜しく悔しい。また、誇らしくも感じたウシュバテソーロの激走だった。
前々で競馬をしたい先行馬が揃い、ハイペースが予想された今年の一戦。実際、スタート直後から前目の位置を取り合う激しいレースとなったのだが、そのペースは「超」の字が付くほどの速さとなった。

長いバックストレッチで先行馬が横一戦になりながら、お互いの様子を探りながらレースは進む。単勝8番人気のサウジクラウン(牡4歳/米・B.コックス厩舎)が先手を奪い、日本馬はレモンポップ、クラウンプライドとデルマソトガケが先行集団に加わり、1番人気に推されたホワイトアバリオ(牡5歳/米・R.ダトローJr.厩舎)がこれに追随した。反対に、ハイペースを読み切ったウシュバテソーロは、セニョールバスカドールとともに馬群から離れた後方にポジションをとった。

第3コーナー過ぎから競り合いがさらに激しくなり、このあたりでレモンポップとクラウンプライドは苦しくなったか、鞍上の手が激しく動き始めた。

そして迎えた直線。逃げるサウジクラウンがしぶとく脚を伸ばすところへ5番人気のナショナルトレジャー(牡4歳/米・B.バファート厩舎)とデルマソトガケが追いすがる。

直線に入って追い出されたウシュバテソーロが力強い末脚で3頭を捉えてゴールを目指すが、さらにその外からセニョールバスカドールも急襲。ゴール前50m付近でウシュバテソーロがいったんは先頭に出るものの、ゴールの瞬間、セニョールバスカドールがわずかにそれを差し切った。大激戦となった結果はアタマ差という接戦だった。 ハイペースを読み切って後方を進むという豪胆な騎乗でウシュバテソーロの能力を遺憾なく発揮させた川田騎手は、「馬の具合は素晴らしく、レースでもこの馬らしい気持ちを出して、とてもいい走りをしてくれました。勝つという結果だけ得ることはできませんでしたが、本当にいい走りだったと思います」と愛馬を称賛した。

また、高木調教師は「馬はしっかり走ってくれて、完璧なタイミングで差したと思っていたのですが…」と悔しさをにじませたが、続けて「2000mの方がレースはしやすいので、このレースはドバイにつながると思います」と語り、次走に参戦を予定しているドバイワールドカップの名を挙げ、同レースの連覇に向けて気持ちを切り替えていた。

ウシュバテソーロは、2022年末に東京大賞典(GⅠ)を勝ってトップホースの仲間入りを果たすと、川崎記念(JpnⅠ)とドバイワールドカップ、日本テレビ盃(JpnⅡ)と4連勝。続くブリーダーズカップ・クラシックこそ、ホワイトアバリオ(1番人気)の5着に敗れたものの、着差は0秒5と大きな差のないレースを見せた。昨年末には東京大賞典を連覇し、今回のサウジカップも”勝ち同然”の2着に食い込み、その能力がダート戦線で世界トップクラスにあることを証明した。

次走のドバイワールドカップ連覇に期待が高まるとともに、秋にはブリーダーズカップ・クラシックに再チャレンジする予定で、昨年のリベンジを果たしてほしいと願うばかり。”怪物”と称された父オルフェ―ヴルの最良産駒として、生産地からのラブコールも日に日に大きくなるなか、大きな土産物を手に将来の種牡馬となる日を期待したい。
5着のデルマソトガケも、激しい先行争いに加わりながら、最後までじりじりと伸び続けて上位に食い込んだのは、さすがのひと言。

同馬は昨年3月にUAEダービー(G2、メイダン・ダート1900m)を制し、海外初の重賞を手に入れると、その後は海外を中心に転戦。米クラシック伝統のケンタッキー・ダービー(G1、チャーチルダウンズ・ダート2000m)は6着も、ダート最高峰のブリーダーズカップ・クラシックでは2着に入り、高いポテンシャルをあらためて示した。こちらも次走はドバイワールドカップへ向かう予定で、馬場適性を含めて好走への期待は大きい。

12着に惨敗し、人気を大きく裏切ることになったレモンポップ。田中調教師は「前に(付けた馬に)厳しい流れになったのは確かですが」と前置きしたうえで、「自分が思う馬の適性と、この馬の本当の適性がマッチしてないという気がします。これからは体だけではなく、気持ちの面を含めて見直していきたい」とコメントし、本馬の走りについてベースから再考する意向を示した。国内では間違いなくトップの力を持っているだけに、今後の動向に注目したい。 さて、この日はアンダーカードの重賞5レースも開催した。サウジダービー(G3、ダート・1600m)に出走した坂井瑠星騎乗のフォーエバーヤング(牡3歳/栗東・矢作芳人厩舎)と、リヤドダートスプリント(G3、ダート・1200m)には川田騎手とのコンビでリメイク(牡5歳/栗東・新谷功一厩舎)が見事に優勝を果たした。

なかでも注目なのは、ここまで全日本2歳優駿(JpnⅠ)を含む4戦全勝としたフォーエバーヤングだ。本馬のオーナーはゲームアニメ『ウマ娘 プリティーダービー』をディストリビュートしているサイゲームスを傘下に収めるサイバーエージェントグループ代表、藤田晋氏の持ち馬。「世界の矢作」こと矢作調教師とのコンビで、今春のケンタッキー・ダービーを目指すと公言しており、こちらにも大いに注目してほしいところだ。
それにしてもここ数年、日本馬が世界のダート戦線で見せるパフォーマンスの高さには目を見張るものがある。その時々のトップホースが毎年ドバイワールドカップに参加しながら、勝ち負けから程遠い結果しか残せなかった15~20年前のことが信じられないほど、素晴らしい戦績を残す凄まじさである。ことによっては、日本競馬の夢とまで言われた世界最高峰の凱旋門賞(仏GⅠ、ロンシャン・芝2400m)の名が薄らいできたような気さえする。

牡馬と伍して戦う牝馬の大活躍も含め、日本競馬もまた「多様性の時代」に入ったことを実感させられる。

文●三好達彦

© 日本スポーツ企画出版社