米民間企業の月着陸船「Nova-C」月面着陸に成功するも横転した状態か

アメリカの民間企業インテュイティブ・マシーンズとアメリカ航空宇宙局(NASA)は2024年2月23日、インテュイティブ・マシーンズの月着陸ミッション「IM-1」の月着陸船「Nova-C(ノバC)」が月面に着陸してから初のテレカンファレンスを行いました。Nova-Cは月面着陸に成功したものの機体は直立しておらず、月面に横転した状態で安定しているとみられています。【最終更新:2024年2月26日11時台】

IM-1はインテュイティブ・マシーンズ初の月着陸ミッションで、着陸船のNova-Cにはアメリカ航空宇宙局(NASA)の商業月輸送サービス(CLPS)の下で選定された6つのペイロードと民間の6つのペイロード、合計12のペイロードが搭載されています。IM-1ミッションのNova-Cは日本時間2024年2月15日にスペースXの「Falcon 9(ファルコン9)」ロケットで打ち上げられた後、日本時間2024年2月22日未明までに月周回軌道へ投入されていました。

【▲ インテュイティブ・マシーンズの月着陸船「Nova-C」に搭載されているカメラで降下中に撮影された月面の様子。撮影時の高度は約10kmで、着陸目標地点の北東にあるショーンベルガー・クレーター(Schomberger、直径約86km)が写っている(Credit: Intuitive Machines)】

日本時間2024年2月23日朝、Nova-Cは月の南極近く(南緯約80度)にあるマラパートA・クレーター(Malapert A、直径約33km)へ向けて降下を開始し、同日8時24分に月面へ着陸することに成功しました。実際の着陸地点は目標地点から2~3km離れていると推定されています。アメリカとしては1972年12月に実施されたアポロ17号以来約51年2か月ぶり、民間としては世界初の月面着陸(軟着陸)となります。民間による月面着陸はこれまでにイスラエルのスペースIL、日本のispace、アメリカのアストロボティックが試みたものの、いずれも軟着陸には成功していませんでした。

民間初の月面への軟着陸に成功した今回のIM-1ミッションですが、全てが順調というわけではありませんでした。海外メディアのSpaceNewsによると、月周回軌道投入後にNova-Cの軌道を正確に測定するべくレーザー距離計を使用することになったものの、安全対策として地上ではオフにされていた機械的なスイッチが打ち上げ前にオンに切り替えられていなかったため機能しないことがこの時点で判明しました。レーザー距離計は着陸時に使用されるセンサーであるため、着陸直前まで気付かれない可能性もあったようです。

【▲ 参考画像:打ち上げ準備中に撮影されたインテュイティブ・マシーンズの月着陸船「Nova-C」(Credit: SpaceX)】

そこで急遽、精密着陸技術の実証用に搭載されていたNASAのドップラーライダー「Navigation Doppler Lidar(NDL)」をNova-Cのナビゲーションシステムに組み込むためのソフトウェアが作成されました。ライダーの機能はレーダーに似ていますが、電波の代わりにレーザー光を使用するところが異なります。NASAのNDLは高度5kmから着陸までの間に速度・方位・高度の高精度な測定を行うために搭載されていた装置で、結果的にIM-1ミッションを救うことになりました。

ただ、最終降下時のNova-Cは毎秒約1mの速度で月面に対して垂直に降下する予定だったものの、実際には毎秒約1mの水平移動を伴う予定の約3倍の速度で降下してしまったため、接地時に着陸脚が月面に引っ掛かり横転したとみられています。月面に面している側(倒れた機体の下側)に搭載されていたのはアート作品のみで、ペイロードの大半は動作しているとされていますが、一部のアンテナが使用できなくなっているため、特に期待されている画像の送信が困難になっている模様です。テレカンファレンスから2日経った日本時間2024年2月26日午前の時点でも、着陸後に撮影された画像は公開されていません。

【▲ 着陸したNova-Cの姿勢についてテレカンファレンスで説明するインテュイティブ・マシーンズCEOのスティーブ・アルテマス(Steve Altemus)氏(Credit: NASA TV)】

また、着陸前に放出される予定だったセルフィー撮影用の小型機「EagleCam」は、レーザー距離計の代わりにドップラーライダーを使用することになったため放出が見送られました。エンブリー・リドル航空大学で開発されたEagleCamは高度30mで放出された後に着陸するNova-Cを撮影する予定でしたが、テレカンファレンスの時点でもNova-Cの側面に搭載されたままになっています。NASAによればIM-1ミッションは2024年2月29日まで行われる予定となっており、それまでに放出して画像を撮影することができるかもしれません。

インテュイティブ・マシーンズのIM-1ミッションについては新たな情報が発表され次第お伝えします。

Source

  • NASA \- NASA Tech Contributes to Soft Moon Landing, Agency Science Underway
  • NASA \- NASA News Conference on Intuitive Machines' First Lunar Landing (YouTube)
  • Intuitive Machines (X, fka Twitter)
  • SpaceNews \- IM-1 lunar lander tipped over on its side

文/sorae編集部

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