東京再発見 第7章 今年はどちらへ・隠れ桜三昧~台東区・上野公園から谷中へ~

古くからの桜の名所、上野公園。

そこは、江戸時代に鬼門封じのために建てられた東叡山寛永寺の大きな境内地だ。そして、そこから谷中方面には、幕府が作り上げた寺町が続いている。

上野公園一帯に桜の木は、約50品種1,200本。天海僧正が吉野から桜を移植したことがその始まりと言われる。そのソメイヨシノだけでない、隠れた名所を案内していこう。

(2024年、例年より一週間ほど開花が早いようなので、こちらも一週早く情報をお伝えする)

大寒桜~上野広小路・公園への入り口~

広小路・大寒桜を愛でる人々

梅の季節が終わる3月初旬、まず、上野公園に向かう広小路に向かってみよう。そこには、正面に枝垂桜、そして、その左右に大寒桜が植えられている。まだ、枝垂桜は咲いていないが、大寒桜は満開だ。

そして、早咲きの桜を愛でるために、週末ともなると、数多くの人々が群れを成す。また、朝早い時間には、地元の方々が散歩がてらに、言葉を交わし合っている。「今年は早いね」などと・・・

SNSが発達した今、ちょうど良いタイミングには、不特定多数の方々が映像をアップする。それを見て、また、多くの人が訪れる。すごく良い循環、昔にはない姿である。

寒緋桜~中央大噴水あたり~

絵画のような大噴水越しの寒緋桜

広小路から公園内に進む坂道は、ソメイヨシノの並木道。あと一週間から十日ほどすると、満開を迎えることだろう。まだ蕾のままだ。次に向かうのは、国立博物館前の大噴水。

噴水の左側には、最近見つかった「上野白雪枝垂れ」という品種。かなりニュースになったので、カメラを向ける人が多い。そして、右側には、濃い赤を身に着けた寒緋桜が列を成している。噴水越しに愛でると白と赤とのコントラストが、まるで絵画のようだ。

春の匂いがする天気の良い日は、噴水の周りに日向ぼっこをする人々、園児が遠足に来る姿も見受けられる。とてもほっこりとする瞬間だ。ソメイヨシノには、まだまだ時間があるので、谷中まで足を延ばそう!

枝垂れ一本桜~ひみつ堂の向かい、谷中・長明寺~

長明寺の一本枝垂桜

あちこちで桜前線が北上してくる3月中旬、朝早く再開発で更地になりつつある「夕やけだんだん」に向かう。お隣の車が上り下りできる「七面坂」に沿って日蓮宗の長明寺がある。

また、お向かいには、デラックスなかき氷が有名になった「ひみつ堂」というお店もある。お昼間はかなりのお客様が列を成し、細い道は車が最徐行する。朝早く訪問するのは、道があふれないうちに、という理由からだ。

この一本桜は、かなり大振り。天から舞い降りてくるという表現が似合う優雅な立ち姿だ。

徳川幕府は、上野公園から谷中に向かう、この上野台地にお寺を集めた。京都にも寺町通という通りがあるように、地図を広げると、大小のお寺が立ち並んでいることが分かる。寛永寺と同じ天台宗、徳川家が信仰するもう一つの宗派、日蓮宗のお寺が多い。

崖下は石神井川から分かれた谷田川の暗きょ、また、崖上は日暮里村の鎮守・諏方神社(おすわさま)に続く諏方台通りである。有名な「谷中銀座」もこの一角にある。観光目的の寺院ではないが、とても素敵なお寺がたくさんである。お寺巡りという新たなコンテンツができれば、「谷根千」の町歩きも裾野が広がるはずだ。

大仏様が愛でる枝垂桜とオカメ桜~谷中・天王寺~

天王寺・床桜花

さて、彼岸ともなると、日暮里駅から谷中霊園にお参りに来られる方が増える。時には満員電車のようにもなる。特に、春の彼岸は桜の開花と重なるので、より多くの人が訪れる。その中心が上野公園に抜けることができる通称・桜通りだ。

そして、日暮里駅南口からすぐそこにあるのが天王寺である。開山当時は日蓮宗の寺院であったが、徳川幕府の命により天台宗に改宗。目黒不動と湯島天神とともに「富くじ」興行を行なうことができる古刹である。

境内には、ひっそりと大仏様が鎮座し、時期になると、紅色のオカメ桜と枝垂れ桜が咲き乱れる。まさしく、お彼岸を待っていたかのようだ。そして、少し遅れて一本だけある花桃が白い花をつける。その頃になると境内の桜は、風花となるのだ。本堂の廊下には、散り桜が床一面に広がる姿を見ることができる。

ソメイヨシノ~上野全山がさくら色に~

まるで桜のトンネルのよう、谷中さくら通り

桜の開花宣言は、ソメイヨシノが主役だ。周知のことではあるが、早咲きの桜がひと段落すると、公園全体がさくら色となる。早い年で3月中旬、遅くとも下旬には満開を迎える。

上野駅から、広小路から、日暮里駅から、桜を愛でるお客様は曜日を選ばずにやって来る。公園内のメインストリートは満員電車のようになり、ブルーシートが敷かれ、毎夜、宴が繰り返される。昨今は、ゴミもきちんと処理されるようになったので、落ち着いてきた。しかし、朝早くは、少しばかり食傷気味になる季節だ。

一方、谷中霊園の桜通りは、コロナ禍前に宴席が禁止された。そのため、ゆっくりと花見に興じたいと思う方々は、こちらを訪れるようになった。また、周りは墓地であるが、幸田露伴の小説でも有名となった五重塔跡地、古民家や花屋を改装したカフェなどがあり、新しい観光コンテンツも増えてきている。

仕舞いの八重桜~谷中・養福寺、南泉寺~

南泉寺・車の屋根に映る八重桜

桜は、新年「始まりの花」と言われて久しい。しかし、温暖化の影響で、昨今は「別れの花」と言われるようになった。そのため、ソメイヨシノが散ると、その年の桜は終了と思いがちである。

しかし、谷中の桜は、まだまだ続く。八重桜が咲き始めるのだ。

4月初旬、日暮里駅から西日暮里駅の方向、寺町沿いに歩を進めよう。おすわさまに向かう途中には、真言宗の養福寺、富士見坂から崖下に降りると、臨済宗の南泉寺がある。どちらもひっそりとした寺院ながら、趣きのある造りだ。養福寺では八重桜と鐘楼が重なる姿、南泉寺では中華風の窓に八重桜が映える姿を愛でることができる。隠れた名所中の名所だ。

たまたま、止まっていた車の屋根に桜花が映し出されていた。思わず、シャッターを切り続けていた。

まだまだ語りつくせない隠れた名所

約一か月にわたり、心を豊かにすることができる桜三昧、今回だけでは紹介しきれないが、素晴らしい桜花は、このエリアにまだまだ存在する。今年は、昨年より一週間ほど開花が早いと言われている。

さて、今年はどちらへ、隠れ桜三昧。自分だけの桜を探しに、隠れた上野へ、是非ともお越しになってはいかがだろうか。

天気予報がとても気になる、そのような季節がまたやって来る・・・。

(次のページには、ご紹介した隠れ桜三昧を、もう少し、ご覧ください。すべて、2023年撮影のものです)

日暮里・御殿坂、桜が迎える

上野広小路の大寒桜

大噴水前の寒緋桜

長明寺の枝垂桜の下から

谷中・天王寺のオカメ桜

天王寺の枝垂桜、愛でる人は外国人ばかり!

天王寺の花桃と枝垂桜、大仏様もひっそりと

養福寺・鐘楼前に光る八重桜

南泉寺・中華風の窓に映る八重桜

散り桜、ひっそりと

(これまでの特集記事は、こちらから)

取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長

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