「普通では味わえない」初出場の世界卓球で“スーパー中学生”張本美和が経験した貴重な財産とは? 打倒・中国へ誓い「パリでリベンジ」

日本の超逸材が、卓球最強国に強烈な爪痕を残した。

韓国・釜山で熱戦が繰り広げられた卓球の世界選手権団体戦は、中国が男女アベック優勝を収めて閉幕した。日本女子は5大会連続で決勝まで駒を進め、卓球王国とフルゲームまでもつれる死闘を演じたが、惜しくもマッチカウント2-3で競り負けて銀メダルに終わった。

53年ぶりの悲願成就とはならなかった日本女子。だが今夏のパリ五輪に向けて、絶対女王を敗北寸前まで追い詰めたのは大きな収穫。なかでも、各国のエース級を次々と撃破した日本の15歳・張本美和は卓球関係者に強烈なインパクトを与えたと言っても過言ではない。

グループステージから変幻自在なサーブ、緩急をつけた攻撃的なスタイルで相手を翻弄した張本。中国との決勝戦が懸かったセミファイナルの香港戦ではトップバッターで起用され、相手エースの杜凱琹(ト・ガイキン)と対峙。相手の圧力に屈し、先に2ゲームを連取される苦しい展開で絶体絶命のピンチに陥ったが、スーパー中学生はここから驚異の修正能力を発揮した。

杜凱琹のリズムに慣れた第3ゲームを11-4で奪い返すと、ベンチに座る伊藤美誠のアドバイスに耳を傾けながら11-6と第4ゲームを制した張本は、最終ゲームも圧倒。先にマッチポイントを握ると、最後は強烈なバックストレートを放ち、格上から見事な逆転勝ち。勝利を決めると、ほっとしたような安堵の笑みがこぼれ、15歳らしさを垣間見せた。
迎えた中国との大一番でも、現役中学生は高いパフォーマンスを見せる。

引き続き第1試合を託された張本の相手は、世界ランク1位の孫穎莎(ソン・エイサ)。先制を許した張本だったが、第2ゲームは鋭く回転をかけたサーブ、力強いストレートなどでリードを広げ、世界トップと互角以上の戦いを見せる。だが百戦錬磨の女王は簡単には動じず、すぐに攻略すると終盤には連続得点で逆転。張本を突き放してこのゲームを奪取すると、第3ゲームも11-4で一蹴。貫禄のストレート勝ちを収めた。

その後、両チームとも2勝2敗のタイで迎えた運命の第5試合。張本は東京五輪の金メダリスト陳夢(チン・ム)と優勝を懸けたガチンコ勝負に臨んだ。

第1ゲームは張本が主導権を握り、11-4で完勝。底知れぬスキルで五輪女王を追い詰めるが陳夢も勝利への執念を燃やし猛攻。2ゲームを奪取する。

第4ゲームは一進一退だったが、陳夢が終盤に怒涛の6連続得点を挙げて逆転。10-7とチャンピオンシップポイントを握ると、勝負をかけたサーブを張本は必死に返すが、ボールは無情にも卓上に触れずジ・エンド。中国チームが歓喜する姿を見届けた中学3年生は黄金世代が待つベンチに戻り、エースの早田ひなから労いの抱擁をされると、抑えていた涙が一気に溢れて流れ落ちた。 世界卓球初出場ながら、堂々とした戦いぶりを見せた張本。3時間半を超える歴史的な死闘を終えた直後、彼女はテレビ東京のスポーツ情報番組『みんなのスポーツ』で、その激闘を振り返っている。

張本は「(世界卓球は)初めてだったんですけど、今までにない試合の雰囲気だったりとか、たくさんの経験を積ませて頂いた。本当に幸せな、すごく楽しい大会でした」と語り、貴重な財産になったと強調した。

さらに「最大の目標である優勝に向かって頑張ったんですけど、自分が2点を落としてしまって、本当に悔しい結果になってしまった」と決勝で唯一の2敗を悔やむが、「その手応えだったりとか、普通では味わえないような決勝戦の雰囲気を味わったので、今度はパリオリンピックでリベンジをできるように頑張りたい」と気持ちを切り替え、大舞台での金メダル奪還を誓っている。
早田、平野美宇、伊藤美誠の黄金世代と切磋琢磨し、世界トップの相手と真剣勝負を積んだ張本。6月で16歳を迎える日本卓球界の宝は、5か月後に開催されるパリの舞台で”打倒・中国”を見据えている。

構成●THE DIGEST編集部

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