【インタビュー】挑戦する老舗ブランドJBL。ながら聴きイヤホン「SOUNDGEAR SENSE」が市場創造を牽引

VGP2024

受賞インタビュー:ハーマンインターナショナル

新たなトレンドとして注目集める耳を塞がない“ながら聴きイヤホン”のなかでも大きな反響を呼ぶJBL「SOUNDGEAR SENSE」がVGP2024ライフスタイル大賞を受賞した。さらに、「Tour Pro 2」「BAR 1000」「4329P」「Classic Components(SA550、CD350、MP350、TT350)」など、独自性溢れる商品を連打し、オーディオ市場を鼓舞するJBL。大きな期待と注目を集めるその強さの秘密をハーマンインターナショナル・濱田直樹氏に聞く。

ハーマンインターナショナル株式会社

プロダクトマーケティング部

マネージャー

濱田直樹氏

プロフィール/オーディオメーカーで商品企画・マーケティングに従事、2019年4月よりハーマンインターナショナル株式会社へ入社し、ホームオーディオ製品のプロダクトマーケティングを担当する。2021年4月よりプロダクトマーケティング部門全体を統括するマネージャーに就任。趣味は映画鑑賞とボルダリング。

―― 新たなトレンドとして耳を塞がない“ながら聴きイヤホン”が注目されるなか、音質・装着性・音漏れの少なさなど各要素が審査会でも高い評価を集めたJBL「SOUNDGEAR SENSE」がライフスタイル大賞に輝きました。おめでとうございます。開発・導入に向けた市場分析やセールスポイントをお聞かせください。

VGP2024でライフスタイル大賞を受賞したJBL「SOUNDGEAR SENSE」

濱田 耳を塞がないイヤホンの市場が急拡大していますが、JBLでは2018年に初代モデルとなる「SOUNDGEAR」を肩に掛けるスピーカーというスタイルで発売しています。スマートフォンの普及やパソコンはじめ様々なデバイスがBluetoothを搭載してワイヤレス化していくのに伴い、長時間にわたり音を聴くためのものが必要になってくると考え、耳を塞がずに自然な形で楽しめるスピーカーとしていち早く商品化し、大きな反響を集めました。

耳を塞がないことに大きなニーズがあることは、その頃から強く感じていましたが、当時は技術的な制約から、本体に合わせてバッテリーを小さくするとそれこそ数十分程度しかもちませんでした。映画を1本楽しめる、音楽もしっかり楽しみたいというニーズを満たすためにはある程度の大きさが必要で、“肩掛け”というスタイルを選択したのです。

2018年に耳を塞がないイヤホンの初代モデルとして発売された肩掛けスタイルのJBL「SOUNDGEAR」

あれから5年、骨伝導型イヤホンの登場で“耳を塞がない”スタイルが再び脚光を浴びています。「外の音を取り込める」「鼓膜を塞がない」といった点が評価される一方、「低音が足りない」「骨をしっかり振動させるためにある程度密着させることから装着感に不満がある」といった声も聞かれます。そこで、われわれは単に骨伝導という方式を追従するのではなく、耳を塞がない使い方をいかに高い次元でご満足いただけるかを突き詰め、空気伝導方式を軸に据えた完全ワイヤレスイヤホン「SOUNDGEAR SENSE」として提案しました。

―― 本格的なサウンドがオープン型でも楽しめると話題を集める「SOUNDGEAR SENSE」ですが、商品開発にあたってはどのような点をポイントとされたのですか。

濱田 様々な要素のなかでも重要視した点のひとつは「長時間使える」ことですね。単にバッテリーの問題だけではなく、長時間にわたり着けていても快適な“装着感”が大切なポイントです。独自のアジャスター機構を開発するなど、「長く着けていられてとてもいい」と大変ご好評いただいています。

また、骨伝導式イヤホンの場合は両耳に着ける必要がありますが、「SOUNDGEAR SENSE」は完全ワイヤレスの空気伝導方式で、片側の耳に装着するだけでも使用できます。交互に使用すれば、使用していない側のバッテリーを充電でき、理論上は無限に使用することが可能です。

初代の肩掛け型から手のひらに収まるサイズになり、どこへでも持ち歩けますが、日本は電車の移動があり、気になるのはやはり音漏れです。オープンの解放感がありながら、いかに音漏れをさせないか。ここは、アクティブノイズキャンセルで培ってきた技術を活かし、逆位相の音を出すことで極限まで音漏れを抑えることを実現しました。いろいろな場所で、あらゆるシーンで、開放的な音を長時間楽しむことができます。

昨年10月の発売時点では“ながら聴き”と言えば骨伝導型一色でしたが、そこにオープンイヤー型という新たな市場を開拓して大きな成功を遂げることができました。昨年3月に発売した完全ワイヤレスのフラグシップ「Tour Pro 2」との2枚看板が大きなドライブとなり、JBLの昨年の完全ワイヤレスのビジネスは倍以上に成長しています。

完全ワイヤレスのフラグシップモデル「Tour Pro 2」との2枚看板でさらに躍進

うれしいのは「Tour Pro 2」と「SOUNDGEAR SENSE」を両方持たれているお客様が非常に多いことです。全く違うスタイルで用途が拡がるとの声をいただいており、完全ワイヤレス市場のさらなる成長へ向けた起爆剤になっています。

―― ユーザー層の三角形の頂点を「Tour Pro 2」で突き抜けると同時に、裾野も「SOUNDGEAR SENSE」でさらに広げることができたわけですね。

濱田 裾野もいまは平面的でなく、なにかこう立体的で複雑なのですが、本来ならもうイヤホンは使えないと思われるようなシーンにも拡げていくことができました。スポーツはもちろん、マイク性能も高いことからビジネスシーンでも活用いただいています。

―― VGP 2023のテレビシアター大賞にサウンドバー「BAR 1000」、2023 SUMMERのライフスタイル大賞に「TOUR PRO 2」、そして今回2024のライススタイル大賞に「SOUNDGEAR SENSE」と、ライフスタイルを変えるような提案性溢れるモデルが審査会でも毎回注目を集めています。

濱田 独自性を打ち出した商品がきちんと評価をいただけているのは大変うれしいですね。お客様の気持ちになり、今、求められているものを形にしているものが独自性と言え、そこをお客様にしっかりと理解して購入いただくことが、長く心に残るブランドになることだと考えています。マーケティングでも開発者の強い想いをしっかり届けていくことに力を入れています。お客様とも非常によい関係性が構築でき、それがビジネスにつながっています。

―― とりわけここ数年でそうした印象が強くなったような気がしますが。

濱田 独自性のある商品を打ち出すことにはやはり躊躇もあります。ヒットしているものにちょっと手を加えれば商売的には手堅いのかもしれませんが、独自性こそが商品の魅力の源泉ではないでしょうか。日本市場はとりわけ「JBL」というブランドをよく知っていただいていている背景も手伝い、開発者が強い想いを持って臨んでいるものをチャレンジするエッセンスとして持ち込み、お客様にもうまく伝えることができています。一体感のような手応えを感じており、グローバルからも日本市場の頑張りは一目置かれています。“挑戦する老舗ブランド”という見え方が物凄くかっこいいですね。

―― 皆さんにそうして認知、期待をしていただけるブランドであることで、さらなる新しい独自性へのチャレンジにも気持ちが奮い立ちますね。

濱田 いい意味でのプレッシャーになります。

―― しかし、新しい提案を盛り込んだ商品がゆえに、その価値を伝えるためにどこの売り場で販売してもらえばいいのかといった話をお聞きすることがあります。独自性を訴える上での難しさ、また、それをどう乗り越えていくのかについてはいかがでしょうか。

濱田 新型コロナの功罪が色々言われていますが、われわれもコロナ以前は商品の販売は販売店さんにお願いして、お客様からの情報も販売店さんから伝えていただくのが当たり前でした。任せきりだったわけです。ところがコロナ禍にお客様も店頭まで足を運びにくくなり、メーカーも自身で直接お客様に語り掛けていくことが課題として浮き彫りになりました。

以前なら、音を聴かずに2万円も3万円するイヤホンを買ってもらうのは到底無理だと決めつけていましたが、聴かないでも信頼してもらい、購入してもらうにはどうすればいいのかを真剣に考えなければならない状況におかれ、目が覚めました。口コミを大事にする。お客様がコールセンターに問い合わせた内容にわかりやすく丁寧にお応えする。ホームページのFAQをお客様が感じていることに応えられるように充実させる。地道なことからひとつひとつ見直していきました。

「JBLはサウンドに関わるポートフォリオで言えば一番充実しているブランドであると自負しています」

お客様が購入して満足する商品であれば、お客様自身が発信して伝えてくださり、そこから次の購入へつながっていくこともあります。販売店さん任せにするのではなく、我々自身でファンを創っていくことに立ち返る貴重な時間を体験することで、JBLのファンがここ数年で本当に増えているなと実感しています。

―― お客様とダイレクトに心がつながり、大切にしている“独自性”もより伝わりやすい環境が構築できてきたわけですね。

濱田 コロナ禍にはホームエンタメが注目されましたが、今、お客様自身が色々な使い方や楽しみ方を見つけられています。メーカーはそうした熱量や新しい音楽の楽しみ方に応えられるものをお届けしていかなければならないのだと思います。そこへJBLは「二兎を追うものは…」どころか、百兎を追うくらいの勢いで次々に提案を行っています。サウンドに関わるポートフォリオで言えば一番充実しているブランドであると自負しており、カテゴリーも価格帯もどこにも負けません、どのメーカーよりもきめ細かくお客様に寄り添った提案ができることが大きな強みになります。

―― ながら聴きイヤホンが話題を提供するイヤホン、ヘッドホン市場の今後の動向をどのように展望されていますか。

濱田 ながら聴きイヤホンではJBLは「耳掛け型」スタイルを採用していますが、ここにはさらに様々なスタイルが提案され、拡がりを見せそうですね。カフ型や軟骨伝導のような提案をされているメーカーもあり、2024年もまだまだ伸びしろがあります。

「イヤホン・ヘッドホンはこれまでは自分に最適な至極の1台を求める旅を続けて来ましたが、これからは用途別に実現できなかったシーンを満たしていく旅が始まります」

一方、完全ワイヤレスイヤホンという大きな枠組みで見た場合の成長の余地はどこにあるかというと、先ほど申し上げた「複数持ち」がキーワードになります。これまでは自分に最適な至極の1台を求める旅を続けて来ましたが、これからは用途別に実現できなかったシーンを満たしていく旅が始まります。私は“靴”に対するイメージと似ているように思います。

靴を1足だけ選ぶのはなかなか難しい。服装がGパンのときもあれば、スーツのときもあり、カジュアルとフォーマルの相容れない2つのシーンがあるとすると、少なくとも2足は必要です。イヤホンもカジュアルに街を移動するとき、フォーマルにビジネスに使うときなど最低でも2つ以上は必要になってくるのではないでしょうか。

玄関のシューズボックスの中にある靴の数だけ、イヤホンにもポテンシャルがある。スポーツに、サウナに、旅にともっと特化したものが出てくる発展性は限りなく大きい。また、“装う”という観点からは、昨年はヘッドホンで装う人が非常に増えました。イヤホンより装う面積が広く、趣味化していくひとつの切り口になると期待しています。

より多くの人が使用するイヤホンやヘッドホンはとても身近なもので、JBLにとってもとても重要なカテゴリーとして位置づけています。ここできちんと認知していただかないことには、オーディオやスピーカーのブランドとしても忘れ去られてしまうのではないかというくらいの危機感を持って取り組んでいます。

―― よく聞かれる質問だと思いますが、イヤホン、ヘッドホン市場の盛り上がりが、据置型のハイファイオーディオ市場への架け橋になる可能性についてはどのように考えていらっしゃいますか。

濱田 イヤホンやヘッドホンで音を聴く楽しさや趣味にする喜びを感じた人が、スピーカーから音を出して音楽を楽しむ世界に並行して入っていく可能性はもちろんあるはずです。オープンイヤー型のイヤホンなどは、耳に突っ込んでいないという意味ではもはやスピーカーですし、外の環境と調和して音が鳴ることは、耳に突っ込んで頭の中でなるのとはまた違ったものであることを理解する入り口にもなるのではないでしょうか。

先ほどの靴の例えで言えば、革靴の様式美のようなところに趣味性を感じる方もいます。スニーカー好きだった人が革靴に魅入られることもあるわけですから、オーディオでもやはり奥深さという点では圧倒的にスピーカーに分があり、単品コンポーネントによる組み合わせの妙は見逃せません、オープンイヤー型イヤホンというスタイルを通して、スピーカーや単品コンポーネントに興味を持ってくださる方が増えてくることを楽しみにしています。

―― 興味を抱いたお目当てとなる商品がすぐ隣に控えているのもJBLならではの強みですね。

VGP2024で特別大賞を獲得したJBLのパワードスタジオモニター「4329P」

濱田 例えば、特別大賞をいただいたパワードスタジオモニター「4329P」はアンプやWi-Fi機能が内蔵されており、単品コーポネントをあれこれ揃えるのが大変という人でもステレオフォニックな体験を手軽に手に入れることができます。レトロでクラシックなルックスに先進の高音質技術やモダンな機能を備えた「Classic Components(SA550、CD350、MP350、TT350)」は、さらに奥深いコンポーネントの世界をワンブランドで揃えることができます。

スタジオモニター、単品コンポーネント、サウンドバーなどは長い歴史のあるカテゴリーです。ここ数年は小さなブラッシュアップにとどまるブランドも目につき、気づけば市場の活気が失われ、メーカー数も減ってしまうさびしい面も否定できません。しかし、われわれは反対に、思い切ってスピーカーにWi-Fiを搭載したり、アンプにチャンネルデバイダーを入れて高域と低域を別々にドライブしたり、クラシカルな風貌の中に斬新な技術を惜しみなく融合させています。

VGP2024で企画賞を受賞した「Classic Components(SA550、CD350、MP350、TT350)」

単品コンポーネントを改革するとまで言うと大げさですが、JBLという歴史あるブランドが挑戦的な中身で市場に一石を投じることで、カテゴリーそのものの魅力が失せてしまったのではなく、商品に魅力がなかっただけなのだということを認識していただきたい。

こうした挑戦的な商品はお客様からの関心も大変高いのが特徴で、高度なレベルの質問が数多く寄せられます。単品コンポーネントのお客様はデジタルにあまり詳しくないと勝手にフィルタリングしている向きがありますが、実はかなり勉強されていて、挑戦してみたいという情熱がひしひしと伝わってきます。年齢層も若いお客様まで大変幅広く、もう一度、オーディオを盛り上げていくことができると確信しています。

―― レベルの高いリターンがどんどん寄せられて来るのはうれしいですね。

濱田 十分な情報が提供できていなかった反省もあります。昔のように趣味として使い込んでいく面白さ、奥深さがまた注目され始めていて、こちらも本当にワクワクしています。

―― コロナ禍の巣ごもりでホームエンタメが再認識される一方、5類移行後は旅行などアウトドアに目や資金が向けられなどプラスマイナスの要素が入り混じっています。そんななか、各分野に魅力あふれる商品提案を連打される御社の市場創造へ向けた意気込みをお聞かせください。

濱田 イヤホン・ヘッドホンはオーディオでは一番身近なカテゴリーです。まだまだやり残していることもあり、今年は特にイヤホン・ヘッドホンを複数持ちしていただけるような趣味性の高いマーケティングをどんどん展開していきます。オーディオはアナログレコードも盛り上がり、音楽サービスにハイクオリティなストリーミングの話題が聞かれるなど、2024年はさらに活気が出てくると見ています。

さきほどコロナ禍の功罪の話しをしましたが、コロナ禍を経て、デジタル化やDXのスピードが一気に加速し、ストリーミングで音楽を聴くことが当たり前になり、ライブは配信でも楽しめるようになりました。コロナ終息後もコロナ以前に戻るのではなく、新しい楽しみ方として併存し、またそれによりアナログ的な体験はより希少性を増しています。

想定を上回る人気を獲得する巨大スピーカー「PartyBox(パーティーボックス)」

かつて「モノ消費」「コト消費」という言葉をよく耳にしましたが、最近よく聞かれるのが「トキ消費」です。より限定的で再現性がなく、そこに自分がいることが大きな意味を持つ。我々の商品で言えば、時を共有するアイテムとして、イヤホンやヘッドホンよりもポータブルスピーカーが優れていると言えます。

「PartyBox(パーティーボックス)」という巨大なスピーカーがありますが、中学や高校のダンス部でよく使われています。大音量で皆で踊る時間は、深く記憶に残りますし、単純な体験価値を超えた希少性がそこに生まれています。さらに、ダンスを練習するときはPartyBox、一人で曲を憶えるときにはイヤホンといったように、音楽に接するあらゆるシーンにおいて、その一瞬一瞬に最適なものを人々が求め始めようとしています。

最大なオーディオポートフォリオを誇るJBLにとっては、まさに魅力に溢れたやり甲斐を感じる時代が訪れているとも言えます。音を楽しむためのあらゆるモーメントに全力を挙げてチャレンジして参りますので、2024年のJBLにもどうぞご期待ください。

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