加給年金?なんだそれ…年金月20万円の66歳・元サラリーマン、ゴルフ場で愕然。国が教えてくれない「申請すればもらえる年金」【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

自分が生涯受け取れる年金額について「きちんと把握できている」という人は、実は決して多くありません。「ねんきん定期便を見ればわかる」などと安易に考えている人は、“申請すればもらえる年金”をもらえずに損をしてしまうことも……。「ねんきん定期便には載っていない年金」について、石川亜希子AFPが解説します。

「ゆとりある老後」を送るには

Aさんは66歳、会社を退職し、月に約20万円の年金を受給しています。妻のBさんは62歳なので、まだ年金を受給していません。

令和4年度「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(厚生労働省)では、国民年金受給者の平均年金額は老齢基礎年金で月5万6,428円、厚生年金受給者の平均年金額は月16万7,388円となっていますので、月に約20万円受給しているAさんは平均より多く受給していることになります。

しかし、公益社団法人生命保険文化センターによると、夫婦2人で老後生活を送るために必要な日常生活費は約23万2,000円、ゆとりある生活費を送るためには約37万9,000円必要であるという結果が出ています。つまり、年金だけではゆとりある生活を送ることは難しいということになります。

Aさんも、このままではいけないと思いつつも、体は元気で時間もあるので、仲間と趣味のゴルフに出かけたりとなかなか生活水準を下げることができません。今はまだ退職金がほぼ残っていますが、漠然とした不安を抱えていました。

Aさん、戦慄…実は“申請していればもらえた年金”があった⁉

そんなAさん、いつものように1歳年下(65歳)で5歳年下の妻がいる後輩Cさんとゴルフに出かけました。ラウンド中「年金生活になって、趣味に使えるお金も節約しないといけないから大変だ」という話になると、Cさんは「多くはないけれど、加給年金も足しになるから助かっている」とのこと。

「加給年金? なんだそれ……」加給年金について知らなかったAさんは「本来もらえるはずの年金をもらっていないかもしれない」という事実に愕然としました。

Cさんは、「加給年金」や「振替加算」など、ねんきん定期便を見ていただけではわからないこと、申請しなければもらえないことを説明。Aさんは思わず「年金制度ってなんでこんなに分かりにくいんだ!?」と愚痴をこぼしてしまいました。

Cさんから「遡って申請できるはず」ということも教えてもらったので、Aさんは早速調べてみることにしました。

加給年金の「受給条件」と「受給可能額」は?

加給年金は、本人が年金を受給するようになったときに、配偶者や子どもがいて一定の条件を満たしている場合、年金が加算される仕組みのことです。年金の受給開始時に配偶者や子といった養わなければならない家族がいる場合に上乗せされることから、年金の“家族手当”ともいわれています。

加給年金を受給するための条件については、次のとおりです。

〈本人の受給条件〉

・厚生年金保険の加入期間が20年以上あること

・65歳到達時点で、本人に生計を維持されている配偶者または子どもがいること

〈配偶者・子どもの受給条件〉

・65歳未満であること、あるいは、18歳到達年度の末日までの間の子であること

・本人に生計を維持されていること

「本人に生計を維持されている」とはわかりやすく言い換えると、配偶者が「同居している」「厚生年金の加入期間が20年以上ある年金をもらっていない」「年収が850万円未満」ということになります。

では次に、具体的にいくらもらえるのか見てみましょう。対象によって次のとおりとなります。

〈加給年金の対象者別受取可能額〉

・配偶者22万8,700円

・1人目・2人目の子……各22万8,700円、3人目以降は各7万6,200円

なお、令和5年度は物価上昇などに伴い、令和4年度よりも少しだけ増額されました。

加給年金の対象者が配偶者の場合…「特別加算」が加わる

さらに、対象が配偶者の場合は、生年月日に応じて加給年金に「特別加算」という上乗せ分が加わることになります。

〈受給権者の生年月日ごとの配偶者加給年金額の特別加算額(令和5年)〉

昭和9年4月2日~昭和15年4月1日……3万3,800円

昭和15年4月2日~昭和16年4月1日……6万7,500円

昭和16年4月2日~昭和17年4月1日……10万1,300円

昭和17年4月2日~昭和18年4月1日……13万5,000円

昭和18年4月2日以後……16万8,800円

加給年金は自分で手続きしないともらえない

加給年金についてようやく理解できたAさん。計算してみると、加給年金額と特別加算額で合わせて年39万7,500円にもなるではありませんか! Aさんの妻Bさんは結婚以来ずっと専業主婦だったため、条件をクリアできていそうです。

慌てて年金事務所に相談し、必要な書類を揃えて手続きすることにしました。さかのぼって受給することができるのは5年までで、Aさんは去年から年金を受給し始めたばかりなのでそちらもクリアできそうです。Aさん、なんとか損をせずにすみそうでホッとしました。

「加給年金」から「振替加算」へ

AさんがCさんから教えてもらった“申請しないともらえない”加給年金ですが、これは配偶者が65歳になって年金を受給するまで支給されるものになります。

Aさんの場合も、Bさんが65歳になって年金の受給が始まったら終了です。たった数年か……と残念に思ってしまうかもしれませんが、以降は、条件を満たせば「振替加算」の対象になります。

振替加算は、加給年金に代わって一定の基準により老齢基礎年金に加算されるものです。

生年月日によって受給できる額は異なり、Bさんのケースだと年1万5,323円となり、生涯受け取ることができます。昭和41年4月2日以降の生まれだと、振替加算の対象にはなりません。

また、Aさんのケースのように、加給年金を受給していれば、基本的に振替加算を受給するための手続きは不要です。しかし「妻の方が年上の場合」など、振替加算を受給するために手続きが必要な場合もありますので注意が必要です。

複雑な年金制度…気になる部分は「年金事務所」に相談

年金制度が複雑になっているのは、あらゆるパターンに対応できるようにするためだといわれています。ツギハギの制度改正が重ねられ、すべてを理解するのは至難の業です。

加給年金についても、65歳になった時点で扶養する家族がいる人にとってはありがたい制度です。もっとも、請求しない限り受け取れないため、Aさんのような場合も多いでしょう。

自分で情報を取りにいかないと損をしてしまう時代になってきています。退職後の人生を豊かに過ごすためにも、どのような選択肢があるか最新の制度を確認し、不明な点がある場合は年金事務所に相談するようにしましょう。

石川 亜希子
AFP

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