比嘉愛未、『つくたべ』は“ご褒美のような作品” 春日さん役・西野恵未との信頼関係を語る

料理を作るのが好きな野本さんと、食べることが好きな春日さん。「食」を通じてふたりの女性が出会い、共に食卓を囲むことで関係を深めていくNHK夜ドラ『作りたい女と食べたい女』(以下、『つくたべ』)。その繊細であたたかな描写はSNSで多くの共感の声を集め、シーズン2にも大きな反響がみられた。

中でも印象に残っているのは、野本さんこと野本ユキ役を演じた比嘉愛未が自分の気持ちに真摯に向き合っていく過程だ。本作を「ご褒美のような作品」と称する彼女の言葉からは、本作に対する溢れんばかりの愛が伝わってくる。そんな比嘉に『つくたべ』シーズン2にかけた想いを語ってもらった。

ーー夜ドラ枠で続編が制作されるのは初めてとのことですが、『つくたべ』の続編が制作決定したと聞いた時の率直な感想をお聞かせください。

比嘉愛未(以下、比嘉):「夜ドラ枠史上初」とお聞きして、本当に光栄でしかなかったです。ありがたい気持ちでいっぱいだったんですけど、驚きの感情はありませんでした。私の心の中で、シーズン1が終わった後もずっと野本さんと春日さんが生きていたので。あの2人のあたたかい世界線はシーズン1が終わってからも、ずっと続いていました。自分がまたそこに参加できる喜びが大きかったです。

ーーシーズン1の最終回の翌日も、2人で美味しいものを食べていそうですよね。

比嘉:そうなんですよね。そうやって客観視できるぐらい、野本さんが自分とは別の存在として生きてる感覚があるんです。 不思議な経験ですけど、そういう作品ってそんなにたくさんあるわけじゃないので。自分にとっても、そう思えるほどの思い入れがある作品です。今回の続編でも、前回とほとんど同じスタッフさんを集めてくださった番組側の愛も感じています。

ーー撮影現場はどのような雰囲気ですか?

比嘉:チームワークが、 お芝居やセリフだけじゃないところにもにじみ出てしまうくらい、「みんなで作ってる」って実感できる現場です。私とか(西野)恵未ちゃんだけじゃなくて、映っていないみんなの(作品への)愛情もとにかく大きいので。『つくたべ』の登場人物の素敵なところは、自分の気持ちに向き合いながら生き方を模索してるけど、それを相手に押し付けないところだと思います。演じていても心地いいって思うぐらいに。素直にその時の空気感のままで表現したものを、カメラマンさんだったり監督が、綺麗に切り取ってくださってます。

ーーシーズン1では野本さんが春日さんに対する感情に一つの結論を出すところまでが描かれましたが、その上での続編というところで新たに意識したことはありますか?

比嘉:ありますね。原作でも野本さんの周りの人間関係がさらに複雑になってくるので、登場人物も増えますし、それぞれの葛藤に深く切り込むような展開になってくるんですよね。それこそ、シーズン1は春日さんとご飯を作って、ふわふわとした楽しい描写が多かったと思うんですけど、今回は割と心情的に野本さんがモヤモヤしてる描写が多いんです。でも、それは彼女が自分らしく生きるために成長してる段階とも言えると思います。シーズン2は、そこを丁寧に表現するのが大切だなと思いました。モヤモヤの中でもいろんな段階のモヤモヤがあるじゃないですか。子どもがハイハイから、立ち上がって歩き出すように、野本さんはやっと一段階進んで自分自身を肯定できた。でもそれはゴールじゃなくて、スタートなんです。

ーー野本さんは周囲の「普通」と自分を比較して悩むシーンがありますが、野本さんのように、世間の「普通」とありのままの自分のギャップについて悩んでいる人は多そうです。

比嘉:今の世の中には「自分の感覚を大切にしよう」みたいな流れがありますけど、だからって人は1人では生きていけないじゃないですか。 みんな1人1人個性が違う中で、衝突を経験したことがない人なんて絶対にいないはずなんです。それに、人間関係は常に悩みの種でもあるけど、人を救うこともできる。そんな中で、無意識に人を傷つけてしまうことがあるのが、「普通」という言葉なんだと思います。自分自身も「普通は〇〇じゃん?」っていう言葉は、もうあまり使わないようにしなきゃと強く思いました。例えば女性がいたとして、その人に「彼氏いるの?」と聞いてしまうのもどうなのかなって。そういうちょっとした無意識が、 誰かを生きづらくしているかもしれないと、今回この作品を通して学びました。

ーー話が進んでいくにつれて、野本さんを取り巻く社会に対しても視点が少し広がっていくような印象を受けました。

比嘉:それもあると思います。「自分らしく生きるには」という問いが掲げられた社会でどう生きていくか。でも本当の自分自身に気づいたからといって、周りが突然優しくなるかといえば、そうではないので。むしろ気づいたからこその課題だったり、フラストレーションが溜まることだったり、次はそういうものが見えてくる気がします。

ーーシーズン2では南雲さん(藤吉夏鈴)や矢子さん(ともさかりえ)も新たに登場します。野本さんのさらなる視点の変化にも新メンバーが関係してくるのでしょうか?

比嘉:確かに、新しい登場人物たちが野本さんにいろんなことを教えてくれる……といえばそうなのですが、実は野本さん自身が、新しい出会いを引き寄せてるんですよね。それが演じていて面白いなと思って。女性同士の恋愛というテーマの枠組みを超えて、これからの時代を生きていく上での人と人との出会いを描いていく。そういう意味でも、人間関係で何か抱えてる人にとって、励みになるような作品だと思いました。

ーー「食べること」が共通言語だったシーズン1に「食べられない」キャラクターが入ってくることで、シーズン2はさらに広い物語が描かれているように思います。

比嘉:そうですね。私、夏鈴ちゃんがきてくれたことで「風が吹いてる」って思っちゃったんです。だから野本さんたちの世界にもまた新しい風が吹いて、 相乗効果で面白いことになっているはず。「食べなくてもこっちも遠慮しなくていいんだ」って、楽しいと思うことを好きなようにやるマインドも、観る人の背中を押してくれるんじゃないかと思います。

ーー確かに野本さんはお酒を飲まない春日さんの前でも、気にせず好きなように飲んでますし。

比嘉:好きなことを好きなようにやって、それがダメだったら仲良くならないはずなんです。否定されることばかり考えると、人間関係自体が全部怖くなっちゃうけど……。中にはそれをそんな自分もまるっと肯定してくれる、受け止めてくれる人がいるんだって思ってほしいんです。世界中にこれだけ人間がいるわけですから。結局は、巡り合わせとか相性で、きっかけはいっぱいあるはずなので、どこで自分と理解できる相手に出会えるかっていうだけな気がします。

ーー比嘉さんの俳優人生の中では、そういった「幸福な出会い」はどこにありましたか?

比嘉:ありすぎて、すぐには絞れないくらいです(笑)。そういう出会いがなかったら、今ここにいないだろうなとも思います。16年前、まさにこのNHKスタジオで(※取材はNHKスタジオで実施)『どんど晴れ』のオーディションを受けたんです。そこで初めて朝ドラデビューさせていただいたんですけど、その時の出会いがなかったらまずここにはいないはずです。

ーー当時の出会いがまさに今のキャリアにも繋がっているんですね。

比嘉:そうなんです。当時は右も左もわからないド新人だったので、周りの人に助けていただきながら、 走りきった感じで。今でも当時への感謝の気持ちとか、恩返ししたい気持ちがずっとあって。だから、作品を通して自分が成長する姿をあの時のスタッフやキャストに見てもらいお返しをしてる気持ちです。16年後の今、今度は夜ドラの主演をさせていただくことになって。 今回は私がその全部の座組みをまるっと愛情で包んで、いいものを作りたいんです。でも、1人で突き進んで「ついてこい!」っていうのも違うじゃないですか。驕らず、ちゃんとみんなと平等に1人の俳優として関わりながらも、妥協せずにやりたい。そう思うまでの過程で(自分自身を)勘違いさせないような学びもあったからこそ、ご褒美のような作品……『つくたべ』に出会えたんだと思います。全部が幸福のきっかけできっかけになる人やタイミングはたくさんあるはず。そこに、自分がちゃんと気づけるかどうかだと思います。

ーー春日さん役の西野恵未さんとの出会いについてはどうでしょう?

比嘉:恵未ちゃんのことは純粋に尊敬してるし、大好き。大人になって、同じ年齢で全然違う仕事だった2人が出会うって、またそれもご縁なので。支えられてるし、恵未ちゃんに何かあったら私も助けたいぐらいの信頼関係を築けてます。恵未ちゃんって、ものすごく少女のようなピュアな心を持ってるんです。元々持ってる感受性の豊かさなんでしょうね。だから春日さんを見てるような目線で恵未ちゃんのことも見れるし、心が浄化される感じがします。

ーー1人の俳優として西野さんに感じていることはありますか?

比嘉:恵未ちゃんって、まっすぐに相手の目を見るんですよ。春日さんもそうですけど、彼女自身がその人に対して相手がどう上とか下とか関係なく、平等に向き合ってくれる。演技も初めてっていうのも全然感じさせないくらい、ある意味堂々としていて。自分だったら、初めてでこんな分量で走り切れるかなとかいろいろ考えてしまいそうで。改めて彼女のその度胸と懐の深さ、まっすぐさを自分も見習わなきゃいけないと思いました。忘れていないつもりだったけども、 初心を振り返る大きなきっかけにもなって、恵未ちゃんから、俳優として日々学んでます。

ーー最後に、比嘉さんにとって『つくたべ』はどんな存在かを教えてください。

比嘉:先ほども少しお話しした通り、役者としてはご褒美のような作品です。いろいろな作品を経験してきた今だから、『つくたべ』に巡り合えたと思えるんです。この作品のテーマや問いについても「今の私だから」できる表現があると思っています。一方で、私個人としては、『つくたべ』が自分の生き方を考える大きなきっかけになりました。人生のターニングポイントとも言える作品です。

(文=すなくじら)

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