「経営計画」が社員にとって他人事となる2つの原因…〈面白くない・参画不足〉を解消する“妙案”

(※写真はイメージです/PIXTA)

新年度に向けて、「経営計画」を考えているという企業は多いと思います。しかし、社員にとって経営計画が他人事となってしまっている企業も少なくないのではないでしょうか。本稿では、社員数50名の新聞販売店を23年間経営し、多くの企業の経営支援に携わってきた米澤晋也氏が、社員が経営計画に関心を持ち自分事にするための実務を、実例等を交えて詳しく解説します。

「経営計画」が社員にとっていかに他人事か

新年度に向け、経営計画を練っている企業が多いと思います。私は、これまで様々な企業の経営支援に携わる中で、「いかに経営計画が社員にとって他人事になっているか?」ということを痛感しています。

経営計画発表会のたった1週間後なのに、社員が、売上目標はおろか今期のスローガンすら忘れているというケースは1社や2社ではありません。

結論から言いますと、他人事になる原因は2つあります。「面白くない」「参画不足」の2つです。

本記事では、中小企業において、社員が経営計画に関心を持ち自分事にするための実務を提案したいと思います。

経営計画書を面白くする“ヒント”

まずは、経営計画書が「面白くない」ということに触れます。経営計画書には次の3つの項目が盛り込まれています。

「想い」「ビジョン」「方法」

リーダーの「想い」があり、その想いが開花した未来の姿……「ビジョン」があり、それを実現するための「方法」が来るという構図です。この3つが盛り込まれると経営計画書は「物語」になります。

物語の効果は「歴史の教科書」と「歴史マンガ」を比較すると分かると思います。教科書では興味を持てず頭に入らなかった歴史が、マンガだとするすると入ったという経験を持つ方は多いと思います。

そこには様々な人物が登場し、野望やロマンなどの想いや喜怒哀楽があり興味を引きます。経営計画書も企業の歴史をつくるシナリオであり、物語性が必要だと考えています。

ところが、多くの計画書には「方法」しか書かれていません。経営理念やミッションは書かれていますが、「方法」との連動性がなく、単なる標語のようにポンと置かれていることが多いのです。これでは物語にはなりません。

経営計画を物語たらしめるのはリーダーの想いです。そこから物語が始まるのです。

ビジョンにリアリティがないことも課題です。ビジョンとは、「目を閉じれば、未来の“その日”が動画で再生される、解像度の高いイメージ」と私は定義しています。脳は「自動目標達成装置」と言われ、鮮明かつ心が躍るビジョンを条件づけすることで実現に向けて起動します。

ビジョンの解像度は“実在する3人の登場”で高まる

ビジョンが「未来の“その日”が動画で再生される」ということであるならば、「動き」がなければ成り立ちません。動くものとはなんでしょうか? 風に揺らめく木々の葉でも良いのですが、やはり「人間」の登場が欠かせないと思います。しかも、どこの誰だか分からない人ではなく、実在する人の方が感情移入できます。

そこで、私は、次の人物が経営計画書に登場するように提案しています。

1.顧客

2.自分

3.仲間

■顧客

経営は、顧客に喜ばれ支持されることで成り立ちますので、顧客の成功イメージは欠かすことができない要件です。顧客は、「この人に喜んでもらいたい」と心から思える「実在する人」が条件です。既存客でなくてもよく、家族でも友人でもOKです。

社員1人1人が、「自分はこの人」と個別に設定することも有効です。実在する人を挙げることで、自社の対象顧客が明確になるとともに、顧客に喜ばれるイメージにリアリティが生まれます。事業定義が、言葉での説明では得られない生命力を帯びるのです。

■自分

私が提唱する「指示ゼロ経営」には、「望みの統合」という重要な概念があります。社長が望むことをいくら熱弁したところで、それを社員が望まない、あるいは無関心、つまり「望みの分離」が起きていたら自発性は期待できません。

望まない人を動かすためにはアメとムチ、指示命令によるコントロールが必要になります。しかし、他者によるコントロールでは、真の自発性も創造性も発動しません。

「望みの統合」を起こすためには、経営計画書に、社長を含む全員の、会社の成功の暁に実現する「個人のビジョン」を描くことが欠かせません。「新車を買った」とか「家族で旅行をした」といったプライベートなことでOKです。

社員全員分を経営計画書には盛り込めないと思いますので「別冊」のような形でまとめることをおすすめします。

■仲間

仲間のビジョン……夢を知ることで、互いに対する共感が生まれます。チーム内に不毛な競争があれば話は別ですが、そうでなければ「1人1人の夢を実現する最も有効な方法は共創・協働である」という機運ができ、上質なチームワークが形成されます。

当社では、毎年、社員のビジョンを「別冊」にまとめ、全社員に配布してきましたが、みんな仲間のページを興味深く読んでいました。

米澤晋也氏が代表を務める会社で実際に配布されている、社員のビジョンをまとめた「別冊」

このように、3人の登場人物のイメージをゴールに、そこまでの道のり……「方法」を埋め込むことで物語になります。数値的な成果は、物語による産物という位置づけとして計画されます。

「経営計画を通達するだけ」では社員は自分事にしない

経営計画書が他人事になる、もう1つの理由は「参画不足」です。

アメリカ国立訓練研究所によると、人は一方的なインプットでは、「聞いたことの5%」「読んだことの10%」「見たことの20%」と、たいした学習はできないことが分かっています。それに比べ、「グループ討議をした場合50%」「自ら体験した時は75%」「人に教えた場合は90%」と、能動的に参画すると学習効果が高まるというのです。

経営計画書には「想い」「ビジョン」「方法」が盛り込まれている必要がありますが、それぞれに社員が参画することで、学習効果が高まるばかりでなく、経営計画を自分事にします。

ビジョンを描くにあたって、個人のビジョンを考えることの効果を先述しましたが、これも立派な参画で、その効果は想像していただけたかと思います。

「想い」に関しても、社長は、自分の事業に対する想いを社員に伝えるとともに、一方通行ではなく、社員にも自分の想いを語ってもらうことが大切です。丁寧に対話することで、徐々に社長の想いと社員の想いが統合し、やがて「我々の想い」に昇華します。

長野県にある、アレルギー対応のパン店の事例を紹介します。店主のお子さんに重いアレルギーがあり、幼少期から辛い思いをしてきました。12月25日に息子さんが学校に行くと、お友達からクリスマスイブで食べたご馳走の話を聞きますが、その話に登場する食べ物を何1つ食べたことがないのです。悲しむ我が子を見ると親も罪悪感に苛まれます。

そんな人たちのために、アレルギー対応のパンづくりを習得し生業にしたのです。

この想いへの共感は、社員だけでなく顧客にも広がり、多くの人に支えられ豊かな商売をされています。

起業した人には必ず思いがあるはずです。2代目3代目の後継社長は「跡取りだから」という理由で継いだかもしれませんが、「将来こうしたい」という想いはあると思います。それを表明し、対話をすることをお勧めします。

ビジョンを実現する「方法」に関しては、すでに何らかのやり方で社員が参画している企業が多いと思います。「想い」「ビジョン」へ参画することで、「方法」の意味づけが変わるでしょう。「私が今やっている仕事は、自分の想いの開花に通づる」と。

社員に参画してもらうためには、そのための時間をつくる必要があるため、敬遠する社長がいますが、最初の段階で時間をかけることで出発してからの滞りが少なくなり、結果的にスピード感のある経営が実現すると思います。新年度の計画づくりの参考にしていただければ幸いです。

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