『ブギウギ』生瀬勝久が示した“舞台人”としての覚悟 スズ子はトミの死とどう向き合う?

家政婦として雇った大野(木野花)の助けを借りて愛子(小野美音)の子育てと仕事を両立させていたスズ子(趣里)。羽鳥善一(草彅剛)が新たに「ヘイヘイブギー」を世に生み出し、ここからさらに“ブギの女王”としての本領発揮と思われた矢先に、山下(近藤芳正)から“タナケン”こと棚橋(生瀬勝久)が足を怪我して公演が中止の危機になっていることを伝えられる。

『ブギウギ』(NHK総合)第103話では、“喜劇王”棚橋の覚悟を知ったスズ子が新曲に向けて動き出す。

棚橋が入院している病院に山下とともにお見舞いに向かったスズ子。棚橋は2~3日で復帰できるとマネージャーを説得していたが、医師からは半年間の療養が必要であると言われていた。棚橋は昔、舞台セットに足が巻き込まれてしまっていたが、これまではだましだまし舞台に立ち続けていたそう。だが、今回は立っているのもやっと。「痛みでセリフどころではないんだ」とスズ子を目の前に珍しく弱音を口にする。

それでも棚橋はすぐにでも舞台に立つつもりだという。なぜそこまで復帰を焦っているのか。その言葉の裏には舞台人としてお客さんに忘れ去られてしまうのではないかという不安があった。スズ子は「先生が元気に戻って来るのを待っててくれるはずや」と元気づけるが、何十年も舞台の最前線に立ってきた棚橋は舞台の世界がそんなに甘い世界ではないことを知っている。「僕の代わりなんていくらでもいる」という言葉はとても辛辣に映るが、悲しいことにどの世界においても同じようなケースは多い。棚橋はスズ子の目をまっすぐ見つめて「まだまだお客さんを笑わせたい」と強く決心する。節々から感じる棚橋の舞台人としての覚悟。それが本物だからこそ彼が大スターとして君臨し続けることができているのだろう。

●棚橋(生瀬勝久)に刺激を受けたスズ子(趣里)は善一(草彅剛)に会いに行く

「負けてられへん」と棚橋の気迫に刺激を受けたスズ子は善一に会いに行く。「東京ブギウギ」を超えるヒット曲を求められるあまりどうしたらいいのか分からずに悩んでいたスズ子だったが、依頼主の要望や締切に追われていた善一もまた音楽が大好きだった当時を思い出して葛藤していた。「またあの頃みたいに音楽に向き合えたらいいのに」と語る善一の表情は物哀しい。だが、このまま落ち込んでいてはいけない、ということでスズ子は善一に新曲を書いてほしいとお願いするのだが、善一はブギのネタ切れに苦しんでいた。

帰り際、「おネギとニンジンと……」とスズ子が大野から頼まれていた買い物のリストを口にすると、善一は何かひらめいたようで慌てて書棚へと向かう。本当にアイデアはどこから生まれてくるか分からないものだ。それは日常のどこにでも転がっているとも言える。野菜からヒントを得たブギとは何ともワクワクするが、何やら面白い楽曲が生まれそうだ。

帰宅したスズ子を真剣な面持ちで待っていた山下。村山興業のトミ(小雪)が肺結核で亡くなったことを告げられる。突然の出来事に動揺するスズ子だったが、愛子と一緒に葬儀へと向かうことを決めた。スズ子はトミの死をどう乗り越えるのか。

(文=川崎龍也)

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