社説:松井新市政が始動 前例とらわれず京都改革を

 松井孝治京都市長が就任した。官僚や国会議員として政府の中枢で働き、大学教授の立場から政治と行政のあるべき姿を研究した知見を生かし、果断に改革を進めてほしい。

 先の市長選では、不動産価格の高騰を要因とする子育て世代の人口流出や、訪日客の急増による生活環境の悪化への対応が大きな争点となった。物価高が重なり、教育や福祉の市民負担をどう抑えるかも問われた。

 課題の背景には、これまでの市政が進めた景観、観光関連の政策や、市民に痛みを伴った行財政改革が深く関係している。松井氏は前市長の支援の枠組みをほぼ踏襲して市長選に勝利したが、「後継ではない」とも明言している。的確にひずみをただす手腕が求められる。

 初登庁に合わせて発表した2024年度当初予算案は、公約の中で早期に具体化できる事業に限って計上したという。

 松井氏は記者会見で、自ら市政を総点検して課題を整理し、「解決の方法を問いかけていく次年度以降が本格的なスタート」と述べた。人事や補正予算を通して、いかに独自色を発揮できるかが問われよう。

 教育長出身の市長が2代にわたり計28年続き、市役所は政策立案や人事で柔軟さや大胆さに欠けていった面が否めない。

 例えば、観光分野では混雑の緩和に訪問地や時間の分散を促したが、市域の取り組みにとどまっている。産業政策は京都府との役割分担があいまいなまま、地場の商工業の衰退や大学生が就職で京都を離れる動きに歯止めがかかっていない。

 松井氏は府市協調の強化や周辺市町との連携、大学発の創業支援や国際的な人材を招いたイノベーション創出を打ち出している。前例踏襲ではない政策を生み、実効性を高めるには、職員の意識改革を含め思い切った手を打つべきだ。

 当面の課題に対処する先には、「人口減社会」に適応した政策ビジョンをまとめ、持続可能な財政を確立することが不可欠となる。

 24年度一般会計は、借金返済に備えた基金の取り崩しなど特別な対策をとらずに収支が均衡するとした。それでも、大都市の中で高齢化率が高く、寺社や古い建物が多いといった税収構造の弱さは変わらない。引き上げを検討する宿泊税や導入予定の「別荘・空き家税」などの独自課税を含め、財源と支出の一体的な改革が求められる。

 松井氏は、公約の子ども医療費の負担軽減や保育料の無償化の拡大を国や府と協力し進めるという。関心は高く、実現の道筋を早期に示す必要がある。国を動かす行動と発信力にも期待したい。

 市議会の会派のうち、市長選で支援を受けた勢力は過半数に満たない。政策の実行のためには、是々非々で向き合って柔軟に対話する姿勢が欠かせない。

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