【『不適切にもほどがある!』感想5話】笑いと悲しみの複雑なパッチワーク

SNSを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2024年1月スタートのテレビドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

最初に小さなひっかかりがあった。

2話の最後、「今日、正人くんどうしたの」という質問に「お父さんが見ててくれるから大丈夫」と答えた犬島渚(仲里依紗)の言葉。

渚の親の世代で、一人で乳幼児をきちんと預かることが出来る老父は珍しいんじゃないかと思った。

その小さなひっかかりの答えを、今回知ることになった。

1986年に生きる小川市郎(阿部サダヲ)は、生徒に『地獄のオガワ』とあだ名される中学の体育教師。あだ名の通りハートは熱いがガサツ。ジェンダー、パワハラ配慮なし。

そんな小川市郎が、令和の現代にタイムスリップしてしまう。

令和の世にはあり得ない雑な言動で騒ぎを引き起こすものの、その破天荒さがうけてしまい、テレビ局でアドバイザーを務めることに。

小川はテレビ局で働くシングルマザーの渚と意気投合し、いい雰囲気になりかけるが、小川の娘・純子(河合優実)の名前から、渚は小川の孫だと判明する。

しかし渚が会ってほしいと連れてきたのは、渚の父親で『ゆずる』と名乗る男(令和・古田新太 昭和・錦戸亮)だけだった。

二人の話によると純子は離婚して海外に行ったというが、どうも様子が怪しい。

そして小川と逆に、令和から昭和へタイムスリップしている向坂サカエ(吉田羊)と息子のキヨシ(坂元愛登)は、不登校でまだ出会ったことのない同級生の存在を知る。

クドカンドラマの中に潜むのは…

ドラマ全体の折り返しに、宮藤官九郎がアクセルを踏み込んできた。

怒濤の笑いと胸にせまる悲しみがごちゃ混ぜになって、それをエピソードとしてまとめあげる。その腕は宮藤官九郎ならではだ。

そもそも古田新太の若い頃が錦戸亮という無理筋を、前半は『覇者』『肩パッド』『許しを請うダンス』で大笑いさせておいて、それでも最後には見る者を思わず泣かせてしまうのである。

クドカンの頭の中では、笑いと哀しみの境界線でどんな化学変化が起きているのかと改めて不思議に思う。

軽薄に見えて実は誠実で愛情深かった婿が、最初に作りたいと願ったのが義父の背広なのも、純子が父を東京まで迎えに行ったのも、採寸が上手くいかなかったのも、飲食店で朝まで語り明かしたのも、何もかもそれぞれの愛情ゆえだった。

その互いの愛情のベクトルが父と娘をこの世から連れて行ってしまう残酷さに、ただただ胸が詰まる。

『あまちゃん』(NHK)『いだてん』(NHK)『俺の家の話』(TBS系)そして今作。クドカンが描くドラマには、ありふれた愛おしい日々の中に影のように災害や死の不条理が潜んでいる。

だがその理不尽と同じくらい、そこから日常に立ち戻る人々の営みも丁寧に描かれる。

真実を告げ、深々と詫びて頭を下げたゆずるに、小川が「で?背広は?」と力強く促した言葉は、それでもきっとお前はあの背広を縫い上げただろう、絶望の中で仕事を全うしただろうという確信あってのものだった。

そして、最後に背広姿の小川を見て、渚が誇らしげに「当たり前だよ!父さんが仕立てたんだから!」と言ったその言葉一つで、父と娘で寄り添って生きた年月が分かって胸が熱くなる。

ゆずるが縫い上げたそれは、まさしく『父の背広』であった。スーツでもジャケットでもなく背広。裏地に漢字で名前が縫われた背広。

背広を着てタバコを取り出し、火をつける小川市郎は実に格好よかった。タフな昭和のお父さんの格好よさだった。

そして、それは令和の今は通用しない失われた格好よさであるからこそ、尚更素敵に見えた。

ちなみに宮藤官九郎は、その作品の中で美形を美形に見せなくする名人である。

数多くの時代をときめくイケメンたちがクドカンの手にかかると「残念な愛すべきポンコツ」になってしまうのである。

錦戸亮は、そんなクドカンの魔力で大いに輝く俳優である。

今回も顔は良いのに何だかなあ、な男に見事にハマっていた。

やっぱりクドカン作品の錦戸亮は、とてもいい。

今回は切ない令和パートではあったが、昭和ではキヨシが見知らぬ不登校の同級生と繋がろうとするエピソードが始まった。

このドラマの中で、マスメディアの主流として描かれるテレビとは対照的な魅力を持つメディアとして、ラジオがピックアップされようとしている。

そして、仮に自分自身の天命を受け入れたとしても、果たして小川は愛娘の死を黙認できるのだろうか。

少しでも光がさす展開になるといいなと思う。

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[文・構成/grape編集部]

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