クイーン+アダム・ランバート来日公演:ファンが一同に会した素敵なボーナスのような夜

photo by Ryota Mori

ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第81回。今回は、2024年2月に来日公演を行ったクイーン+アダム・ランバートについて。

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『青春のクイーン、永遠のフレディ 元祖ロック少女のがむしゃら突撃伝』エピローグ

初のドーム・ツアーを終えたクイーン+アダム・ランバート。クイーンとしては、これが最後かも、という噂もあってか、滞在中、メンバーだけでなく、日本のクイーン・ファンの、この時を十分に楽しみたい、という熱い思いが、各所から伝えられてきました。

羽田空港での出迎えでは、70年代に叶えられなかったメンバーとの遭遇に、ワクワクな気持ちを経験した方達がたくさんいらしたようです。みなさんの「青春のクイーン」物語は、今も継続していることに心温かくなりました。そして、ツアーが終わっても、映画『フレディ・マーキュリー The Show Must Go On』、『QUEEN ROCK MONTREAL』の劇場公開など、クイーン・ロスになる時間がないぐらい、クイーン・ファンの集合場所は、至る所に用意され、コンサートの興奮をそのまま場所を移して楽しむことができているようです。

「THE RHAPSODY TOUR」は、2019年ヴァンクーバーからスタートしました。その後、2020年にブライアン・メイの心臓手術、パンデミックによる二度の延期など、ハプニングに見舞われながらも、2022年夏、ヨーロッパから再開されています。そして5年をかけたツアーの最終公演地が日本となったわけです。これが最後かもしれない、という理由の中には、ブライアン76歳、ロジャー74歳という年齢からくるものがないとは言い切れません(今回のツアーでは、まったくそういった不安は感じられませんでしたが)。

クイーンのコンサートを体験された方ならばわかるはずです。あれだけの大掛かりなショウを展開しようとしたら、長い時間をかけてプランを練り、クリエイティヴなステージングを考え、ようやくツアーとして実現されます。今日明日で、出来てしまう舞台ではないのです。次のツアーを期待したとしても、あと5年は要するかもしれません。

それだけでなく、アダム・ランバートもソロ・アーティストとしてのキャリアを着実に積み重ねています。昨年リリースしたカバー・アルバム『High Drama』も聴き応えのある作品でした。アダムの新しい世界観も切り拓いて行かなければいけないことを、ブライアン、ロジャーは理解しているのではないでしょうか。

だからと言って、ブライアンとロジャーが音楽をやめてしまうわけではありません。クイーンの名の下、またはソロとして、さまざまな場面で、これからも音楽生活を楽しんでいくことは間違いないでしょう。先日、ブライアンは、ジミー・ペイジ、トニー・アイオミと並んだ写真を投稿し、Gibson Guitar Garageの立ち上げを報告したり、3月15日に公開されるマーク・ノップラーによる癌撲滅チャリティ・シングルに、数多くのギタリストと参加していたことを発表したり、その活動は続いていきます。きっとこの先も私たちを楽しませてくれることでしょう。 

ジャパン・ツアー

さて、ジャパン・ツアーに話を戻しましょう。名古屋から始まった4都市5回のドーム・ツアー。クイーンにとって全公演ドームで行う初めてのツアーになりました。70年代、80年代のコンサート会場事情を考えると、フレディ、ブライアン、ロジャー、ジョンでの来日公演時は、全国にドーム会場がなかったという時代背景はありますが、年月が流れ、デビュー50周年を超えても今、ドーム・ツアーを完走したことに、改めて感慨深いものを覚えるのです。

ブライアン、ロジャーの音楽活動、ポール・ロジャーズからアダム・ランバートに至るまで、クイーン・ソングスを継承してきたシンガー達の努力あってのことですが、何よりも、クイーンの楽曲の数々が、時代を超えて、多くの人たちに愛されている名曲揃いであることを、改めて認識できたことが、何よりの喜びでした。

私は東京ドーム2daysに参加しました。初日は、湯川れい子先生とバルコニー席で、少し冷静に公演全体を観て、ツアーを締めくくる最終日は、著書『青春のクイーン、永遠のフレディ  元祖ロック少女のがむしゃら突撃伝』にも登場している、昔からクイーンの公演に同行してくれた妹と見届けました。

オープニングの大きなセットと映像にワクワクし、ステージを彩る豪華なライティングを観ていると、クイーンが初めてバリライトを駆使し、豪華なライティングによるステージを披露した時代を思い出しました。今でこそ、多くのアーティストのステージには欠かせないゴージャスなライティングですが、80年代、ライティングシステムがアーティストの真上や横にマシーンのように移動するなんて画期的でした。クイーンというロック・バンドは、常に大掛かりなステージングでファンを魅了してきたグループであり、時代が流れた今でも、変わらず、素晴らしいものを見せてくれることが嬉しかったのです。

Photo by Ryota Mori

アダムのヴォーカルも、2020年にリリースされたライヴ・アルバムの歌声を聴くとよくわかりますが、大きな成長を遂げ、ヴォーカリストとしてさらに磨きがかけられていました。選曲は4枚目の『A Night at the Opera(オペラ座の夜)』から『Innuendo』までが中心となっていました。なんと名古屋では「Killer Queen」が演奏されたという、スペシャルな出来事がありましたね。

考えてみると、キーボードを担当したスパイクは健在でしたが、フレディの独特なピアノの音色から始まる楽曲は、あえて選曲されていなかったような気がしています。今回のセットリストは、ブライアン、ロジャー、アダムの3人の魅力が最大限生かされた選曲である、とコンサートを観て理解できました。日本のファンのために「手をとりあって」を披露、フレディのソロ・ヒットとして知られる「I Was Born To Love You」(クイーン・ヴァージョンは『Made in Heaven』に収録)も忘れずに演奏してくれました。ちょいちょい披露されるブライアンの日本語にも感謝な気持ちで聞いていました。また、アダムが歌う「手をとりあって」も、今回のツアーならではのサプライズでした。

Photo by Ryota Mori

私の席の後ろの50代ぐらいの方は、ご夫婦で来ていました。お隣の方は、杖をついていらしてました。映画『ボヘミアン・ラプソディ』以降の若いファンもいらっしゃいました。世代を超え、ドームを埋めつくした人たちは、さまざまなクイーンとの出会いを持っているんだなぁと、客席を眺め、しみじみと感動していました。

私にとってのクイーンは、やはりアルバム『Made in Heaven」で完結しています(詳細は著書に書きました)。でも今、デビューして51年が経つクイーンの音楽を体感したいというクイーン・ファンが、一同に会するって、本当に素晴らしいの一言です。みなさん、一人一人の想いを乗せ、2時間の旅は終わりを告げました。

私の旅も、私が愛したグループは、本当にすごいグループであるんだ、と胸に刻み、素敵なボーナスを頂いた気持ちと共に幕を下ろしました。これからはまた、フレディの歌声と共に、クイーンの音楽を聴き続けることにします。

Written By 今泉圭姫子 / Photo by Ryota Mori

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