自民党裏金問題捜査のポイントと再発防止策とは?選挙違反や贈収賄などの捜査に詳しい元刑事が解説

自由民主党の裏金問題は、将来の総理候補と目される安倍派「5人衆」にも疑いの目が向けられ、日本社会に大きなインパクトを与えました。この記事では、約25年にわたり選挙違反や贈収賄などの捜査に携わってきた元刑事の齋藤顕氏に、今回の裏金捜査で着目したポイントや今後の再発防止策のポイントについて話を伺いました。

自民党裏金問題とは? 

2023年12月19日に東京地検特捜部が自民党の政治資金パーティーを巡る裏金問題について強制捜査をはじめました。捜査のきっかけは、安部派を含む5つの派閥の政治団体が、政治資金パーティーの収入を政治資金収支報告書に約4000万円の過少記載があったという東京地検特捜部への告発です。

東京地検特捜部は、2023年12月に全国から50人規模で検事を集めて捜査を行いました。捜査対象は、国会議員、議員秘書・会計責任者です。

今回の大規模な捜査について、齋藤氏は「議員秘書は過去5年間まで遡り退職者も含めると数百人にも上るとみられるため、大量の捜査員が必要だったのではないかと考えられます」と話します。

捜査の結果、罪が問われる「逮捕・起訴」に至った議員は、3人のみ。約100人規模の安倍派のうちでもほんの一握りにとどまりました。

現在の政治資金規正法で収支報告書の提出義務が課されているのは、会計責任者のみです。会計責任者が有罪になった場合に国会議員も責任が問われる公職選挙法にある「連座制」は、政治資金規正法にはありません。議員や秘書の共謀・知情性の立件ができるのは、不記載や虚偽の記載の指示をした証拠があるケースに限られ、政治資金規正法には抜け道が多いのが現状です。

元刑事が着目した今回の東京地検特捜部の3つの特徴

特徴1 時効と通常国会が迫った「短期決戦」

今回の東京地検特捜部の捜査は、2023年12月14日から2024年1月25日までの42日間という短期決戦でした。短い期間で捜査が行われたのは、時効と国会開会の時期が迫っていたからだと考えられます。

政治資金収支報告書に関する公訴時効は5年間です。刑事告発された清和政策研究会(安倍派)の政治資金パーティーの開催時期は2018年〜2022年であり、告発事項の最初の時効が訪れるタイミングが2024年3月31日でした。

また、国会議員には、国会の会期中は逮捕されない「不逮捕特権」があります。2024年1月に開会される通常国会の会期は150日。国会終了後は時効を迎えてしまうため、国会が開会される前に決着をつける必要がありました。

特徴2 落としどころが見つけにくい捜査だったのではないか

齋藤氏は、下記の点で「落としどころがみつけにくい捜査だったと考えられる」と話します。

▼重要な捜査対象となる派閥の会長が死去している

立件できるかどうかは、組織的に・習慣的にやっていたか?がポイントになります。派閥の会長を務めた細田博之前衆院議長と安倍晋三元首相は死去しており、重要な捜査対象者が欠けていました。

故人である派閥の会長と会計責任者で処理をしていたと説明する議員に対しては、実態を明らかにするのは難しかったと考えられます。

▼政治資金規正法が「ザル法」

政治資金収支報告書に関する公訴時効は5年間ですが、公表期間は3年間(毎年11月に公表)です。さらに、公表期間中は訂正・修正ができます(それ以降も官報・公報による告示の訂正ができます)。

「裏金をためて不正に使っていた」という証拠があれば立件できますが、今回のように「繰越金」などとして収支報告書を訂正すれば、説明責任が済んでしまうような抜け道がある点がザル法と言われる理由です。

一方で、分かりにくいという声もあがる政治資金規正法(不記載・虚偽)の立件の基準額が「3000万円」と言われている点については、妥当な設定という見方もできます。

この点について、齋藤氏のコメントは以下のとおりです。

「私が捜査二課にいたときに担当していた贈収賄の捜査では、その人の給与以上を基準とする慣例があった。その理由は、給与以上の金額であれば、悪性が認められると考えられていたから。国会議員の給与(議員歳費、期末手当、文書通信交通滞在費※現・調査研究広報滞在費)が3000万程度である点から、妥当な設定と考えられる」

特徴3 報道が目立ったその意図は?

今回の捜査では、検察内部しか知りえない情報がマスコミから流れるケースがありました。

通常、不起訴の理由は「嫌疑なし、嫌疑不十分、起訴猶予」の3種類があります。これは、本人でも数カ月後に知らされるような検察内部しか知りえない情報です。しかし、朝日新聞などの一部新聞では不起訴決定の日の見出しで「嫌疑なし」とまで書かれていました。

この点について齋藤氏は

「国民の関心が高く、捜査機関が短い異例の捜査の中で、マスコミをスピーカーとして抱えていた人が捜査本部にいたのではないか。逆に、意図的にマスコミに情報を流した可能性も考えられる。それは、捜査入りを知らせることで、収支報告書を訂正する動きが出れば、捜査しやすいとも考えられる」とコメント。

実際に、池田佳隆議員は、特捜部が家宅捜索に入る前に証拠隠滅を図った疑いが、逮捕へとつながりました。

政治とカネ問題の再発防止策とは?

各党からは連座制の導入の声も

今回の捜査を受けて、各党の改革案では、公明党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党からは「連座制の導入」を求める意見が出されています。

連座制の導入について、齋藤氏は「私は、元捜査官であって、法律の専門家ではないので連座制の法整備についてはコメントは差し控えます。ただ、公職選挙法の連座制と同じように、政治資金規正法に導入して適用することは困難ではないかと考えています」と話します。

再発防止には罰則強化が必要

齋藤氏は、再発防止策については、罰則の強化が抑止力になると話します。

「政治資金規正法は、戦後の昭和23年にアメリカGHQの主導で制定された法律で、その後幾多の改定を重ねて現在に至っている。

その間、政治資金の問題点は山ほど指摘されているが、抜本的な解決には至っていない

率直に言えば、政治資金は、この法律によって手厚く保護されているといっても過言ではない。

特捜部が手掛けた今回の事件の結果は、現行の政治資金規正法の適用範囲でいえば満点に近い捜査であったと考えている。しかしながら、国民は全くもって納得しない。

日本最強の捜査機関が、最大限の捜査をし、結果を出しても、多くの国民が納得しない理由は、国民が納得するような取締りができない法律であるからである。

厳罰を伴う取締りが可能な法律への改正で、この種の事件の再発防止ができると考えている。」

(執筆協力:濱田美枝)

© 選挙ドットコム株式会社