能登半島地震-識者に聞く/東京大学生産技術研究所教授・加藤孝明氏

◇災害時自立生活圏の構築を
□災害を乗り越える力□
時代や技術がどれだけ進んでも自然の大きな力が私たちの暮らしの空間に加わると、大災害になることを改めて認識させられた。29年前の阪神・淡路大震災、13年前の東日本大震災と現在では暮らし方や高齢者像が変化している。そうした変化が災害を乗り越える力にどう影響するのか。今後注視すべきポイントだと考える。
今回の地震では、インフラが甚大な被害を受け、多くの孤立集落が発生した。被災地支援は困難を極めている。改めて着実に国土強靱化を図ることの重要性とともに、災害時のライフラインの自立性の強化が今後の強靱化の重要な要素であることも感じた。以前から私は災害時自立生活圏の構築を提唱している。災害時の自立性の確保は、半島や離島だけではなく、広域停電を視野に入れれば都市部にも共通する課題だ。

□被災エリアでライフラインの自給自足□
例えば千葉県いすみ市では、2019年に台風15号の影響で発生した広域長時間停電を受け、電力の地域マイクログリッドを導入した。これは災害時の拠点となるエリアにLPガス発電や太陽光発電、蓄電システムの施設を整備し、非常時に送電が途絶してもエリア内の電力供給を可能とするもので、昨年3月に設備運用が開始された。
上水道も含めて自立分散型の自給自足のシステムを構築しておけば、大規模災害が起きても地域は自立できる。自立を進めながら、同時にインフラで災害を乗り越える力を担保していくことが必要だ。
半島離島は自立していたかつての状態を思い起こし、現代的な技術を生かして災害に備えて多重のフェイルセーフをつくっていくことが重要である。

□常識の中にある非常識□
これまでの常識の中に非常識はないか。改めてこうした視点で課題を抽出することも重要である。被災者は被災地域にほぼ全員がとどまり、苦しい避難所生活に耐える。そこに外から苦労して救援物資を届けるのが標準となっている。むしろ被災者にライフラインが整った地域にいったん移ってもらい、最低限の暮らしができるまで復旧が進んでから戻ってもらう方がよいかもしれない。昨今の災害では直接死を超える災害関連死が発生している。人的被害を防ぐために必要な視点である。
今後の復興では持続性のある地域をいかに再生、再興していくかが重要となる。住宅再建だけでなく、それぞれの地域で持続性のキーとなる産業の再生を重点的に支援することが地域の持続性の回復につながる。同時に単なる復旧にとどまらず近未来的なシステムも導入するなど、時代を先取りした創造的復興を進めなくてはならない。

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