高音質と上質さにこだわった15万円以下のアナログプレーヤー厳選4モデルを横並びレビュー

10万円以上15万円以下で購入できるミドルクラスのアナログレコードプレーヤーを一斉試聴

アナログプレーヤーの音質精度は価格に比例する、つまりコストを掛けるほど高音質が得やすい。これは、レコードへと物理的に刻み込まれた音溝を針先でなぞることによって音楽信号を読み取ったり、その読み取りのためにターンテーブルを回したりという、極めて「アナログ」的な再生原理ゆえの特性であり、モノや機械としての精度が音に直結するのだ。

10-15万円台のアナログプレーヤーは、各メーカーのミドルクラス、またスタンダードクラスでも上位に位置づけられる。本格的な再生音質の入り口といえるモデルがラインナップされており、それだけにモデルごとのキャラクターがはっきりと立脚し、クオリティもしっかり確保されている。

フォノイコライザーアンプやレコード録音機能なワイヤレス接続機能などは省かれ、より高音質に繋がる技術が注ぎ込まれていることが特長だ。多機能性よりも音質やモノとしての上質さが追求される。アームの高さ調節が容易でより多様なカートリッジにも対応するなど、さらに高品位なアナログ再生の世界に踏み込むことが出来るのである。 本稿では、そんなアナログプレーヤーの中から4モデルを厳選してレビューを実施した。

なお、今回の4機種の試聴にあたっては、レファレンスシステムとして、スピーカーにKEF「R3 Meta」、カートリッジにはオーディオテクニカ「AT-VM95SH」(カートリッジが付属しないモデルに使用)、フォノイコライザーアンプにフェーズメーション「EA-220」を使用した。

試聴では、KEFのスピーカー「R3 Meta」をはじめ、オーディオテクニカ「AT-VM95SH」やフェーズメーション「EA-220」を使用した
TECHNICS 「SL-1200MK7」 120,000円(税込)

DJ仕様のスタイリッシュなブラックフェイスが印象的なテクニクスのアナログプレーヤー。1972年に初代モデルが発表された「SL-1200シリーズ」は、強靭な耐久性能と安定した音質によって、DJ向けプレーヤーの世界的定番モデルとして半世紀以上にわたり君臨してきた。

SL-1200MK7のヘッドシェル部。付属カートリッジはなし

最新モデルとなる本機は、要となるコアレス・ダイレクトドライブ・モーターを一新し音質をブラッシュアップ。DJ仕様ならではの特徴として、スタート・ストップ速度の4段階調整や、細かなピッチ補正(±14%)機能を備える。本体後面から一歩奥まった位置にフォノケーブル及び電源ケーブル端子が配置されおり、配線をスッキリと見せることができ、さらにケーブルが誤って抜けにくい仕様となっている。

SL-1200MK7の背面端子部/電源端子部

楽器や歌声の位置関係が明快で音の余韻も綺麗

ターンテーブルのスタート・ストップは非常にキビキビと動作し、ダイレクトドライブならではの力強い動作反応を味わえる。驚くのは音質で、聴き応えのある上質かつ充実したサウンドを実現しつつも、バランスよく過不足がない。これぞまさにプロ・ユースならではの無駄の無さだ。

楽器や歌声の存在や位置関係が明快で、音の余韻も綺麗で雑味がない。カートリッジの音の特徴も明瞭に現れている。トーンアームの高さ調節が容易で、なおかつミリ単位の目盛り表示を有しているのも本機ならでは。背の高いDJ用カートリッジも簡単に取り付けが可能だ。

SL-1200MK7の音質傾向
Pro-Ject 「DEBUT-S」 121,000円(税込)

Pro-Jectはオーストリアのアナログプレーヤーブランドだ。シンプルなフォルムと構造のプレーヤーで、低価格ながらもレコードならではの滑らかな音の味わいが楽しめるプレーヤー作りで人気を博してきた。本機は新たなラインナップで、やはり同社らしいシンプルな本体に、少し太めのS字型アームが組み合わせられ、佇まいのミニマムさ、シンプルさが際立っている。

DEBUT-Sのカートリッジ部
DEBUT-Sのトーンアーム/ウェイト部

スイッチは天板の左手前裏側に配されており、左右への切り替えで、33.3/45回転を切り替えられる。プラッターは、メインプラッターにサブプラッターを乗せることで不要振動をコントロールする、英国製プレーヤー等でよく見られる2重構成を採っている。メインプラッターへのベルトの掛け替えで78回転へも対応する。アームの高さは固定式だ。

DEBUT-Sの背面端子部/電源端子部

楽器の倍音感が自然に浮き立つような味わい

ウェットな質感がなんとも心地よいサウンドを堪能できる。とりわけ生楽器との相性が抜群だ。クラシックでは、シンプルな構造や先述の2重構成プラッターの恩恵か、静けさ表現が心地よい。例えば、オーケストラソースで、曲中で急に2重奏的な小さなアンサンブルになった際にも、奥行きや間合い表現が巧みに描かれるし、ピアニッシモやクレッシェンドの繊細なタッチも美しく拾い上げる。

音色も楽器の倍音感が自然に浮き立つようなオーガニックな味わいが楽しめる。一方で、全体的にソフトな音傾向なので、エネルギッシュで快活なロックやジャズでは、もう少し音のキレやカッチリ感が欲しい場合もあるが、やはりアコースティック・ソースとの相性は抜群だ。

テクニクス「SL-1500C」、JBL「JBL TT350 Classic」をチェック

TECHNICS 「SL-1500C」 130,000円(税込)

上品でフラットなデザインが美しいテクニクスのもうひとつの顔。アルマイト仕上げの天板と、隅に配置された薄型のボタン類が、品の良い佇まいを演出している。シルバーの他、精悍なブラックモデルも用意。そのルックスの一方で、SL-1200シリーズ同様に高性能モーターによる卓越したダイレクトドライブ技術を継承。33.3/45回転は勿論78回転まで対応する他、アームの高さ調節も容易。

SL-1500Cのカートリッジ部
SL-1500C のトーンアーム部/ウェイト部

搭載されているフォノイコライザーアンプは、付属するオルトフォン「2M RED」カートリッジを含めたサウンドとの相性も良く、本機を買ってすぐ高音質を楽しむことが出来る。また、レコード再生終了時に自動的にトーンアームが持ち上がる「オートリフトアップ機能」を搭載するなど、使い勝手への配慮も巧み。

SL-1500Cの背面部/電源端子部

楽器の輪郭で明快でメリハリに富んだ音楽表現

先に聴いたSL-1200MK7と比較すると対照的で興味深い。「2M RED」カートリッジのキャラクターが存分に発揮され、メリハリに富んだ迫力ある音楽表現が楽しめる。ボーカルはヌケが良く明快で、ドラムスは少し大き目の音像で再現され、聴き手へと畳み掛けるように迫るフィルインが実にエネルギッシュだ。

より高回転となる45回転盤を再生した時も音がブレたりよれたりせず、歌声や楽器の輪郭が明快で、ホールやスタジオのアンビエンスも明瞭に拾い上げられる。このあたりに、ターンテーブルの正確な駆動能力やトーンアームのピックアップ能力など基礎体力の高さを伺い知ることが出来る。どっしりとした表現と、正確な時間軸の描写で、オールマイティに音楽を楽しませてくれるプレーヤーだ。

SL-1500Cの音質傾向
JBL 「JBL TT350 Classic」 143,000円(税込)

JBLが新展開する「Classic Componentsシリーズ」のアナログプレーヤー。1960年代中頃に発表した同社のプリメインアンプ「SA600」のデザインを踏襲した美しい佇まいが印象的だ。サイドパネルは、リアルウッドの突板を用いたこだわりの仕上げとなっている。駆動方式は、ダイレクトドライブを採用。

JBL TT350 Classicのカートリッジ部
JBL TT350 Classicのトーンアーム部/ウェイト部

回転数は33.3/45回転に対応する。今回登場している他のプレーヤー同様ユニバーサルアームを搭載し、ヘッドシェルの付け替えによってカートリッジ交換を容易に楽しめる他、VM型のオーディオテクニカ「VM95E」が付属するので、カートリッジ本体はそのままにスタイラス交換だけで様々なサウンドを楽しめることもポイントと言える。

JBL TT350 Classicの背面端子部/電源端子部

音像が適切で清澄完も健在する爽快なサウンド

そのサウンドは、付帯感のないシンプルでスッキリとした描写が快いものだ。ボーカルやギターなどはもちろん、バスドラムやベース類などの低音楽器の余韻も澄んでおり、端正で明快な視界が心地よいのだ。クラシックでホール空間の見通しが良好で、弦楽器の持続音はボウイングの様子が手に取るように見えてくる。

楽器の音像も適切なサイズで立ち現れる。エネルギッシュなロックやジャズピアノトリオでもその清澄感が健在で、スピード感溢れる音楽の推進力が、脚色のない音色表現とともに十二分に発揮される。ルックスのレトロなイメージとは裏腹に、実に爽快なサウンドを堪能できるプレーヤーなのだ。

取材した4モデルのSPECをチェック

[SPEC]

TECHNICS 「SL-1200MK7」

●駆動方式:ダイレクトドライブ ●駆動モーター:コアレス・ダイレクトドライブ・モーター ●ターンテーブル:アルミダイキャスト+ラバー ●回転数:33 1/3、45、78 ●ワウフラッター:0.025% ●オーバーハング:15mm ●トーンアーム形式:ユニバーサルS字型スタティックバランス ●適用カートリッジ:5.6g-12.0g/14.3-20.7g(ヘッドシェル含む) ●主な入出力端子:PHONO×1、アース×1 ●カラー:ブラック、シルバー ●消費電力:8.0W、約0.2W(待機時) ●外形寸法:453W×169×353Dmm ●質量:約9.6kg

Pro-Ject 「DEBUT-S」

●駆動方式:ベルトドライブ ●駆動モーター:ベルトドライブ ●ターンテーブル:スチールメタル ●回転数:33 1/3、45、78 ●ワウフラッター:0.17%(33)、0.15%(45) ●オーバーハング:18.5mm ●トーンアーム形式:S-Shape ●適用カートリッジ:7-10g/ortofon「2M Red」付属 ●主な入出力端子:PHONO×1、アース×1 ●カラー:ウォールナット、ブラック ●消費電力:4W、1W以下(待機時) ●外形寸法:415W×118H×320Dmm ●質量:5.6kg

TECHNICS 「SL-1500C」

●駆動方式:ダイレクトドライブ ●駆動モーター:シングルローター型コアレス・ダイレクトドライブ・モーター ●ターンテーブル:アルミダイキャスト+ラバー ●回転数:33 1/3、45、78 ●ワウフラッター:0.025% ●オーバーハング:15mm ●トーンアーム形式:ユニバーサルS字型スタティックバランス ●適用カートリッジ(補助ウェイト未使用時):5.6-12.0g/14.3-20.7g(ヘッドシェル含む)/ortofon「2M Red」付属 ●適用カートリッジ(補助ウェイト使用時):10.0-16.4kg/18.7-25.1kg(ヘッドシェル含む) ●主な入出力端子:PHONO×1、アース×1、アナログ音声出力(RCA・37dB)×1 ●カラー:ブラック、シルバー ●消費電力:8.0W、約0.2W(待機時) ●外形寸法:453W×169H×372Dmm ●質量:約9.9kg

JBL 「JBL TT350 Classic」

●駆動方式:ダイレクトドライブ ●駆動モーター:ダイレクトドライブモーター ●ターンテーブル:アルミダイキャスト ●回転数:33 1/3、45 ●トーンアーム形式:アルミニウム製S字型スタティックバランス ●適用カートリッジ:audio-technica「AT-VM95SE」付属 ●主な入出力端子:PHONO×1、アース×1 ●消費電力:12W、0.5W以下(待機時) ●外形寸法:449W×150×355Dmm ●質量:7.5kg

<今回使用したレファレンス機器>

スピーカーシステム KEF 「R3 Meta」

カートリッジ audio-technica 「AT-VM95SH」

フォノイコライザー Phasemation 「EA-220」

audio-technica 「AT-VM95SH」 36,300円(税込)
Phasemation 「EA-220」 12,000円(税込)

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