コクピットが殺人現場に! ガンダム×人狼ゲームの異色作『機動戦士ガンダム ウェアヴォルフ』がおもしろい

『ガンダムエース』にて連載中のコミック『機動戦士ガンダム ウェアヴォルフ』の単行本一巻が発売となった。「人狼ゲームとガンダムとミステリ」という異色の組み合わせながら、ちゃんとガンダムの外伝コミックとして読めるという、まるでよくできた三題噺のような作品である。

もはや言わずと知れたパーティーゲームとなった人狼ゲーム。村人と村人に化けた人狼に分かれて互いの正体を推理し合うターン制のゲームであり、昼のターンでは全プレイヤーの投票によって決まった人狼の容疑者一人の処刑が行われ、夜のターンでは人狼による襲撃によって村人側に犠牲者が出る。最終的に人狼を突き止めることができれば村人の勝ち、生き残った人狼と同じ人数まで村人を減らすことができれば人狼側の勝ちとなる。

こんなゲームをガンダム世界に持ち込んでマンガにするって、一体どうやって……と思うが、これがしっかりと「ガンダムの外伝コミック」になっているから驚きだ。舞台はグリプス戦役期の宇宙世紀0087年。ティターンズのペガサス級強襲揚陸艦「ヘカーテ」は、ガンダムMk-Ⅳに似た新型機「ウェアヴォルフ」の試験運用任務中に、暗礁宙域ゼブラゾーンにてエゥーゴの奇襲を受ける。戦闘により航路を外れたヘカーテは地球圏を離れて宇宙を漂流することになってしまい、さらに同盟相手であったはずのアクシズからも襲撃を受けてしまう。

踏んだり蹴ったりのヘカーテだが、テストパイロットのラセッド・グレンドン中尉がウェアヴォルフで出撃。アクシズのモビルスーツを退け、ヘカーテは辛くも勝利する。戦闘後、ヘカーテへ帰投するウェアヴォルフだったが、なぜかラセッド中尉はコクピットのハッチを開かない。不審に思ったクルーがハッチを開いてみると、そこにあったのはラセッド中尉の他殺死体だった。

「モビルスーツ内を現場とした密室殺人」に騒然となるヘカーテ艦内。しかし艦長であるリュコス・フレイバーグ中佐は、戦闘によって保安部の兵士が全員戦死した状況下で200名以上のクルーから犯人を見つけるのは不可能であり、必要なのは「犯人を全員で吊し上げた」という共犯意識であると判断。12時間後に最も疑わしいクルーを艦内の「投票」によって決定し、軟禁拘束すると発表する。

……というストーリーなのだが、どうだろうか。めちゃくちゃ見事に「人狼とガンダム」というお題を物語に落とし込んでいないだろうか。漂流中の軍艦という、人間関係が固定された巨大な密閉空間。そこで発生するコクピットを殺人現場とした密室殺人事件。しかもヘカーテが「性悪な差別主義者のエリート部隊」であるティターンズの運用する艦であるというのが大事である。

人狼ゲームをテーマにしているということもあり、登場人物同士が腹を読み合い、物語が進むごとに密閉された艦内の人間関係のひずみが明らかになっていく。第一話ではいかにもストーリーの主役を張る熱血エースパイロットっぽかったラセッドがイジメとセクハラの常習犯であり、他のパイロットたちもそれを知っていて半ば黙認していたり、艦長のリュコスと副長のオクリーヌの間にもただならぬ関係がありそうだったりと、ヘカーテ艦内は人間関係がずいぶん殺伐としているのだ。

しかしどれだけ艦内の人間関係が殺伐としていようがドロドロしていようが、「まあ、ティターンズの軍艦だもんな……」となってしまうのが上手い。考えてみれば、グリプス戦役を描いた『機動戦士Zガンダム』は前ガンダムシリーズの中でも人間関係のギスギス具合ではトップクラスの作品である。同時代のティターンズ艦の中ならイジメもセクハラもあって当然、読めば読むほど「ああ、ティターンズの軍艦には乗りたくないなあ」「『Zガンダム』の時期の宇宙世紀って本当にイヤだなあ」と思うこと請け合いである。

そんな中で、ラセッドによるイジメとセクハラの被害者だったレトとマカミが、「自分たちに殺人の動機がありすぎるので、投票による吊し上げを避けるために事件の真相を探る」という理由から探偵役になるという流れもスムーズ。人狼と言っているからにはこの後も被害者は出続けるのだろうが、それをこの二人がどう解決するのか、はたまた解決できずに死んじゃうのか。ただのドロドロした群像劇だったらウヘ~となってしまうところ、主人公的な探偵ポジションがはっきりしていることでグッと続きが気になる作品になっている。

強いて言えば「パッと見で女性キャラクターなのか男性キャラクターなのか分かりづらい」「モビルスーツ同士の戦闘の推移が読み取りづらい」などの難点はあるものの、主題はそこにないので全然目を瞑れる範囲である。とにかく「『ガンダム』という作品の設定の中で人狼ゲーム的状況を発生させ、そこに探偵役をぶつけることでミステリとして成立させる」というウルトラC的な難事業を成し遂げた作品なのは間違いなし。正直早く2巻が読みたい……と強く思わせてくれる、見事なページターナーである。

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