もう、限界です…世帯年収1,200万円の30代夫婦「湾岸エリアのタワマン」で“ウキウキ新婚生活”スタート→わずか1年半で売却したワケ【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

タワーマンション(以下、タワマン)とは、主に地上20階建て以上の居住用高層建物のことを指します。「高層マンション住み」はひとつのステータスである一方、人によっては「すぐに手放してしまう」ケースも…“湾岸エリアのタワマン”で新婚生活をスタートさせた30代夫婦の事例をもとに、FP事務所ストラット代表の伊豫田誠氏が解説します。

世帯年収1,200万円の共働き夫妻、湾岸エリアのタワマンで新婚生活スタート

千葉県に住む34歳のA氏は、都内の上場企業の子会社に勤務しており、年収は750万円ほど。職場で知り合った31歳のB氏と結婚し、新居を探していた。B氏の年収は約450万円で、当時の2人の合計貯蓄額は約800万円。B氏は結婚後も仕事を続けるため、世帯年収はおよそ1,200万円。新生活のスタートには十分余裕があると考えていた。

不動産業者の“営業トーク”でタワマンの購入を決意

新居探しでは、1時間以上かかる通勤を負担に感じていたため、必須条件として「都内人気エリアの駅チカ物件」としていたA夫妻。年収1,000万円以上の世帯は12.6%といわれるなか、十分な資力を有しているA夫妻は、不動産業者から湾岸エリアのタワマンを勧められた。

A夫妻は当初タワマンへのこだわりがあったわけではない。しかし、新婚で浮足立っていたこともあり、内見でみた部屋からの景色と不動産業者の営業トークによってすっかり“タワマンの虜”になったのだった。多くの人にとって、一生に一度の買い物となるマイホーム……「絶対に妥協したくない」と考えていたA夫妻は、立地の良さに加えてタワーマンションの充実した共有施設に魅了されていた。

共有施設には、

・ラウンジ

・ゲストルーム

・パーティールーム

・フィットネスルーム

・プール

・シアタールーム

・最上階展望ラウンジ

などがあり、特に遠方から親戚や友人が来た際に宿泊できる、ゲストルームはありがたいと感じていた。

加えて、不動産業者の営業から「地価や資材、人件費などの高騰で、数年先に建つ不動産の価格はさらに上昇するだろう」と説明を受けたことも購入を後押し。少し見切り発車だとも感じていたが、都会で毎日の疲れを癒してくれるのは、豪華なマイホームだと夫婦はお互いに言い聞かせた。

高層階はさすがに手が出なかったものの、タワマン9階の3LDKで約9,000万円の物件を、頭金500万円(住宅ローン8,500万円)で購入することに。定年時には完済できるように30年ローンで組んだ支払額は、維持費などを含め毎月25万円と決して安くはなかったが、A夫妻は「これからより一層仕事を頑張ろう」とやる気に満ち溢れていた。

生活環境の変化で収入がダウン

タワマンでスタートした新婚生活は非常に楽しく、お洒落な家具や嗜好品なども次々にそろえた。また、2人で旅行にも出かけて出費は多かった。新居は利便性が良く、通勤時間が大幅に短縮できたこともあり、2人の余暇が増えるに比例して出費も増えた。

共稼ぎの安心感から、結婚後の家計管理をおろそかにしていたこともあり、次第に夫婦は「あれ? お金が全然貯まらない……」と感じるように。

そして購入から1年後、妻の妊娠が発覚。2人はおおいに喜んだが、妊娠3ヵ月目から妻のつわりが酷く、とてもじゃないが働けないと感じるようになった。有給をフル活用してなんとかやり過ごしたものの、A夫妻は「産休・育休の期間に住宅ローンが払えるのか? このままでは確実に赤字だ……どうしよう」と、家計への不安はますます大きくなっていった。

産前・産後休業(産休)は、出産の6週間前以降と産後8週間以内で休業を取得する。また育児休業(育休)は、1歳未満の子どもを養育する場合に取得でき、最長で子どもが2歳になるまで2回に分けて取得できる。

この産休・育休の間の給料は、ほとんどの企業で支払われない。もっとも、産休については健康保険から「出産手当金」が給付される。また、育児休暇に対しては雇用保険から「育児休業給付金」が給付されるため、収入がゼロになるということはない。

【出産手当金(日額)】

「支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額」÷30日×2/3

【育児休業給付金(日額)】

休業期間6カ月(180日)の間……「休業開始時賃金日額×休業期間の日数」×67%

6ヵ月以降、育休終了時までの期間……「休業開始時賃金日額×休業期間の日数」×50%

出産・育児休業で妻の給料は、おおむね3割にあたる毎月12万円が減額されるため、育児休業を長期に取得した場合、家計は赤字の可能性が出てくる。

夫婦の両親は県外で暮らしていているため、頼るのは難しい。子育て中の友人いわく、3時間おきのミルクや、夜泣きなどで、とてもじゃないが働きながらの子育てはできないと言う。また、子どもの突然の病気などで、職場にも迷惑をかけてしまうかもしれない。こうした不安から、妻のB氏は「仕事と育児の両立なんて無理よ。仕事を辞めるしかないと思うの」と言いはじめた。

現在のタワマン生活は気に入っているものの、このまま生活が維持できるとは思えない……お金の不安に押しつぶされそうなA夫妻は、FPへ相談することに。

共働きなくしてタワマンの維持は不可能…マイホームの“理想”と“現実”

A夫妻の生活費は下記の通り。

・食費10万円

・光熱費2万円

・通信費3万円

・交通費3万円

・日用雑貨2万円

・医療費1万円

・保険料3万円

・被服費2万円

・交際費3万円

・小遣い(夫)5万円

・小遣い(妻)5万円

毎月の支出39万円

年間の支出468万円

今後、妻は退職して夫だけの給料になった場合、タワマンを維持した場合と、住み替えた場合は下記になる。

【タワマン維持の場合】

・住居費住宅ローン25万円+7万円(管理費・修繕積立・固定資産税)×12=年間384万円

住居費384万円+年間支出468万円=852万円

収入750万円

支出852万円

年間収支=▲102万円

【住み替えの場合】

5,000万円(ローン4,500万円)のマンションに買い替え

・住居費住宅ローン11.5万円+4万円(管理費・修繕積立・固定資産税)×12=年間186万円

収入750万円

支出654万円

年間収支=+96万円

子どものためにも、できる限り一緒に過ごせる時間を増やしたいし、金銭的に切迫した家庭にはしたくない。夫婦は迷うが、A氏が「毎日毎日お金のことを考えながら生活するのがきつい。もう、限界です」と本音をポロリ。売却を決意したのだった。

幸い、不動産業者が言っていたとおり、近年の不動産価格高騰の影響で、残債8,100万円の時点で8,600万円の買い取り値が付き、頭金の500万円分も回収することができた。

ほとんどの人にとって「一生に一度の買い物」となるマイホーム。本来誰しも妥協などしたくないだろう。とはいえ、共働きを前提とした住宅の購入は、その後の生活環境の変化が大きな負担になる。特に、子育てを両親に頼れない、両親の介護が必要になるといったケースは注意が必要だ。

A夫妻「子どもの教育費を十分に準備したい」→FPの助言

A夫妻は、子どもの教育費は十分に準備したいと考え、学資保険の加入を検討していたが、子どもを増やしたいとも考えていたため、保険料が払っていけるか心配だと感じていた。

そこで、不動産投資が生命保険代わりになることを伝えると、A夫妻は不思議そうな顔をした。しかし、不動産投資用のローンでも団体信用生命保険に加入することを伝えたところ、マイホームの住宅ローンを組む際も団体信用生命保険に加入していた経験から、その仕組みを夫婦はすぐに理解した。

その結果、不動産投資で死亡保障と老後資金をカバーすることで、加入中の生命保険(養老保険)を見直して、毎月の保険料が2万円減額でき、これを学資保険に回すことができた。

多くの人にとって、不動産は人生で最も高額な商品だろう。その支払いは長期にわたるため、事前に十分なライフプランのシミュレーションが必要不可欠といえる。過去の事例や失敗談などをしっかりチェックして、必要に応じてFPなど第三者に相談することも検討してみてはいかがだろうか。

伊豫田 誠

FP事務所ストラット

代表/不動産投資専門ファイナンシャルプランナー

© 株式会社幻冬舎ゴールドオンライン