アングル:米地銀の商業用不動産リスク削減、FRBのタカ派姿勢が障害に

Shankar Ramakrishnan

[27日 ロイター] - 一部の米地方銀行は商業用不動産(CRE)へのエクスポージャーを減らしたいと考えているが、連邦準備理事会(FRB)のタカ派姿勢が障害になっている。

CREは、新型コロナウイルス後の社会行動の変化でオフィスの空き室率が上昇し、評価額が急落。特に小規模の地銀やコミュニティーバンクが過度なエクスポージャーの削減を目指している。

チャタム・ファイナンシャルのマネジングディレクター、サム・グラツィアーノ氏は、ここ数年の金利上昇により、過去に契約した固定金利ローンのプライシングが現在の金利水準との比較で不適正になっていると指摘。エクスポージャーを減らさなければ、損失が発生しバランスシートが悪化するリスクがあるとの見方を示した。

昨年3月の銀行危機以降、一部の地銀はリスクを減らし、流動性を確保するため、民間投資家に多額のローンを売却しているが、一部では損失リスクに対する保険を投資家から購入する動きも出ている。

こうした取引に関与する投資家、アナリスト、弁護士によると、銀行は依然としてCREへのエクスポージャーを減らそうとしているが、投資家はこうした資産を買い取ることに以前ほど熱心ではないという。

背景にはFRBの大幅利下げ観測の後退がある。フェデラルファンド(FF)金利市場が予想する利下げ開始時期は3月から6月に後ずれし、年内の利下げ幅の予想は約80ベーシスポイント(bp)と、年初の半分近くになっている。これを受け、オフィスや集合住宅など、CRE市場の一部でデフォルト(債務不履行)リスクが上昇している。

ムーディーズ・アナリティクスのCRE経済分析ディレクター、マット・レイディ氏によると、不動産の評価額はオフィスビルを中心に2019年のピークから25─30%近く下落。19年には今年満期を迎えるローンの多くが組成された。

投資家は一部の商用不動産資産から手を引くか、多額の報酬を要求するかのどちらかだと話している。

オルタナティブクレジット会社CQSのジェイソン・ウォーカー最高投資責任者(資産担保証券担当)は「CREポートフォリオは消費者ローンや企業ローンほど損失確率を簡単にモデル化できない。CREポートフォリオの高いリスクを引き受けるつもりはない」と述べた。

CQSは、融資ポートフォリオの損失リスクに対する保険を銀行に販売する「リスク移転取引」に17億ドルを投資している。

同様の取引を手がける別の投資家は、地銀がCREローンの保険料として2桁後半の利回りを払う必要があるかもしれないと指摘。消費者ローンや企業向けローンの保険料は1桁後半という。

<不良債権増加の見通し>

投資家の関心が薄れているため、銀行は問題への対応が難しくなる可能性がある。

ムーディーズ・アナリティクスによると、銀行セクター全体では今年4410億ドルのCREローンが満期を迎え、不良債権比率は上昇する見通しという。

借り手が金利の高い新たなローンへの借り換えに苦慮し、一部の保有不動産の採算が取れなくなれば、銀行の損失も拡大する恐れがある。

証券化されたローンでも損失が増えるとみられる。ムーディーズのレイディ氏によると、証券化商品に組み込まれた今年満期を迎えるオフィスローンのうち、約75─80%は期限内の返済に問題があり、貸倒償却や延滞につながるリスクがある。

<構造的問題>

ただ、こうした状況下でも銀行はエクスポージャーの削減を目指している。

法律事務所メイヤー・ブラウンのパートナー、マット・ビサンツ氏は、優良なCREローンポートフォリオなどの損失リスクを売却したい複数の地銀と取引を進めているとし、「第2・四半期にはCREローンのリスク移転取引が見られる可能性がある」と述べた。

こうした取引が成功を収めるかは不透明だ。何らかの進展があれば市場の懸念が後退する可能性があるが、大幅なディスカウントで取引が成立した場合、投資家の間に不安が広がりかねない。

CREへのエクスポージャーを理由に一部の地銀債を売り持ちにしているクレジットヘッジファンド、ミル・ヒル・キャピタルの創業者デービッド・メネレット氏は、問題は構造的だとし、「損失は(銀行が)負担する必要がある。損失は負担され、何年も続くだろう」と述べた。

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