アングル:ボクシングの強豪キューバ、物不足でも勝ち続ける秘密

Nelson Acosta

[ワハイ(キューバ) 19日 ロイター] - キューバの首都ハバナ郊外にある小さな町ワハイは、世界有数のオリンピック出場ボクサーを何十年間にもわたり静かに輩出し続けている。

元指導者フィデル・カストロ氏によるスポーツ振興への情熱と投資が後押しとなり、1972年以降、キューバのボクシング選手はオリンピックで金メダル41個、銀19個、銅18個を獲得してきた。規模や資金がはるかに大きな米国を除き、この記録は破られていない。

キューバ国民は何十年もの間、食料や医薬品、燃料の不足に直面している。これらは十分なトレーニングを行う上でも欠かせないものだ。現状は1959年のキューバ革命以降でも最悪と言えるが、それでも、キューバのボクサーは勝ち星を挙げ続けている。

オリンピックを2度制したフリオ・ラクルス選手(34)に、キューバの成功の秘訣を尋ねてみた。同選手は、トレーニング後に大量の汗をかきながらはにかみ、こう答えた。

「素晴らしい物資は持っていなくても、素晴らしい実績は残せる。最新の装備や最新の技術は持っていなくても、コーチ陣は世界一だ」

「メダルは、日ごろの鍛錬で獲得できるものだ」とクルス氏。近代的なテクノロジーや医学はまだ、多大な努力に代えられるものではないと言う。

ロイターは例外的に、ワハイにある施設の中に入って取材する許可を受けることができた。平屋の建物の中には、複数のボクシングリングや、トロフィーが展示された博物館、バスケットボールのコート、簡素なコンクリートブロック造りの寮、そしてここで生活するアスリートたちの腹を満たす小さなバナナ畑まであった。

「ラ・フィンカ」という名前で知られるこの国立ボクシングスクールでは、不足しているものを挙げる方が容易だ。洗練された機材はほとんどなく、最新鋭のコンピューターによる管理や、一日の終わりに受けられるハイドロマッサージもない。そうした設備は、トップレベルの大会や欧米のトレーニング施設では準備されていることが多い。

ジムでの何時間ものトレーニングに加え、選手らはトラックのタイヤやお手製のサンドバッグ、側溝にはまったトラックをけん引するためのロープなどを相手に練習に励む。

コーチのロビンソン・ポール氏によれば、同施設では現在、40人の選手がトレーニングを積んでいる。うち3人は7月にパリで開催される2024年夏季五輪に出場する予定だ。

ある日のトレーニング後に選手らに出された食事は、よくある米と豆の料理だった。ポール氏は、これに(名選手を生み出す)「秘密のソース」が混ぜられているかどうか、明らかにしなかった。

「私たちの準備で秘密にすることは何もない」とポール氏は言う。

「エネルギー補給剤や医薬品の不足、何十年にもわたる米国の制裁がありながらも、彼らは1日に2回のセッションをこなしている」

野球やボクシングをはじめ、スポーツの熱狂的なファンとして知られた元指導者のフィデル・カストロ氏は生前、共産主義政権がスポーツ・文化発展を成功させた証として、世界トップクラスのボクサーや野球選手らアスリートを盛んに宣伝していた。

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