「春一番」って何?吹かない場合もあるってホント??身近な疑問に気象予報士が答えます

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立春をすぎると例年、ニュースや天気予報などで「春一番」というワードを聞くようになります。でも、毎年必ず聞くわけでもなければ、年によっては何度も聞く気がする…そう感じている人もいるのでは。

そもそも「春一番」って、言葉自体はほとんどの日本人が一度は聞いたことがあるけど具体的に何なのか?
もしかして吹かない年もあるのか…??

気象予報士・防災士・野菜ソムリエとして活躍する植松愛実さんに教えてもらいます!

「春一番」は意外とこまかい話だった

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「春一番」は気象庁において明確に定義が決められていて、「立春から春分までの間に、日本海に低気圧がある状態で、一定基準以上の強い南よりの風が吹いたとき」に発表されることになっています。2024年は立春が2月4日、春分は3月20日です。

すでにこれだけでもややこまかいですが、「一定基準」というところにさらにこまかい話があります。

というのも、「春一番」は日本全体について一括で発表するものではなく九州とか関東といった地方ごとに発表するのですが、風速の基準が地方ごとに異なるのです。

たとえば九州では最大風速が7m/s以上、関東なら8m/s以上が「春一番」の基準です。

何のために発表?

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「春一番」に該当する強い風が吹く状況というのは、気象学的には「天気図が春らしくなってきた」という重要な目安になっています。

「春らしい天気図」というのは、前述のように「日本海で低気圧が発達するような天気図」ですが、このパターンはしばしば春特有の災害をもたらすのです。

というのも、日本海で発達する低気圧は暴風警報並みの南風を発生させることが多く、実際に1859年にはこのパターンで吹いた風によって漁船が遭難し、53名の命が失われました。

現代でも建設現場の足場や重機が倒壊したり、火災の延焼を引き起こしたりして、命にかかわる災害につながることがあります。

気象庁では、こういった災害への注意喚起の意味を込めて「そろそろ春らしい災害に気をつけて」というメッセージとして「春一番」を発表しています。

該当する風が吹かなければ「発表なし」

「春一番」は冬から春になることで起きやすい災害の種類が変わることへの注意喚起ですから、立春から春分という時期に限定して発表されます。

つまり春分をすぎたあとは、いくら強い風が吹こうとも「春一番」の発表はしません。春分をすぎればもう、わざわざ気象庁からお知らせをしなくとも、今が春だということを一般の人が認識できるからです。

実際、「春一番」の発表がない年があり、たとえば関東だと10年に1度くらいの頻度で発表がなく、直近だと2015年が「発表なし」でした。

そもそも「吹かない地域」がある

ここまで「春一番」について詳しくご紹介してきましたが、じつは最初から「春一番」を観測すらしないことになっている地域があります。それは沖縄と北日本(東北・北海道)です。

沖縄に関しては、そもそも日本海でどれだけ低気圧が発達しても、あまり風が強くなりません。

また、北日本ではたとえ日本海の低気圧によって風が強くなったとしても、それを境に「春らしく」なることがないので、発表する意味がないため観測しないのです。

"風物詩"に込められたメッセージを活用しよう

おそらく多くの人が、毎年「春一番」のお知らせを聞いても、なんとなく風物詩として受け取っているだけかと思います。しかしその裏には、二度と災害で大きな犠牲が出てほしくないという思いと、きめこまやかな観測があり、じつは重要な防災メッセージなのです。

「春一番」の発表後は、強い南風が突然吹くようなことがたびたび起こり、電車の遅延が発生したり、火災が燃え広がりやすくなったりします。

春本番が近づくのはうれしいですが、同時に気をつけなければならないことがあるのを、「春一番」というワードを聞いたときはぜひ思い出してください。

■執筆/植松愛実さん
気象予報士と出張料理人の両面で活動中。気象・防災に関するヒントのほか、野菜ソムリエ・食育インストラクターとしておいしい食材のおいしい食べ方を発信中。インスタグラムは@megumi_kitchen_and_atelier。

編集/サンキュ!編集部

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