福岡県条例で“アスリート盗撮”は「性暴力」と定義へ… スポーツ撮影「表現の自由」と「性的目的」の線引きとは?

競技中のアスリートを撮影することは「スポーツ写真」という文化なのか、「盗撮」という犯罪なのか(PIXTOKYO / PIXTA)

1月の報道によると、福岡県議会は同県の性暴力根絶条例について見直しを行い、学校やスポーツ施設などにおいて、性的な意図で同意なく人を撮影する行為を「性暴力」と定義したうえで、施設側に広報啓発などの対策を求める内容を改正案に盛り込む方向で作業を進めている。

2023年7月に性犯罪に関する刑法改正の一環として「撮影罪(性的姿態撮影等処罰法)」が施行された。

しかし、同罪は「着衣の上からの撮影」を処罰対象にしておらず、社会的に問題視されている「アスリート盗撮」行為は撮影罪によっても規制できないとする意見もある。

そもそも、撮影罪が施行される以前は、盗撮行為は刑法ではなく各都道府県や自治体の迷惑防止条例によってのみ規制されていた。

刑法改正によって撮影罪が施行された理由や、アスリート盗撮の問題などについて、福岡県在住の宮脇知伸弁護士に話を聞いた。

弁護士に聞く、撮影罪とアスリート盗撮問題の関係

──2023年になって撮影罪が施行された背景には、どのような経緯があったのでしょうか。

宮脇弁護士:国務大臣は、撮影罪の提案理由について「近時の性的な姿態の撮影行為等をめぐる実情に鑑みると、性的な姿態を撮影する行為や、こうした撮影行為により生成された記録を提供する行為等は、撮影対象者に重大な権利利益の侵害を生じさせかねないものであり、こうした行為等に厳正に対処し、そうした撮影行為により生成された記録等の的確な剥奪を可能とすることが喫緊の課題となっています」と説明しています。

つまり、「盗撮に対して厳罰を与えるべきだ」という社会的な要請が高まったことが、撮影罪が施行された理由と考えられます。

また、過去には「飛行機内で客室乗務員を盗撮した」という事案について、犯行地域となった都道府県を特定できなかったために「どの都道府県の条例を適用すべきか」が判断できず、結果として不起訴となる事例もありました。

「従来の法律や条例では処罰できなかった盗撮行為に対応する」という観点も、盗撮罪が施行された背景に存在しているでしょう。

──撮影罪は「着衣の上からの撮影」は規制対象としない、と聞いたことがあります。では、ユニホームなどを着衣しているアスリートや制服を着用している客室乗務員などを性的な目的に基づいて盗撮しても、撮影罪は成立しないのでしょうか?

宮脇弁護士:撮影罪は、「ひそかに」撮影する行為を対象としています(第二条第一項)。

アスリートを撮影する場合には、観客席などから堂々と撮影するような場合には対象とならないと考えられます。一方で、いわゆる盗撮の様な対応、たとえば“こそこそ”と撮影する場合には、アスリートや制服を着た人を撮影しても処罰対象になる可能性があるでしょう。

また、福岡県議会の改正案では、スポーツ施設や学校、公共交通機関などで同意を得ずに性的な意図でアスリートや生徒の姿や体の一部を撮影する行為は、着衣の有無や撮影者の認識にかかわらず「性暴力」と定めています。

この改正案が採択されたら、福岡県におけるアスリートの撮影などは、着衣の有無にかかわらず事前の許可がない場合にはすべて性暴力根絶条例の対象となる可能性もあるかと思います。

条例は「スポーツ写真」という文化を制限することも危惧されるが…

──アスリートの盗撮は社会的に問題視されている一方で、競技に集中するアスリートの華麗な姿や見事なプレイの瞬間などを撮影することは、スポーツの楽しみ方のひとつとして広く認められています。条例によってアスリートの姿を撮影すること自体が規制されると、「スポーツ写真」という文化が損なわれてしまうかもしれません。この問題について、先生としてはどのように考えられますか?

宮脇弁護士:「スポーツ写真」という文化があること自体は、表現の自由などの権利からも守られるべきものだとは思います。

もっとも、「権利があるから」という理由でどのような行為も許されるというわけではありません。アスリートの撮影も、他人に迷惑をかけない範囲で行われるべきでしょう。

これまでにも、暴力行為については「表現」として許されるわけではない、と一般的に考えられてきたはずです。アスリートであっても、性的被害を受けてもよいわけではありません。社会の考え方の変化とともに、そうした被害は根絶されるべきだと考えます。

しかし、アスリートの活躍を写真におさめることで、アスリートの知名度が上がり、アスリートの活躍の場が増えていくことも考えられます。そのため、一律にすべてを禁止するというのは無理があるとも思います。

性的被害と表現の自由の権利などについて、常にバランスを意識しながら行動していくほかない、と考えます。

© 弁護士JP株式会社