〈新NISA〉だけやっていれば〈イデコ〉は不要?→日経新聞記者が「とてももったいない」と一蹴する“これだけの理由”

(※写真はイメージです/PIXTA)

制度改正により自由度が上がり、長期投資に適した制度となった「新NISA」に押され、存在感が若干薄めの「イデコ」。しかし、新NISAとイデコは「できる限り併用した方がいい」と、証券アナリスト(CMA)資格も持つ日本経済新聞編集委員、田村正之氏はいいます。田村氏の著書『間違いだらけの新NISA・イデコ活用術』より、詳しくみていきましょう。

「イデコ」と「新NISA」、どう使い分ける?

NISAとイデコの両方について、2つの仕組みをまとめてみます。

NISAの改革があまりにも大きく多くの人にとって非常に使いやすいものになっただけに、最近はどうもイデコの影が薄い印象があります。「NISAの生涯投資枠が1,800万円あれば十分。NISAだけでいい」との声も多く耳にします。

しかし、2つの制度の利点は多くの点で異なっています。つまり、できる限り併用した方が、2つの制度の利点をフルに受けられるのです。

イデコをNISAと併用する意味をみていきましょう。最大の利点は、当然ですがNISAと合計した節税額の拡大。NISAで1,800万円を使ったうえに、例えばイデコに月2万円で30年加入すれば720万円の実質的な非課税枠(受給方法に工夫が必要ですが)を上積みできることになります。

特にイデコがNISAと異なるのは、所得控除。掛け金が全額税金の対象からはずれ現役時代に減税となることでしたね。節税額は「掛け金額×その人の税率(所得税+住民税)」。税率20%の人が月2万円を積み立てる場合、4,000円が現役時代に節税になります。この節税分を自分できちんとNISAなどで再投資すれば、月に2万4,000円の積み立てができることになります。

30歳で投資を始め、年4%運用の場合、本来の月2万円なら65歳時点で1,806万円の資産になるはずが、イデコの節税メリットを生かしてその分も積み立てれば、2,167万円と約360万円もの資産増になります。

仮に税率が3割と高い時期がずっと続けば、月に2万6,000円積み立てることができ、65歳時点で2,347万円と約540万円もの差です。こうした利点は、掛け金の節税メリットがないNISAにはないものです。

つまり税率の高い人ほど、そして掛け金を多く払える人ほど、イデコを使う利点が大きいということです。逆に言えば、所得のない専業主婦(夫)で両方を積み立てる余裕がない場合は、NISAを優先してもいいかもしれません。

「引き出せない」弱点が、老後の資産形成では「メリット」に

イデコ併用の2番目の利点は、60歳まで引き出せないこと。これは通常、イデコの弱点と言われます。しかし目的が老後資金の場合、途中で引き出せないことは逆に良いことです。特に30~50代などは住宅資金や教育資金などで何かと物入りになります。NISAはいつでも引き出せるうえに、新NISAは引き出せば翌年にまた非課税枠が復活するので、気軽に引き出す人が多くなりそうです。

しかし、老後資金は誰にでも必要で、中高年になってから準備を始めるのでは間に合わなくなりがちです。引き出せないイデコで早いうちから老後資金を作っておくことは大事です。逆に言えば、教育・住宅資金に使うお金をイデコに投入してはいけないのは当然です。

特に老後に厚生年金が見込めない自営業者やフリーランス、企業年金がない会社の社員などは、老後の安定収入が不足しがちです。だからこそイデコは、こうした人たちの掛け金の上限額を多くしています。きちんと生かすべきです。

イデコ併用に重要性がある点の3つ目は、イデコの枠は使わなければ消えてしまうこと。新NISAでは若い時期に使わなくても中高年になってからまとめて活用することもできます。しかし、イデコはそうではありません。せっかくの優遇税制をフルに使うためには、若い時期からの活用が大事です。

重要性の4つ目は、特に早い時期から加入することにより、将来の受給時の非課税枠を拡大できること。イデコを一時金でもらう場合、加入期間20年までは年40万円、21年目からは年70万円の非課税枠が積み上がるのでしたね。今後の税制改正で、例えば全期間で年50万円など前後半の額が同じになる可能性がありますが、長期間加入するほど非課税枠が積み重なる仕組みは変わらないと思われます。できれば若い時期から、少額でもイデコに加入し続けることで、非課税枠を上乗せできます。

ただし逆に言えば、イデコの受給時の非課税枠はこれまでみたように退職金や公的年金と共通。退職金や公的年金の額が大きい人は、受給時にはなるべく手取りを多くするために様々な検討が必要になりますし、それでもイデコの資産がある程度、課税対象になることがあります。その場合、最後まで非課税のNISAの比率を多めにしておくのも選択肢です。

以上のことを考えると、「NISAだけでいいや」と考えてしまうのはとてももったいないことだと思います。

田村 正之

日本経済新聞社

編集委員

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