税理士の助言どおり、節税も貯金もできる「国民年金基金」に加入して安心のはずが…「年金月22万円」で悠々自適の68歳妻、夫の急逝で老後崩壊したワケ【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

「国民年金基金制度」は、国民年金法の規定に基づく公的な年金です。国民年金とセットで、自営業者や個人事業主など、国民年金の第1号被保険者における老後の年金収入の上乗せになるものです。しかし、加入時には注意点があって……。本記事では、夫の急逝によって老後破産の危機に陥った木村さん夫婦(仮名)の事例とともに、FPオフィスツクル代表の内田英子氏が、国民年金の第1号被保険者が老後資金を備える方法について解説します。

夫の急逝で老後プランがすべて崩壊

木村千鶴さん(仮名)は68歳。地方都市に住み、夫の慎一郎さん(仮名)を長らく支えてきました。慎一郎さんは穏やかで誠実な人柄で慕われ、やさしいと評判の歯科医師でした。

かつてゼロから開業したことということもあり、自宅不動産と合わせて数千万円の借入がありましたが、千鶴さんと二人三脚で3人の子どもを育てながら10年ほど前に完済しました。

遅く生まれた末子が独立したのち、3年前からは年金を受け取り殖やして始めていましたが、慎一郎さんは個人事業主ながら、年金収入は夫婦あわせて月22万円ほどありました。年金額を大きく殖やしていたのは国民年金基金です。

慎一郎さんは若いころから基礎年金に上乗せし、国民年金基金に加入し、コツコツと掛金を拠出していたのでした。

働くペースを落としつつ勤労収入を得て年金収入も得る生活に、木村さん夫婦は満足していました。

「このまま70歳ごろまで働いていずれは引退してのんびりしよう」そんな風に夫婦で話していた矢先――事故により突然、慎一郎さんが他界してしまったのです。

今後受け取れる年金額に愕然

突然の出来事に、悲しみに暮れながらも諸々の手続きに追われる千鶴さん。年金の手続きに差し掛かったところで、膝から崩れ落ちるような事実が判明します。自分がこれから受け取れる年金額はひと月にたったの7万円程度しかない、ということがわかったのです。

千鶴さんはかつて担当税理士から、「国民年金基金は節税もできるし掛け捨てではない」と聞いていました。まだ65歳から3年分しか受け取っていなかったのだから、今後受け取れる金額も十分にあると期待していたため、混乱しました。

これまで国民年金基金にコツコツと掛け金を拠出し、老後に備えてきているから安心しきっていました。不動産やいくらかの現預金はあるものの、月7万円では到底生活できそうもありません。千鶴さんの目の前は真っ暗になりました。

国民年金基金の“型”に潜んでいた「夫のミス」

慎一郎さん亡きあとの千鶴さんの家計の状況をおおまかにとらえると、以下のようになります。

手取り年収:年間およそ84万円(基礎年金+厚生年金)

資産:現預金 およそ2,200万円(小規模企業共済の共済金、生命保険の死亡保険金300万円を含む)
不動産 およそ5,000万円(自宅+クリニック)

年間支出見込み額:およそ420万円(夫婦二人の年間生活費600万の7割と仮定)

定期的な収入が少ない一方で、資産は不動産に偏っており、取り崩せる流動性のある資産が少ない点が目立っています。

さらに、これまでの生活水準から今後を投影すると、仮に不動産を含めた資産をすべて有効活用できたとしても、20年程度で資産が尽きてしまう見通しです。年金収入が少ないことも千鶴さんの不安を大きくしました。

慎一郎さんは若いころからコツコツと国民年金基金に掛金を拠出し、老後に備えてきました。しかし、慎一郎さんが加入していたのは国民年金基金の「B型」といわれるもので保証期間がなく、遺族給付がないタイプのものでした。

木村さん夫婦は担当税理士から、「節税効果も見込め掛け捨てではない」と聞いて、節税効果を重視しB型に加入したとのことでした。国民年金基金にはさまざまな型があり、なかには慎一郎さんが加入していたもののように、掛け捨てのものも存在します。

保証期間があるものを組み合わせる場合、受け取れる期間に限りがありますが、もしも長生きされなかった場合には、遺族が残りの保証期間に応じた金額を受け取ることができます。

したがって、もし慎一郎さんが1口目はB型のままとしても、2口目以降保証期間15年のI型を組み合わせていたら、I型から慎一郎さんが受け取るはずだった残り12年分の年金相当額を千鶴さんが受け取れていた可能性があります。

国民年金基金は加入後任意で脱退したり、一口目の型を変更したりすることはできません。国民年金と名称は似ていますが、あくまで私的年金の1つであり、給付の範囲は限定的で支払った掛金に応じます。

また、終身年金といってもあくまで老齢年金が本人にのみ保障されるものですから、厚生年金のように終身の遺族給付はありません。ご本人に万が一の際の遺族の生活費を補う手段は別に考えておく必要があります。

個人事業主の万が一に備える…残される配偶者を困らせないために

万が一の際、事前にこのような状況が想定されると気づくことができていたら、事前に以下のような対策がとれていたかもしれません。

1.妻の年金を増やす

慎一郎さんは国民年金基金に加入しており、慎一郎さん自身の年金収入はある程度確保できていました。しかし、これはあくまで慎一郎さんのものであり、妻自身が受け取れる年金は基礎年金だけでした。

個人事業主世帯に限りませんが、妻の年金を増やすためには妻自身が加入者となり公的年金や国民年金基金等の私的年金に加入する必要があります。

場合によっては、年金を繰り下げたり、青色専従者控除は受けられなくなるものの、妻の働き方を見直し、企業に勤め厚生年金に加入するのも選択肢の1つでしょう。

妻の年金収入を増やすことができれば、将来妻の認知機能が低下した際に考えられる資産凍結による資金枯渇リスクも低減できることが期待されます。

2.退職金をつくる

退職金はいうなれば、受け取りを先送りした報酬です。個人事業主の方が退職金をつくる方法として以下のような公的制度があります。

・小規模企業共済
・iDeCo(個人型確定拠出年金)

いずれも掛金は全額「小規模企業共済等掛金控除」となり、まとまった節税効果が見込まれるものですが、担当の税理士の方からは教えてもらったことはない、というお声を筆者は聞くことがあります。

慎一郎さんもiDeCoは未加入で小規模企業共済には加入していたものの知ったタイミングが遅く、担当税理士が変わったのを機に知り、10年前に加入されたとのことでした。しかし加入後は10年間満額月7万円拠出していたことで、1,000万円程度の共済金を受け取ることができました。

いずれも個人事業主が加入し、自ら退職金、あるいは年金をつくるものです。長く加入していれば節税しながら資金を積み立てられますし、小規模企業共済であれば貸付の利用や、iDeCoは障害給付といったそのほかのベネフィットもあります。

掛金を自由に引き出すことはできませんが、セーフティネットを構築する手段として考えられます。

3.所得補償だけではなく死亡保障ももつ

木村さんのケースでは、慎一郎さんの保障は就業不能時の所得補償保険に偏り、死亡保障がほとんどありませんでした。個人事業主世帯の場合、年金が少ないことから収入が途絶える老後も、ある程度の死亡保障があることが望ましいケースは少なくありません。

保険料の負担もありますから無理に加入する必要はありませんが、木村さんの場合ももし慎一郎さんの死亡保障がもう少し多くあれば、千鶴さんが抱く今後の見通しは少し明るいものになっていたかもしれません。

国民年金基金の落とし穴

国民年金基金は公的な制度ですが、公的年金とは位置づけが異なり、将来の老齢給付はご自身の掛金が主な原資となります。

掛金は全額社会保険料控除となりますし、節税効果も見込めるものですが、年金受取時には公的年金等控除はあるものの課税対象となるのです。そのため、トータルで見ると節税で浮いた金額は老後の給付を「先取り」しているとも言い換えることができます。

本格的に積み立てたお金を受け取ることができるのは、やはり老後となります。国民年金基金を活かすためには、節税効果だけに着目するのではなく、老後どのような受け取り方がいいのか、考えられる家計の状況に応じた老後の生活設計に基づくアドバイスを参考に、型を選択していただきたいと思います。

内田 英子
FPオフィスツクル
代表

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