北海道に長年住んでいる道民でも、雪や氷が路面に積もる冬の運転は怖いもの。車はもちろん、バイクとなるとなおさらです。でも、大雪でも吹雪でも休まずバイクを運転している人たちがいます。それは、郵便局員のみなさん。
「特殊なバイクなの?」「運転技術がすごいの?」北海道の郵便局員さんのバイクの運転について、素朴な疑問を解き明かしてみます。
郵便局を訪ねて謎に迫りました
冬の雪道をバイクで毎日運転できる理由を探るべく、やってきたのは札幌市南区にある札幌南郵便局。配達エリアは札幌市南区で定山渓地区を除くすべてのエリアです。真駒内駅周辺の都市部から小金湯温泉や滝野すずらん公園などがある山間地まで、かなりの広範囲をカバーしています。
今回取材させていただいたのは、札幌南郵便局の局員、森裕太さん。雪国の郵便バイクの運転事情を教えていただきました。まず気になったのはバイクの造り。一体どんなところに雪国ならではの特徴があるのでしょうか。
■郵便バイクの秘密その1「タイヤ」
北海道の郵便バイクと一般的なバイクとの違いは大きく3つ。1つ目は、雪国で運転するために必須の対策です。
「まず、タイヤですね。」
北海道では冬季間、車のタイヤをスタッドレスタイヤにするのがあたりまえ。バイクも当然同様でしょう。
「いや、スタッドレスタイヤではなく、スパイクタイヤです。」
四輪車に比べて二輪車のほうが不安定なので、グリップ力がより期待できるスパイクタイヤのほうが安心です。タイヤを変える時期は、郵便局の立地により多少異なります。札幌南郵便局は積雪期間が長い山間地も配達エリアに含まれるので、例年10月後半からゴールデンウイーク直前くらいまで、スパイクタイヤにしているそう。
■郵便バイクの秘密その2「ヒーター」
2つ目は、寒さ対策です。森さんは意外なことを教えてくれました。
「ここ、ヒーターなんですよ。左側にスイッチがあって7段階くらいに温度調整できるようになっています。」
なんと、ハンドルにヒーターがついているのです。しかも、ハンドルにはフードもついているので、厳寒の真冬でも手元は意外とヌクヌクと暖かいようです。フードは取り外しできるようになっていて、タイヤ交換と同じ時期に取り付けています。
「ヒーターをつければ手袋なしで運転できるくらい暖かいです。実際は郵便を届ける時にバイクを離れるので、手袋をして運転していますけどね。」
このヒーターがついた郵便局のバイクは、北海道の他にも雪深い地域で走っているそうです。
■郵便バイクの秘密その3「反射板」
3つ目は安全対策。森さんにバイクの後ろ側を案内されると、
「ここ、バイクの後ろに反射板がついているんです。」
追突防止の反射板が2つ付いています。これのおかげで、真っ暗な夜間や吹雪でホワイトアウトになる日でも、バイクの存在を後続車に知らせやすくなるほか、交通事故防止にも役立ちます。雪国はもちろん全国であってもよさそうですよね。
雪道でのバイクの運転技術はどうやって磨いたの?
次に、運転技術について聞いてみました。 森さんは入局する前はバイクの運転経験はなし。どうやって真冬の雪道を運転できるようになったのでしょうか。
「講習があるんですよ。雪道をバイクに乗って急ブレーキかけてみるとか、曲がり方の練習とか。入局した人はみんなやります。」
さすがに雪道でのバイクの運転経験ゼロでいきなり配達現場に出ることはないようです。それでも、この講習は1日か2日程度で終了。その後は実際に現場に出るそう。かなり不安なのでは……。
「そうですね、しばらく全然慣れないです。なので、はじめの頃は上司が同行して一緒に走っていました。」
雨の日も雪の日も、毎日ようにバイクを運転していた森さんも、雪道での運転は2年ほど経った頃に「やっと慣れてきた」と感じられるようになったそうです。
「ヒヤっとしたことは何度もある」
当然ながら、夏と冬では運転のしかたも変わります。
「夏と違って冬はスピードを20~30㎞落として走るようにしていますし、曲がる時はバイクが動いていないくらい減速してから曲がるようにしています。それでもヒヤっとしたことは何度もあります。滑って止まれなくて交差点に入っちゃいそうになったり曲がれなかったり。」
やはり、雪国のバイクの運転はなかなか難しく大変そうです。ここで気になっていたことを森さんに質問。猛吹雪の日やドカ雪が降った後などはどうしているのでしょうか。配達を休むってわけにもいかないですよね…?
「バイクである程度近くの行けるところまで行って、あとは歩いて配達します。郊外とか除雪されていないところもあります。歩くことけっこうありますよ。」
雪道をバイクで運転する郵便局員はやっぱ神だ
お話をうかがうと、雪国の郵便配達はかなり大変なお仕事だと実感しました。滑りやすい雪道の運転で神経を使い、除雪されていない雪道を歩いて体力を使い…ものすごい大雪で電車やバスが運休するような日でも、自宅のポストに郵便物が届くのには、こうした郵便局員さんの苦労がありました。雪や氷に覆われた道路をバイクで走る郵便局員のみなさん、やっぱり神です。
取材協力:日本郵便株式会社 北海道支社、札幌南郵便局
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ライタープロフィール
トラベルクリエイター 川島 暢華
神奈川県出身。北海道全179市町村を旅して北国の魅力と魔力にとりつかれ、2009年に北海道へ移住。それ以来、主に旅行や地域活性に関するメディアの取材撮影と記事や映像の制作、企画編集などを手掛ける。マイミッションは「北海道ファンを増やす」こと。