インタビュー:日銀正常化、日本マネー国内回帰の契機に 無視できぬリスク=ティー・ロウ・プライス

Tomo Uetake Brigid Riley

[東京 28日 ロイター] - 米資産運用大手ティー・ロウ・プライスでグローバル債券部門の最高投資責任者(CIO)を務めるアリフ・フセイン氏(ロンドン在勤)はロイターとのインタビューで、日銀の金融政策正常化は「ジャパン・マネー」の緩やかな国内回帰を促す可能性があり、世界の金融市場に与える中長期的影響は無視できないリスクだと指摘、注視すべきだと語った。また残存期間の長い日本国債を「悪い街区にある1番いい家」にたとえ、投資妙味があると述べた。

ティー・ロウ・プライスは米メリーランド州ボルティモアに本拠を置く世界的な資産運用会社で、9月末時点の運用資産残高は1.35兆ドル(約203兆円)。インタビューは26日に実施した。主なやり取りは以下の通り。

──日銀の政策見通しをどう見るか。

「日銀はしっかりした賃金上昇を確認して今後数カ月間で政策金利を小幅プラス圏に引き上げ、イールドカーブ・コントロール(YCC)政策も終了するとの想定を置いている。タイミングは、国内景気や春闘のほか、外部状況にも左右されるだろう。米連邦準備理事会(FRB)が緩和サイクルに入る前が日銀にとっての機会の窓となる。このあたりの予想は市場コンセンサスと大差ない」

「それより私がグローバル投資家として日銀の政策に注目するのは、日銀の利上げを機に世界の金融市場から日本の資金が引き揚げられることが引き起こすインパクトという観点だ。日本のマネーは海外の債券市場の多く、また株式市場にも一定程度投資されており、主要投資家の一角を占める存在だ」

「私自身、これらのマネーが日銀の政策修正により一気に国内回帰するとはみていない。だがこれまで海外投資に向かっていた日本の資金が少しずつでも国内市場に向けられれば、中長期的に世界の金融市場に与える影響はどのようなものか。これは多くのグローバル投資家が非常に過小評価、または見落としている視点だと感じる」

「植田日銀の段階的なアプローチやコミュニケーションは世界の主要中銀の中でも優れており、政策変更に動いても、短期的には大きなサプライズではないだろう。しかし、日銀の政策修正から数カ月・数四半期ほど経った頃にある資産クラスがアンダーパフォームしていると判明し、遡れば日銀の政策変更が起点だったと人々が気付く、というのが私の想定するシナリオだ」

「決してテールリスクではなく、無視できないリスクだと考える。燃焼スピードはゆっくりだが、結果的には(世界に)大きな影響を及ぼすものとなるだろう」

──そのリスクにどのように備えるのか。

「日本のマネーがどこに多く集まっているかを見極めることだ。どこと特定することは控えたいが、例えば世界の債券市場の中にはいくつか、日本の資金が集中している市場が存在する」

「次に、資金の一部が少しずつ流出する可能性、また流出先となる選択肢はどこかを理解する。デュレーションの長い資産を保有する際に、逆イールドのところがいいのか、イールドカーブが立っている市場がいいのか、などを自問する必要がある」

「日銀の動きが(日本マネーの)緩やかなリパトリエーションを誘発すれば、世界の投資家もそれに気付いて追随すると考える。日本国債のカーブがスティープだと注目するだろう」

「また為替も重要なファクターだ。為替ヘッジなしで保有されている海外資産も多い。ここまで円安が進んだが、日本への資金回帰は、米国の利下げなども相まって、円高を伴う可能性がある。そうなれば(日本のマネーは)為替ヘッジをつけるか、国内への回帰を迫られるだろう。円高になれば日本の資産の魅力も高まる」

「あくまでも長期的な話だ。早ければ年内、長くて5年後に起こり得るイメージを持っている」

──日本国債に対する投資判断は。

「ロングエンド(長期・超長期ゾーン)には妙味がある。世界の他の市場と比較しても、イールドカーブが立っているからだ。選好する理由は、他の市場のロングエンドのカーブ形状にあまりに投資妙味がなさ過ぎること──つまり魅力は相対的なもので、年限の長い日本国債は『悪い街区の中にある1番いい家』だと評価できる」

「日銀の政策変更は、短期的にはロングエンド金利にほとんど影響しないだろう。だが中長期的には、景気の強さにもよるが、資金流入を見込む」

「政策正常化は短期的には特に投資機会ではないが、他の中銀政策との関係にばらつきを生む。ボラティリティとばらつきは、アクティブ運用者にとって投資機会となる」

「世界に目を移し、債券の世界にようやく利回りが戻ってきたことを強調したい。今までより低いリスクでしっかりリターンを得られ、世界が長く待ち望んだことだ。緻密なリサーチに基づき銘柄を選択する必要はあるが、国や投資格付けの別によらず、インカムでリターンを稼ぐことができる」

(インタビュアー:植竹知子、Brigid Riley 編集:平田紀之)

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