なぜVTuberのプロモーション案件はウケるのか “個性と愛”が紡いだ事例に見る成功の秘訣

VTuber~バーチャルタレントらがネットカルチャー内で人気を集めるようになり、今年でもう5~6年が経過している。

さまざまなゲームを実況プレイしては、ナイスプレイで観るものを興奮させたり、理不尽なギミックにやられては観るものを笑わせたり、強烈なツッコミを捨て台詞のように吐いてエンタメを作り上げる。

気の合う仲間らとともに配信をする際には、冗談を投げ掛け合って笑い、ボケて、ツッコみあう。仲の良い友だち同士の会話を眺めているようなムードで見ている者が楽しめる、そんなライブ配信が主となって人気を集めてきた。

長くこのシーンを見ている方であれば、彼ら/彼女らの交友関係や、過去にどんな出来事があったかもうっすら覚えているだろう。さながらそれは芸能界やテレビタレントの関係性を見ているかのようであり、いつの間にかこのシーンは、過去テレビタレントらが積み重ねてきたテレビカルチャーのオルタナティブとして機能するようになったのだ。

こうした視点に立ったとき、バーチャルタレントが日頃おこなっているライブ配信は、いわば“自身の番組”という風に見ることができる。朝早く、昼中、夜の深い時間とさまざまな時間帯で行われているが、その内容もさまざまだ。

そんななかで、社会的影響力のあるバーチャルタレントをインフルエンサーとして見込み、自社の製品・商品を紹介してほしいと様々な企業・メーカーが宣伝やレビューを依頼することがある。これが俗に「プロモーション案件(PR案件)」と呼ばれるものだ。

そんなプロモーション案件だが、配信される内容そのものだけではなく、意外な企業とのプロモーション配信も行われており、ときには奇縁によって実現するような例もある。今回は、プロモーション案件のなかでも一風変わった経緯から実現した例について書いていこうと思う。

■VTuberならでは? 「パソコンに強い」という個性が輝いた社築

突然だが、この記事を読んでいる方にちょっとしたシミュレーションをしてもらいたい。

もしもあなたが企業の広報担当として商品紹介をVTuberに頼むなら、どのような人に頼むだろうか?

企業ブランドやコンプライアンスのことを考えれば、普段の配信が品行方正であり、マイナスイメージがつかない人であることがマストだろう。そのうえで、「自社商品や自社イメージとシナジーがあるタレント」に頼むのが条件に入ってくるかもしれない。

たとえばパソコン関係の企業・商品をプロモーションするならば? VTuber~バーチャルタレントとパソコン関連の商品とのシナジーは、いわずもがな高い。彼ら/彼女らの仕事にはハイスペックなパソコンが必要不可欠で、それを使用しながらライブ配信をし、マイクやミキサー、配信用ソフトの操作など、様々なハードウェア・ソフトウェアを操る、パソコンによく慣れた人たちだからである。

パソコンの扱いに詳しかったり、ITに関する知識を持っていたり、頼りがいのあるしっかり者であれば、パソコンのプロモーション役としてピッタリだろう。さらに、実際にパソコン関係のトラブルで仲間から頼られている経験があれば尚よしだ。

その点で言えば、にじさんじ所属の男性タレント・社築(やしろ きずく)は右に出る人がいないレベルのタレントである。システムエンジニア出身というバックグラウンドを持ち、にじさんじの同僚らのトラブルシューティングを何度と無くしてきた。「社とパソコン」エピソードは枚挙に暇がなく、PCパーツを買い集めてパソコンを自作した経験もあると話していたこともある。

普段の配信も、冷静かつときに厳しく真面目な性格とオタク気質な性分の塩梅が心地よく、多くのリスナー/ファンを獲得してきた。さまざまな男性タレントが所属しているにじさんじのなかでも、指折りの人気を持っているのが社築である。

そんなキャラクターを持った彼にはさまざまな企業からプロモーション案件のオファーが舞い込んでおり、さまざまな配信がなされてきた。

2022年6月2日に行なわれた「ThinkPad」や「Legion」などのブランドが有名なパソコンメーカー・Lenovoとのプロモーション配信では、社とも交流の深い後輩であり、おバカキャラとして愛されているフレン・E・ルスタリオとともに素晴らしいPRをみせた。

【Lenovo】やしろ・フレンのにじさんじレノボショッピング/APEX【にじさんじ/社築】#にじレノボ

パソコンに疎く、ちょっとおバカ発言をするフレンをイジりつつも、解説を交えてトークしていく社。事細かに商品を紹介していくのだが、口ぶりもなめらかで普段からパソコンについて話し慣れているのが伝わってくる。

この日の目玉であるパソコンを紹介したあとに、購入方法や販売価格へと話題がうつる。すると、当然相場にも明るい社は視聴者限定クーポン使用時の差額に触れ、「ガチで安すぎる!! 俺がほしい! お前ら買うな!」「俺が注文していいか? ってずっと言ってる。本気で安い!」と本音を吐露した。

その後、パソコンの使用感やクオリティを視聴者に見てもらおうと『Apex Legends』を数戦プレイする2人。マッチが終わって次のトークへ……と移るタイミングでスタッフから知らされたのは「紹介したパソコンの売り切れ」という情報だった。

思わぬ展開に驚く2人、リスナーからも「案件のお仕事終わってしまった?」「もう宣伝する必要ない説」という鋭いコメントが届く。配信をスタートして製品の紹介を始めてからわずか10分~20分ほどで数十万するゲーミングパソコンが売り切れるという、信じられないほどの販促効果である。

またその後も、世界最大手のパソコン半導体メーカーであるインテルとのコラボレーションでは、情報システム業務の認知・周知を狙った内容としてプロモーション配信に出演したり、パソコン部品・パーツを主に販売しているTSUKUMOとインテルとのコラボ配信では、社築が直々に選んだパーツでゲーミングPCを組み上げてみるという内容となっていた。

「自作PCのメリットは色々拡張ができることで、結果的に安くなる事が多い」「ライバーにいるじゃないですか? パーツが1つ壊れただけで1台買い替えるやつ。もっとお金を大事にしないと」と話し、一つ一つのパソコンパーツをわかりやすく言い換えてリスナーに紹介、TSUKUMO秋葉原店の店員がいかに見識が深いかも語っていく。

【Tsukumo / Intel】全て俺がパーツ選定!Core i9-13900KでゲーミングPC自作のススメ powered by Tsukumo【にじさんじ/社築】

「パソコンに詳しい」というだけでなく、実際に自分も触れているからこそ生まれてくる言葉の数々は、社本人のフィーリングや実感を伴い重みをもってリスナーに届けられる。

「パソコンといえば社」

そんなタレントイメージ/バイオグラフィに合わせた模範的なプロモーション例といえよう。

■「VTuber×食」の意外なシナジー 口コミから始まるプロモーション案件

続いてはバーチャルタレントやストリーマーならではの食生活が繋いだ縁を紹介しよう。

ストリーマーやバーチャルタレントといえば、基本的には自宅からパソコンを使って配信するのが基本となる。そのため「ほとんど家から出ない」という者も多く、一日中配信だけして過ごすという者も多い。

実際、彼らの中にはほとんど自炊をせず、出前アプリでデリバリーしてもらうという者が非常に多い。しかも配信中に配達を頼み、インターフォンが鳴ったタイミングで受け取りに行くという者もいるほどだ。そんな彼らに食べ物に関連する依頼が舞い込むこともあるのだから、非常に面白い。

冷凍宅配食サービス・nosh(ナッシュ)は、バーチャルタレントシーンやeスポーツシーンを幅広く見ている人ならば名前を知っている方も多いのではないだろうか。ホロライブ・にじさんじ・Neo-Porteなどに所属する面々や、個人として活動しているストリーマーなど、さまざまな面々がnoshのプロモーション配信をしてきた。

配信内容は、いわゆる実食してみての味見や数日ほど実際に体験してみてのレポートが主だ。重要なのは、一度かぎりの配信ではなく、さまざまな場で数年に渡って継続的にプロモーションをしている点にある。たとえnoshを食べるタイミングが無くても、「noshとはこういう商品」という風に覚えてもらえるだけでもプラスなのだ。

もうひとつ、白雪レイドと「ベースブレッド」のプロモーションも面白い相関性がある。ベースブレッドは、1食で1日に必要な栄養素の1/3を取れる「完全栄養パン」として販売されている食品だ。

白雪レイドは一時期このベースブレッドにたいそうハマっており、2020年年末から21年の年明けにかけて配信のなかでたびたび話題にあげ栄養満点かつコンビニですぐに買えるお手軽なパンとしてよく食べていたようだ。

配信で食べるときには「ベースブレッドには個体差がある」「味が良いのと良くないのがある」と辛めの評価をしつつも、おおむね美味しく食べていたようで、「今日はチョコを食べますね~」などといいつつ食し続けていた。

すると徐々に人気・認知が広まり、葛葉・渋谷ハルとともに臨んだ『第6回 Crazy Raccoon Cup Apex Legends』での練習中、会話ネタのひとつとして盛り上がったのをキッカケにAmazonショップのランキング上位にランクインするほどの話題となった。

後日、白雪にベースブレッドを販売しているBASE FOOD社から特別クーポンが発行され、自身のSNSでも宣伝を開始。すると、これまた「ベースブレッドといえば……」と話のネタにあがることが多くなったのだ。

さまざまなストリーマーや配信者にベースブレッドを薦めつつ、顔なじみのメンツには後日「そういえばベースブレッド食べた?」と実食レポートを求める。実食した面々の意見を聞きつつ、ときに辛口な評価を言われても「まぁ、それはそうだね」と頷く白雪。まるで街頭レポートのような温度感で続いていくゆるい会話は口コミのようになり、簡易的なプロモーションとして機能していく。こうして白雪はベースブレッドを徐々に広めていったのだ。

2022年4月にはBASE FOOD公式YouTubeにて白雪・渋谷2人が出演するコラボ動画が投稿されるなど、BASE FOODもネットカルチャーを通じたプロモーションに力を入れる方針なのがうかがい知れる。

ちなみにだが、白雪・渋谷が所属しているNeo-Porteが実質的にスタートしたのが1期生がデビューした2022年3月中旬頃であり、2人が出演した動画が投稿されたのが直後の4月頭だったことを考えれば、このベースブレッドのプロモーション案件はNeo-Porteにとっての初案件と言い換えてもいいだろう。

この流れが一つの極みに達したのは、2022年4月に行われた『Vtuber最協決定戦 APEX season4』にて、白雪が樋口楓・藍沢エマと3人でしらんでぇとして出場したときであろう。

それまでの活動を通じてあまり絡みがなかった3人は、大会に向けてピリっとしたムードもありつつ、距離感を測って会話するすこし気まずいムードもあった。

そんななかで話題に上がったのがベースブレッドだった。「会話ネタに困ったら食事のネタ」とはよく言われるが、白雪がベースブレッド好きであることを知っていた樋口は、「以前から気になっていた」ということでベースブレッドを食し、後日「パン好き」を自称する藍沢もベースブレッドを食した。各々が感想を率直に話しつつ、「どの味が美味しいか?」について語り合い、互いを知る契機を掴んでいったのだ。

なんとも絶妙な距離感でスタートした3人は、このことをきっかけにゆるいムードのままながらも仲を深め、チームとして完成をみた。そのチームワーク・関係構築のなかで、ベースブレッドの存在は忘れてはいけない。

大会中でも人気チームとなった3人は、その後も何度かに渡ってともに配信をするようになったわけだが、9月にはなんとBASE FOOD公式YouTubeに出演し、新製品であったミニ食パンの実食をしたのだ。

白雪が個人的にハマって食べ続けたパンが、いつの間にか大きなうねりとなって多くの人を巻き込んでいく。個人の行動を企業側がキャッチして広める、自然発生型のインフルエンス事例といってもいいだろう。

■愛を語っていたら大バズり 周央サンゴと志摩スペイン村

他にも様々なプロモーション配信がバーチャルタレントを通して行なわれている。ファッション、健康、ゲーム作品、そしてもちろん、白雪のように「自分の好きなもの」についてもだ。

こういった話題でもっとも規模感が大きいといえば、白雪と同じく配信の話題として名前をあげ、良い点・悪い点をあげてリスナーの興味・関心を惹いた、周央サンゴと三重県「志摩スペイン村」の大型コラボレーション企画であろう。

コラボレーションにつながった経緯は、周央サンゴが志摩スペイン村について配信で触れ、それが一気にバズったこと。当時VTuberについて明るくなかったという志摩スペイン村側もそこからすぐにリサーチを始め、のちにANYCOLOR社へ広報大使就任をオファーしたのだ。

話し上手な周央サンゴが志摩スペイン村の隠れた魅力について語り、そのプレゼンを楽しんだリスナーが現地に訪れる。互いの魅力を引き出しあうコラボレーション企画でありながら、大々的なプロモーション企画にもなっているという奇跡的なバランスをなした企画であり、そのインパクトは抜群。

今年は彼女に加えて壱百満天原サロメも加わり、執筆段階の2024年2月後半にはさらに内容も濃くなって2度目のコラボイベントを開催中である。

コロナ禍も明け、レジャー・エンターテイメント施設からのPRも徐々にだが増えてくるはず。ショート動画で一気に知名度をあげたあおぎり高校の面々にも、スキー場のプロモーションがお仕事として舞い込み、普段の彼女たちらしい「外ロケ撮影動画」を提供している。

あおぎり高校の例を見てしまうと、「これならば顔出ししているYouTuberと遜色ないのでは?」と思う人もいるだろう。確かにVTuber~バーチャルタレントには、“アニメーション的ビジュアル"は必須であり、人によっては何よりも重要視する部分ではある。

だが、いまではそういった認識から更に前に進み、「顔を出すことなく本人だとわかればオッケー」「本人の実在感がにじみでてくる感覚」というものがキーになりつつある。そう、プロモーション配信にはVTuber~バーチャルタレントのフロントライン(最前線)がうっすらと見えてくるのだ。普段の彼・彼女らとは違った魅力(本人性)がにじみ出てくる場所と捉え、ファンにとっても注目に値する場所になりはじめている。

何より本人が元々プロモーション対象を大好きであろうが、実際のところは馴染みがなかろうが、その状態からどのようなリアクションや理解・評価をしていくのか、単発の配信だったり、中長期のアンバサダー就任であったり、その形態はまちまちである。そこから生まれるちょっとした変化や普段とは違う姿をファンは楽しみ、配信に耳を傾け、新しい扉を開いてくれそうなプロダクトと出会うのだ。

(文=草野虹)

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