社説:医療の報酬改定 安心見えぬ患者負担増

 医療サービスを提供した病院や診療所に支払われる公定価格「診療報酬」の改定内容が決まった。

 新年度予算が成立すれば、6月から初診や再診、入院の料金などが引き上げられ、患者の負担が増す。看護師や40歳未満の勤務医らの賃上げのためという。

 担い手確保にやむを得ない面があっても、医療の安定や質の向上につながるのか。どこまで負担増が続くのか。先行きが見えない。

 加えて政府は少子化対策のため医療保険料を上げ、防衛費増額に向け医療費を削る方針も示す。

 その場しのぎのような政権の思惑で、国民の命を守る公的医療が揺らぐ事態は見過ごせない。高齢化が一段と進む中、医療の将来像と社会保障制度全体での位置づけを議論すべき時ではないか。

 政府は昨年末の予算編成で、診療報酬のうち人件費に相当する「本体」部分を0.88%引き上げると決定。中央社会保険医療協議会(厚生労働相の諮問機関)が個別の価格を答申した。

 20年ぶりとなる全患者の初診料引き上げでは、患者負担(3割の場合)が9~219円増になる。入院基本料は病棟の種類に応じて50~1040円増え、入院患者の食費なども上がる。

 政府は、開業医が営む診療所の収益が上がっている一方、深刻化する勤務医ら医療従事者の確保難に対応するため、患者負担増を給与アップに振り向けるという。

 ただ、過去にはこうした改定が賃上げに十分回っていないとも指摘されてきた。国や都道府県は各医療機関を調査し、必要なら指導などの措置を講じてほしい。

 4月からは、勤務医の残業規制を強化する「働き方改革」が始まる。今回の労働環境改善策だけでは不十分との声が現場にある。医師の育成や適正配置など踏み込んだ対策も合わせて検討したい。

 政府は12月に現行の保険証を廃止する方針で、トラブルが絶えないマイナンバーカードとの一体化推進へ、「マイナ保険証」を活用した医療機関の報酬を加算する。

 さらに医療保険料に1人平均月500円弱を上乗せする「子ども・子育て支援金」創設に向け、関連法案を国会に提出した。所得などにより月千円を超えるという。

 こうした少子化対策や防衛費の捻出のため、医療や介護の歳出抑制を打ち出すが、中身は不明だ。

 いずれも岸田文雄政権が国民の理解を欠いたまま、強行する政策のしわ寄せを医療に覆いかぶせるものであり、容認できない。

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