任天堂がSwitchエミュレーター「Yuzu」の開発者を提訴。「著作権侵害を促進している」と主張

Image:Yuzu

Nintendo of Americaは、Switchエミュレーターの「Yuzu」開発者Tropic Haze LLCに対し、著作権侵害による損害賠償を求める訴訟を起こした。Yuzuは2023年に発売された『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』の著作権侵害を助長したとされている。

ニュースレター「Game File」発行人のStephen Totilo氏が発見しX(旧Twitter)に投稿した訴訟資料によると、任天堂はYuzuがNintendo Switchの暗号化を回避し、ユーザーが著作権に守られている任天堂のゲームをプレイ可能とすることを「主たる目的として設計」されていると主張、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)の回避防止および不正取引防止の規定に違反するものだとしている。

任天堂が自社の知的財産保護を非常に重視していることは、よく知られている。スーパーマリオをはじめ、ポケモンやゼルダの伝説シリーズなどの非公式移植作品やプロジェクトがときたま現れては、短期間で閉鎖に追い込まれてきた。それだけならまだしも、任天堂は著作権保護されたゲーム音楽を無断使用したYouTube動画や、古い任天堂のゲームが載った雑誌をスキャンした画像などにまで措置を講じてきた歴史がある。

そして今回、任天堂は人気ソフトと同社最大のタイトルのひとつに生じた損害に対して法的措置を講じている。

任天堂はまた、Yuzuの永久差し止め命令によってこのエミュレーターを廃止させることだけでなく、Yuzuのウェブサイトが使用するドメイン名(yuzu-emu.org)、チャットルーム、ソーシャルメディアアカウントなどの引き渡しも求めているとのことだ。

米国では、エミュレーターのような既存の製品などを模倣する場合、それがリバースエンジニアリングなどの解析によって、オリジナルのソースコードなどをまったく流用せず、その他の権利の侵害を一切含まない形であれば、裁判で問題ないと判断された例もないわけではない。しかし、Yuzuのようなエミュレーターが動作するためには、幾層にも渡る最新の暗号化技術や、BIOS(著作権保護あり)がどうしても必要になる。

過去の例で言えば、Wiiやニンテンドー ゲームキューブのエミュレーターであるDolphinは、Wii対応ゲームの著作権保護を回避するためにオリジナルのWiiに含まれる共通鍵を含んでいたことが明らかになり、Steamでの発売が断念された

ただしYuzuに関しては、Dolphinのような共通鍵が含まれているとは任天堂は主張していない。ただ、Yuzuはそれを使用するユーザーが自分で、SwitchのBIOSや暗号鍵を用意するというスタイルを採用していることから、ユーザーは自分の所有するSwitchをハッキングしてBIOSを取り出すか、または海賊版のBIOSをどこかから入手する可能性が高いと考えられる。任天堂はYuzuが故意に「巨大な規模で著作権侵害を促進している」と主張している。

もし任天堂が、Yuzuが人々にSwitchの公式ゲームへのアクセスを提供することを「主たる目的として設計され」たと証明できれば、Yuzuにとっては非常に厳しい状況になることが考えられる。任天堂は訴状の中で、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』が発売の1週間半前に違法に海賊版化されて100万回以上ダウンロードされたとし、さらに同時期にはYuzuを支援するPatreon会員数が倍増したと主張している。

そして、エミュレータが「デバイスを知的財産権侵害ツールに変え」、プレイヤーが任天堂やそのゲーム機用のゲームを制作・発売する開発者や出版社に「一銭も支払うことなく」 Switchゲームを入手可能にしたと付け加えている。

Virtual Legalityポッドキャストを主催する弁護士のリチャード・ホーグ氏は、任天堂による申し立ての内容は、エミュレーター開発企業に裁判を争うことを思いとどまらせ、和解を選択させるに十分なものだとThe Vergeに述べている。ただし、ホーグ氏は「現時点では、これは物語の一面に過ぎないことも覚えておくべきだ」とも述べた。

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