プロジェクト10年目、生まれたメニューは400超 神戸の酒蔵を拠点に広がる酒粕の食文化

今年発表された酒粕料理の数々。和、洋、中華、スイーツと多彩なジャンルが並ぶ=神戸市東灘区、神戸酒心館

 清酒「福寿」の蔵元・神戸酒心館(神戸市東灘区)を中心に関西の飲食関係者が集い、酒粕の食文化を追究する「酒粕プロジェクト」が今春、10年目を迎えた。栄養価、うまみに着眼したフードジャーナリスト曽我和弘さん(63)の提案で旗揚げ。みそ、奈良漬、クッキー、チーズ…。洋の東西を問わず、毎年ユニークなメニューを提案してきた。その数は400超。商品化された秀作もあり、曽我さんは「賛同者が増え、可能性がさらに広がりつつある」と喜ぶ。(津谷治英)

 酒粕は日本酒を搾った後に残る固形物。神戸酒心館では醸造酒からできるブレンドをはじめ純米吟醸、大吟醸の3種類を販売する。同社広報部の幸徳伸也さん(45)は「においに抵抗のある人は、香りがいい大吟醸がお薦め」と説明する。

 関西では冬の定番・粕汁のほか、粕漬け、焼き-などの食べ方が親しまれてきた。一方で、「粕」の言葉が示すように日本酒の脇役の位置づけで関心が低く、食文化の変化もあり、戦後は流通量が減少。食卓から姿を消しつつあった。

 転機はテレビの健康番組。約10年前、タンパク質、ビタミン、食物繊維などを含む栄養素材として注目し、高血圧や糖尿病予防に効果があると紹介され、ブームになった。

 曽我さんは「日本酒の魅力に加え酒粕文化復活につながる」と神戸酒心館に相談し、2015年にプロジェクトが始まった。まず、神戸酒心館のレストラン「さかばやし」と有馬の老舗旅館「御所坊」(同市北区)が、粕汁にヒントを得た鍋料理を提案。その流れで六甲味噌製造所(兵庫県芦屋市)が酒粕鍋のみそを開発し、ヒット商品になった。

 さかばやしは日本酒にあう酒粕チーズも考案して定番メニューにした。また有馬せんべい本舗はうまみを生かした「酒粕炭酸煎餅」を商品化し、土産物として販売を始めた。

 手応えをつかんだ曽我さんは神戸をはじめ関西一円のフレンチ、イタリアンと多彩な料理家に協力を呼びかけた。その一人が神戸市中央区の広東家庭料理「紅宝石」2代目の李順華さん(47)。蒸し料理に応用したところ、「中華と相性がいい」と太鼓判を押す。「もともと日本酒は料理の調味料としても使われるが、酒粕も肉のくさみを和らげてくれる。日本人の口に適した中華料理に合う」と成果を口にする。

 6年前からは人気バー「サヴォイ・オマージュ」(同市中央区)も参加。海外のコンクールで優勝経験のあるオーナー・バーテンダーの森崎和哉さん(46)は毎年、酒粕のオリジナルカクテルを考案し、今年はどろっとした舌触りの「粕香」を発表した。

 「扱ったことのない素材なので最初は苦労した」と苦笑する森崎さん。「外国人客から、『日本らしいカクテル』を求められることが多く、いい機会になった。繊細な香りを生かす中で、新たな味を探れた」

 メンバーには曽我さんが講師を務める大阪樟蔭女子大の学生や、パンやスイーツ専門店の関係者も名を連ねる。曽我さんは「各ジャンルの料理人が五感をフル回転させて酒粕の魅力を掘り起こしてくれた。神戸ビーフ、スイーツに続く神戸の看板グルメに育てたい」と、さらなる発展を見据えた。

     ◇

 参加店は3月末まで酒粕を使った期間限定メニューを提供中。詳しくは神戸酒心館のホームページで。

© 株式会社神戸新聞社