モモをご存知だろうか。
桃ではなく、ネパール料理のモモ。
ネパール料理屋でモモを頼むと、同じ味のモモが数個盛られて出てくる。
ところが、他店とはモモの供し方がまったく異なる店が広尾にある。
モモ専門店『MOMO Stand Tokyo』だ。
知人の案内でこの店のモモをはじめて食べたときブッたまげた。
知人がモモを4個ずつ頼んでくれたので、(同じモモが4個ずつ同時に出てくるだろう)と勝手に思ったわけ。
ところが。
「ありえへん その1」。
10分間隔でモモが1個ずつ登場。しかも4個とも味もソースもスパイスもすべて異なるモモだった。
「ありえへん その2」。
隣では知人が、モモを食べながらワインとのペアリングを愉しんでいるではありませんか。
ソムリエバッジをつけた人に、グラスワインを3杯選んでもらっていたのだ。
モモとワインのペアリングを愉しめるモモ専門店
1個1個異なるモモを出していることに加え、ワインのペアリングを提案してくれるソムリエがいることも含め、すべてが衝撃的でした。
ネパール人スタッフが2人いるのもこの店の特徴。
ひとりは、シェフのギリ シリ ラムさん。
もうひとりは、商品開発担当で、日本語が堪能なアリャル・サロズさん。
サロズさんによれば、「ALL MOMO」(2750円/以下すべて税込)と命名したモモのコース料理があるという。
「7種類のモモを1個ずつ愉しんでいただけるコースです」(サロズさん)
モモのコース料理なんて聞いたことも見たこともない。
モモをコースで食べてみたい。そう思い、あらためて来店した。
さっそく1個目のモモをサロズさんが運んできてくれた。
「『チキンモモ』です。ソースにはカシューナッツとターメリックを使っています」(サロズさん)
ショウガとニンニクをきかせた鶏肉のモモに、やや甘いソースの組み合わせ。
これまで食べたことがないモモでした。
シェフのスペシャリテはスープ仕立てのモモでした
2個目は「ポークモモ」。
やや深い皿に盛られたモモに、サロズさんが温かいスープをかけてくれた。
スープ仕立てのモモをはじめて食べた。
金ゴマと大葉とパクチーの香りが素晴らしい。とくに大葉。
「ネパールではシソの種を使いますが、大葉は使いません。日本人は大葉が好きなので使うことにしました」(サロズさん)
仕上げにギー(すましバター)をかけることで、大葉の香りが長くたつようにしているそうだ。
「ポークモモはサロズさんのスペシャリテです」ソムリエであり、オーナーでもある齋藤幸太さんは続ける。
「この店のコンセプトを決めたのは、サロズさんが自宅で作ってくれたこのモモがきっかけでした」
齋藤さんとサロズさんは西麻布にあったフレンチ出身。
「モモの話をサロズさんから聞いていましたが、食べたことはありませんでした」(齋藤さん)
モモ未体験の齋藤さんに、サロズさんが自宅でスープ仕立てのポークモモをご馳走してくれた。
「モモに、ワインを合わせたら面白いなあ、そう思いモモとワインの店をやることにしました」(齋藤さん)
オープン前、モモの試作を繰り返した。
「包む部分が厚くなりがちだったことから生地の配合を変えました。でも、あえて生地を薄くしないことにしたんです」(サロズさん)
厚みを生かしたモチモチのモモにすれば、おいしく食べてもらえると思ったからだ。
試行錯誤を繰り返し、モモとワインの店をオープンした。
スパイシーなラムモモとワインのペアリングがサイコー
3個目は「ラムモモ」。
名前の通り、ラム肉を使ったモモ。
ヨーグルトに加え、クミンとミントのパンチがきいた、スパイシーなモモだった。
この料理と合わせたいワインを齋藤さんに選んでもらった。
「南フランスの『ドメーヌ・デ・ザコル』(900円)をおすすめしまします。グルナッシュ種100%。クローヴやブラックペッパーのような香りがあるので、ラムモモのフレーバーと合わせやすいと思います」(齋藤さん)
ラムモモだけでもワインだけでもおいしかったが、ペアリングはもっと愉しめた。
タンニンが強いこの南フランスのワインが、ラム肉の強い風味を包み込んでくれる。
「次は『ベジモモ』です。3個目まではネパールのスタンダードモモでしたが、4個目からはオリジナルモモを召し上がっていただきます」(サロズさん)
モモにはジャガイモ、キャベツ、タマネギ、グラナパダーノ(イタリアのハードチーズ)を使用。
その上にパクチー、豆乳、グリーンカルダモンで作ったソースがかかっている。
「ベジモモはネパールにもありますが、日本人に合うソースにアレンジしました」(サロズさん)
グラナパダーノとジャガイモを使っているせいか、ニョッキのような味わい。
ネパール料理というよりもイタリア料理を食べているような感覚だった。
エビチリのようなピリ辛のモモが登場
「続いて『エビモモ』です。ブラックタイガーをモモの生地で包みました。レッドチリ、パプリカで作ったソースをかけた、エビチリのようなモモです」(サロズさん)
ピリ辛のソースを緩和するために、マスタードオイルを使ったヨーグルトソースをモモの下にしいている。
見た目も味わいも想定外。直球が続いた後、フォークボールが来た感じ。
ピリ辛のこの料理にはビールが合いそうだ。
「辛いエビモモの次は、優しい味の『シーフードモモ』を食べていただきます」(サロズさん)
エビ、イカ、アサリにグリーンオリーブを合わせたものを白ワインでマリネし、モモの生地で包んだものだ。
「チーズ仕立てのベシャメルソースをかけ、ネパールの山椒ティムルをかけました」(サロズさん)
サロズさんが言う通り、優しくて、ほんのりと甘いモモだった。
和にアレンジした、いりこ出汁のモモ
「最後は『和風モモ』です。春菊、パンペン、ジャガイモで作ったモモに、いりこ出汁をかけてあります。うちで唯一ノンスパイスのモモです」(サロズさん)
細かく切ったパンペンのツルンとした食感と、ジャガイモ特有のとろみが面白い。
ネパール料理の最後が和風とは。最後まで想定外続きだった。
「オールモモの他、毎月異なるスペシャルモモの用意もあります。レシピ開発はシャンパーニュの2つ星レストランで働いていた方に監修をお願いしています」
今月のスペシャルは、「ホタテと黒トリュフのスープ仕立てのモモ」。
ネパール料理とフランス料理がクロスオーバーした味わいなのかも。
加えて、ネパールのエッセンスを加味したモモも毎月メニューにのせている。
今月は「バターチキンモモ」だそうだ。
「ひと粒のモモにかける思いは半端ではありません」
モモは、中国の小籠包にスパイス文化を取り入れたネパール料理だと思っていた。
けれど、シェフのギリ シリ ラムさんと、商品開発担当のアリャル・サロズさんによってモモは日々進化を続けている。
食材次第でイタリア料理のようにもなれば、日本料理のようにすることも、フランス料理の要素を加えることもできるのだ。
今回はワインを1杯しか頼まなかったが、ソムリエの齋藤さんにお願いすれば、7個のモモそれぞれに合うワインを提案してもらうこともできる。
ネパール人スタッフと、日本人オーナーソムリエ。
3人がタッグを組んだこの店は、進化し続けるに違いない。
「ひと粒のモモにかける思いは半端ではありません」という齋藤さんの言葉が印象的だった。
【MOMO Stand Tokyo】店舗情報
住所/東京都渋谷区広尾5-18-8
電話/ 03-5860-2240
営業/月火水12:00~、17:00~24:00/木金土15:00~26:30/日15:00~24:00
月火水のランチはオールモモの他、ダルバート(1200円)もあり。
予約可
(うまいめし/ 中島 茂信)