脳の周辺組織を培養装置で再現 理研が世界初、抗がん剤の効果確認に成功 iPS細胞など使用

立方体構造の培養装置のイメージ図。一辺5ミリメートルで、実験の際に扱いやすいという(理化学研究所提供)

 理化学研究所生命機能科学研究センター(神戸市中央区)の研究チームは28日、独自に開発した立方体構造の培養装置で人間の脳周辺組織の一部を再現し、抗がん剤の効果を確認することに世界で初めて成功したと発表した。実用化されれば、創薬への活用が期待できるという。

■「血液脳関門」

 新薬開発の初期段階では動物実験が用いられる。ただ、人間とは組織が異なるため、人にとっての効果や安全性を確認できないケースがあり、創薬に膨大な時間とコストがかかる要因の一つになっている。人工臓器を使う実験法などの研究も進むが、課題は多い。

 研究チームは、立方体構造をした一辺5ミリメートルの臓器の培養装置を開発。今回、マウスと人間で機能が異なる脳周辺の「血液脳関門」という血管を、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などを使って装置内で再現した。血液脳関門は血中の異物が脳に届くのを防ぐ役割を果たす。

 この装置と脳腫瘍を再現した別の装置をつなぎ、抗がん剤を投与したところ、再現した血液脳関門は腫瘍への攻撃を阻んだ。そして別の薬剤を入れると、脳組織への抗がん剤の移行量が増え、腫瘍細胞をより多く死滅させられたという。

 萩原将也研究チームリーダーは「立方体構造は扱いやすく、今回開発した血液脳関門のモデルを応用すれば、さまざまな疾患で薬剤などの作用を確認できる。他の臓器機能の再現も目指したい」と話している。(勝浦美香)

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