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ヤマハがタイおよびベトナムで発売した125ccクラスのレジャーバイク「PG-1」。運よく個人所有の車両をお借りすることができたので、速攻で試乗インプレッションをお届けしたい。比較用にはCT125ハンターカブ、クロスカブ110を用意した。
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:真弓悟史
一見するとハンターカブっぽいけど……
前後16インチという見慣れないホイールサイズに自動遠心クラッチの横型エンジン、シンプルなアンダーボーンフレーム(※)にオフロードイメージのスタイル──。ヤマハがタイおよびベトナムで発売した「PG-1」は、日本国内のカテゴリーでいえば原付二種レジャーバイクということになるだろうか。そのスタイリングはホンダCT125ハンターカブを思わせ、意地悪な見方をすれば2匹目のドジョウを狙ったようにも映る。
ところが、走れば走るほどにヤマハの良心が詰め込まれた安価で楽しいリトルバイクだと分かってくる。オンロードを走ってもオフロードを走ってもとにかく馴染みやすい。
比較対象としてクロスカブ110とCT125ハンターカブを持ち込んだが、最初に結論めいたことを言ってしまえば、お洒落で背の高いカブがクロスカブ110であり、アドベンチャー的な魔改造カブがハンターカブだとするなら、PG-1はトレール系モーターサイクルにカブの操作系と使い勝手を加味したような乗り物だ。
つまり、形は似ていても乗った感じは大きく違うというわけである。
※実際のフレーム形式はバックボーンと呼ぶべきかもしれないが、アジアでこのスタイルはアンダーボーンクラスとカテゴライズされるのでこれに倣う
跨り、触れていくとヤマハらしい優しさが伝わってくるPG-1
まずは見た目から触れていこう。ハンターカブの亜種のように見えるがシートは細身かつフラットな造りで、前後分割ながら着座位置の自由度はかなり高い。いやオフ車じゃん! という感覚になるが、それだけじゃない。燃料タンクはシート下にあり、一見するとニーグリップはしにくそうだが、フレームカバーが膝を添えやすい形状になっていて、直立ブレーキングではちょっと挟みにくいが、車体を傾けるときにはしっかりと外側の膝で押さえが利く。
一方でハンドル位置はやや近めかつ低めで、身長183cmの筆者だと少し窮屈な感じも。とはいえバーハンドルなので少し前めに調整すれば全く問題なさそう。ラバーが貼り付けられたステップバーの位置は低めで、膝の曲がりには余裕がある。
シンプルなメーターには160km/hまで刻まれた速度計(もちろんそんな速度は出ない)、オレンジ色でとても視認性のいいギヤポジションインジケーター、アナログの燃料残量系、そしてオドメーターと各種警告灯があるのみ。ハンドルスイッチ類も何の変哲もなく、横長のミラーは視認性良好。タンデム用のグリップは取り回し時にも便利だ。
セルボタン一発で簡単にエンジンは目覚め、排気音はうるさくない程度に元気がある。印象的だったのはここからだ。
感触のいいシーソー式のシフトペダルを前側に踏み込み、1速に入れる。ちなみに前側ペダルは足の甲側でかき上げる動作もしやすいよう、通常のリターン式と同じ形だ。
スロットルをわずかに開けたところで即座に自動遠心クラッチがスムーズに繋がり始め、そのまま排気量の割に厚めのトルクで優しく発進する。やや高めの回転数で繋がるカブ系に比べるとスタートダッシュは穏やかだが、そのぶん極低速での扱いやすさは抜群だ。ハンドルフルロックでのUターンも簡単だし、これが後で走るオフロードにも生きてくる。
ライダーの触れる部分が馴染みやすく、エンジンも扱いやすい。最初から“コイツとは仲良くなれそう”という気がした。
あちこち乗り回せるモーターサイクル
一般的なテレスコピック式のフロントフォークを採用することで、ハンターカブと同様にステアリングの感触はダイレクト。フロントブレーキの利きは初期が穏やかで握り込むと制動力が素直に高まる。リヤブレーキはドラム式だが、コントロール性は良好だ。
いざ走り始めると、車体がけっこうしっかりしているもののサスペンションの動きは減衰力をあまり感じさせない。ありていに言えばボヨンボヨンした動きなのだが、それはそれでつじつまが合っているような感覚なのが面白い。ホイールトラベルは前130/後109mm、最低地上高は190mmもある。
都内の一般道を走り出すと、前後90/100-16というやや太めのタイヤを装着しているのと、ホイールのスチール製リムによるジャイロモーメントの影響か、左右への切り返しなどは適度な手応えとゆったりした感じがある。IRC製のオフロード色濃いめのブロックタイヤ(GP-5)を履くがグリップに心配はない。
乗り心地は良好で、前述のサスペンションは意外なほどバランスがよく、ステップを擦りそうなほど傾けても全く破綻しそうな気配はない。よく動き、よく踏んばり、ほぼ新車だったこともあってか走行距離が進むごとにどんどんスムーズになっていく。これはエンジンも同じで、どんどんまろやかになっていった。
乗り方はリーンウィズでもリーンアウトでも、なんならハングオフでもよく、昭和の時代にあった汎用性の高いフルサイズ原付を思わせる。最近のバイクでたとえるならスーパーモタードを牧歌的にした感じと言ってもいい。パワーは往年の2スト50ccと大きく変わらない印象(ベトナム仕様では8.9ps/7000rpm)で、下からトルクがあるのでテキトーにも乗れるし楽しい。
ちょっとスポーティなコーナリングを試してみると、前後タイヤのソフトな接地感やライディングポジションの馴染みやすさから、かなり元気よく走ろうという気にさせてくれる。とはいえ出力は8.9psなので常識的な速度域で十分に楽しめた。また、前述のホイールリムの重さがちょうどいい塩梅に安定成分として働き、遠慮なく積極的に操れる。
もうひとつ、路肩の小さな段差をやや斜めに突っ切るとか、轍のうねった路面を通過する際でも安心感があったことを付け加えておきたい。どこをどう走ってもストレスなく楽しめる1台だ。
オフロードで真価を発揮!?
ちょっとしたフラットダートも走ってみたが、タイヤが想像以上にグリップするのと、前述のボヨンボヨンしたサスペンションが実にちょうどよく安心感がある。多少の段差でも底付きするようなことはなく、大切な個人所有車ということを思い出さなければ登坂や小さなジャンプも試してみたくなってしまったほど。
路面を優しくとらえる足まわりだけでなく、改めて感心したのは操作系まわりだ。フラットでスリムなシートは体重移動がしやすく、フレームカバーは下半身での押さえも利く。そして低速トルクがあり、自動遠心クラッチのセッティングが巧みなことで極低速ターンや加減速やとてもやりやすい。エンジンのレスポンスは穏やかで、グリップしにくい路面でもマシンを確実に前へと進めてくれそうだ。
そしてオフ車乗り以外には伝わりにくいかもしれないが、車体のセンターを見つけやすい。扱いやすい着座位置やスタンディングでの入力方向も自然に馴染めるうえ、多少外れても常に寛容だ。また、段差を乗り越えた際などのお釣りが少なく、前後どちらかに偏って振られるということもない。
オフロードで気になるとすれば、横型エンジンから生えているエキゾーストパイプが無防備なことだが、ベトナムでは多数のアクセサリーがホームページで公開されており、ラインナップにあるスキッドプレートを装備したら多少のガレ場でも行ってみちゃおうかなという気にさせる。
いかにもアジア向けな車体構成で、シフトロッドの取り回しなど細かいところを見れば実用本位で高級感などはキッパリと切り捨てている。でも、気兼ねなく遊べるこんなモデルこそが、将来にわたって長くバイクを楽しむライダー心を育ててくれるんじゃないだろうか。
ヤマハの良心、オフロード界のスーパーカブといえばセロー(異論は認めます)だったが、失われたと思っていたその心を受け継いだミニサイズのトレールモデルが、なんと海外で誕生していたのか……と嬉しくなってしまった。
優しく、どこまでも走りたくなるクロスカブ110
モーターサイクルとして走りの感触を繊細に楽しめるPG-1のコンセプトは、いかにもヤマハ的だ。一方で、細めの前後17インチタイヤを採用するクロスカブ110/CT125ハンターカブはというと、走破性では負けず劣らず、実用性では優っていると言っていいだろう。
まずはクロスカブ110から。エンジンは意外なほどパワフルで、加速/最高速ともハンターカブと同等か、下手をすれば少し速い。スペック上はハンターカブよりも控えめなはずなのだが……。たまたま試乗した車両の個体差かもと思ったが、クロスカブ110のほうが速いという話はけっこうあちこちで聞くらしい。
自動遠心クラッチのミートポイントもやや高めの回転に設定されていることから、スタートダッシュはPG-1よりも明確に速い。旧型エンジンの『ストトト』という鼓動感は薄れ、『シュルルーン』とかつてのスーパーカブ50のようなスムーズな回転感覚なところは好みが分かれるかもしれないが、個人的にはこっちのほうが好きだ。
ユニットステアを採用しているのでステアリングまわりの感触には曖昧さもあるが、多様な路面をトコトコと走り抜けるのには何ら不都合なし。現行モデルでキャストホイールを採用し、足元は少し硬質なフィーリングになったが、ブロックパターン寄りのタイヤ銘柄と長めのサスペンションストロークでうまく吸収している印象だ。
スポーティな走りを試してもトコトコ系の印象はあまり変わらず、A地点からB地点へと移動する“移動体”としての優れた資質はスーパーカブ譲り。ギヤポジションインジケーターなど実用的な装備もある。今回の3車のうち、どれかで日本一周のロングツーリングに出かけるならクロスカブ110だろうな、と思えた。
CT125ハンターカブは意外なほど硬派な乗り物
じゃあハンターカブはというと、トップブリッジまで伸びたテレスコピック式フロントフォークや前後ディスクブレーキといった走りの装備がクロスカブ110との大きな違いを生んでいる。
クロスカブ110と同サイズ同銘柄のタイヤ(IRC製GP-5)だが、ワイヤースポークホイールとマッチングはこちらのほうがよく、足元でいなすクロスカブ110に対しハンターカブは強靭な車体の芯で受け止めるようなバランスだ。
なので、細めのタイヤの割にはガッシリした接地感になり、前後サスペンションもそれをしっかりと受け止める。ある程度ペースを上げたほうが全体の調和が取れてくるタイプで、やはりクロスカブ110とは似て非なる乗り物だ。
前述のように、発進加速も最高速もクロスカブ110と同等。エンジンのパルス感はクロスカブ110よりも少しあるが、旧型エンジンよりスムーズなのは同じ傾向だ。ちなみに発進加速でやや出遅れるPG-1だが、回転が上がってからは2車と同等もしくはそれ以上かもしれない。
オフロードでの走破性はPG-1と変わらないか、あるいはスキッドプレートを標準装備するぶん優れているかもしれないが、よく動くサスペンションがスルッといなすPG-1に対し、こちらはしっかりとした手応えがある。また、巨大なリヤキャリアゆえかリヤまわりに重さがあり、若干のお釣りが出ることも。
走りを楽しむPG-1に対し、ハンターカブは無事に走破できるということに重きが置かれているような印象。例えば山奥まで分け入って何か目的を果たす、そんなタフな“道具”としての資質が高いように思えた。災害を想定して1台置いとくならコイツだな、という感じだ。
まとめ
姿かたちの似通った原付二種バイクながら、それぞれに異なるキャラクターが立っていた。楽しめるステージの多くはクロスオーバーしているし、出来ること出来ないことに大きな差はないものの、楽しむときの心持ちはそれぞれ異なっているように思う。
内なるライダー心を楽しませたいならPG-1。トコトコと走り続け、ときにはツーリング先の景色などに感動したいならクロスカブ110。そして道具として愛せるのはCT125ハンターカブと言えそうだ。
あとはユーザーが選べるようにPG-1国内正式導入を促すだけだ。ヤマハさん、ぜひ!! お願いしまーす!!!
PG-1、クロスカブ110、CT125ハンターカブのスタイリング比較
車両の細部解説は後日また別記事でお届けします!
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