かたかたインドネシア #55 jelalatan / kalap / khilaf

jelalatan【ジュララタン】

インドネシアに来たばかりの人って一目でわかりますよね。なんとなく落ち着かず、辺りをチラチラ見回しているのが特徴でしょうか。そんな様子を表す時によく使われるのがjelalatanです。何かに焦点を合わせてしっかり見るのではなく、サッと辺りを見渡したり、チラ見したりしている様子で、日本語には「一瞥する」なんて表現もありますね。mata jelalatanと熟語で使われるのですが、mataは暗黙の了解で、頻繁に省略されます。

説明よりも、実際に使われる場面を例文で理解してもらうのがわかりやすいのかな。
”Beat-san matanya suka jelalatan, deh, kalau lihat cewek cantik.”「びーとさんって、かわいい子を見ると、よくチラ見してるよね」。それって男性の本能、悲しい性というか……ごめんなさいです。以後、気を付けます、と言うか、ばれないようにします。

このチラチラ見る様子は、文脈によっては「色目」のニュアンスも出て来ます。確かに、チラッと見られて、こちらが見返した時にサッと視線を逸らされたりすると、簡単にやられちゃいます(笑)。

”Aku enggak suka sama dia. Orangnya suka jelalatan.”は、「彼のこと嫌いなの。いつもチラチラ見てるし……」とも、「あの子、好きじゃないわ! 色目ばっかり使ってるんだもん」とも取れますね。

”Tanya kalau ke mal pasti bawa uang sedikit. Dia suka jelalatan kalau lihat barang diskon. Bahaya kalau kalap.”「ターニャはモールに行く時は、いつも、お金は少ししか持って行きません。特売の商品を見かけると、あれこれ目移りがして、買い過ぎてしまう危険があるからです」。ちなみにインドネシアのセール品を買う時には、返品可能か質問しておくのが大事ですよ。結構な割合で不良品をつかまされるので、事前に確認しておく癖を付けましょう。

● cewek 女の子
● barang diskon 安売りの品、セール品
● bahaya 危険
● kalap 我を忘れる

kalap【カラップ】

jelalatanの最後の例文にあったkalap、これもついでにマスターしてしまいましょうか。コントロールが効かなくなった状態ですね。辞書には、怒りによって自制できなくなるケース(逆上する)が載っていますが、必ずしもそれだけではなく、先の例文のようにも使うことができます。

もう少し例文を紹介してみましょうか。”Lihat berita tadi pagi? Kasihan, ya, polisi stres sampai kalap membunuh istrinya.”「今朝のニュース見た? 警官がストレスでおかしくなって、奥さんを殺しちゃったって。かわいそうに」。このような行為は、インドネシアでは悪魔に乗り移られたとも考えられるようです。

”Acara kantor besok, kita bakalan pergi ke restoran all you can eat. Berarti, kita bisa makan sampai kalap!”「明日は事務所で食べ放題に行くつもり。よーし、めちゃくちゃ食べるぞ!」。後先考えず、がむしゃらに食べるニュアンスですね。

”Aduh, semalam saya minum sampai kalap. Saya lupa, semalam pulang sama siapa, ya?”「あーあ、昨日の晩はわけわからなくなるまで飲んだなあ。誰と帰ったんだか覚えてないんだよね」。インドネシア人スタッフに作ってもらった例文だけど、これは間違いなく僕のことなんだろうなあ。飲んだ翌日に記憶が残っているのは年に数日しかないという超酔っ払いなんです。

● membunuh 殺す
● bakalan ~するつもり
● semalam 昨夜

khilaf【キラフ】

同じようにコントロールできなくなっちゃって失敗しちゃうのがkhilafです。これはイスラムの単語で「誤り」の意味ですが、一般的にも「ついつい、やっちまった」系の失敗に対して使われます。

会社の金に手を付けて逮捕された男が警察で”Saya khilaf, Pak. 5 tahun kerja di sini gajinya enggak naik-naik.”「私は過ちを犯しました。ここで5年働いても給料が全然上がらないので」というのが正式な使い方。

”Kok, bajunya sama dengan baju kemarin? Enggak pulang, ya?”「なぜ昨日と同じ服なの? 帰ってないの?」”Iya, semalam lagi khilaf.”「うん、つい、お泊まりしちゃったの」。王道の「やっちゃった」ですね。

”Astaga, di mal toko-tokonya lagi pada diskon! Gawat, nih, gajian bisa khilaf belanja.”「うわー、モールのお店が一斉にセール中だ! こりゃヤバい、給料で買いまくりそう」と、こちらはkalapと同じような使い方。

ただ、悪いことだと自覚しているだけ救いがあるのかな。「そんな気はなかったのについ……」と、なんとなく言い訳したい時に便利な単語ですよ。ぜひマスターしてくださいね。

● astaga うわぁ!
● gawat ヤバい
● gajian 給料を受け取る

びーと(名取敬)
「N真珠」オーナー。1993年からインドネシア在住。1998〜99年、よろずインドネシアに「かたかたインドネシア」を掲載する。2010年から『南極星』、2016年に『+62』に場を移し、好評連載中。

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