[社説]首相出席し公開政倫審 進退かけ疑惑解明せよ

 迷走を重ねた末に岸田文雄首相が示した打開策は、自ら出席を表明することで党内に逆らえない空気をつくり、従わせるという手法だった。

 岸田首相は28日、記者団に対し「党総裁として説明責任を果たしたい」と述べ、衆院政治倫理審査会に出席する意向を明らかにした。

 首相が政倫審に出席したケースはなく、野党が出席を要求していたわけでもない。

 首相の窮余の策によって党内の流れが一気に固まり、29日と3月1日の両日、岸田首相を含む6人が出席し、全面公開で実施することが決まった。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡って与野党は当初、28、29両日に政倫審を開くことで大筋合意していた。

 政倫審への出席が予定されていたのは安倍派、二階派の幹部5人。

 政倫審は原則非公開となっているが、当事者の意向によって公開することも可能で、実際、過去9回のうち完全非公開は1回だけだ。

 だが公開か非公開かの開催方式を巡って与野党の折り合いが付かず、28日開催は見送られた。

 首相は指導力に欠け、自民党は組織の統率が取れず、対象議員は自己保身の姿勢が目立ち、混迷を極めた。

 窮余の策として打ち出されたのが首相の政倫審出席だった。派閥解消を宣言した時と同じ手法である。

 一連のドタバタ劇で改めて浮かび上がったのは、首相の指導力の欠如と自民党政治の劣化である。

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 説明責任を果たすということはどういうことか。

 国民が抱いている疑念に向き合い、分かりやすく丁寧にありのままを述べ、問題の所在をはっきりさせること。それが前提である。

 議員が一方的に言い訳を述べるだけでは説明責任を果たしたことにはならない。

 裏金事件を受け交流サイト(SNS)には、確定申告のボイコットを訴える投稿が相次いでいる。裏金議員の追加納税を求める声は多い。

 裏金には、販売ノルマを超えた分が派閥から議員に還流されるキックバックと、ノルマ超過分を派閥に納めず議員が手元にプールするなどの手法があるといわれる。

 その実態は依然としてはっきりしない部分が多い。

 巨額の裏金づくりが誰の指示で、いつから始まったのか。その目的や具体的な使途が明らかにならなければ、疑惑が解明されたとは言えない。

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 岸田首相が政倫審参加を表明したことについて政権に近い自民党議員からは、首相が主導して事態の打開を図ったと評価する声が上がっている。

 全面公開による政倫審が開かれることで岸田首相の求心力が高まるかといえば、とてもそのような状況にはない。

 本をただせば、この問題が混迷を深めたのは、首相に指導力が欠け、自民党におごりがあったからだ。

 政倫審が疑惑解明に結び付かなければ、自民党への批判だけでなく、首相自身の進退を問う声が高まるだろう。

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