【1月人気記事】予算1日1000円で暮らす小笠原洋子さん74歳。ケチケチ生活でも「悠々自適」というその訳は?[前編]【お金部門1位】

マチュアリストの2024年1月「お金部門」の人気記事をご紹介します。
※内容は取材時の状況です。
↓↓
「ケチ上手とは、できるだけ無駄を省いてお金からも物からも自由になり、その代わりに心が豊かになるような工夫を重ねること」と話すのはエッセイストの小笠原洋子さん。ひとり暮らしの年金生活で、小笠原さんはそれを実践しています。毎日の暮らしぶりと、取材当時の住まいの様子を教えていただきました。

後編はこちら。

お話を伺ったのは
エッセイスト 小笠原洋子さん

おがさわら・ようこ●1949年東京都生まれ。東洋大学卒業。京都の画廊勤務後、東京で美術館の学芸員や大学の非常勤講師を務める。退職後、フリー・キュレーター、美術エッセイストとして活動。著書に『フリードリヒへの旅』(角川学芸出版)、『おひとりさまのケチじょうず』『ケチじょうずは捨てじょうず』(ともにビジネス社)などがある。2月には新刊が発売予定。

自分らしくシンプルに美しく暮らすということ

緑が広がる東京郊外の公団住宅で、ひとり暮らしをしている小笠原洋子さん。都内の実家を処分し3LDKの分譲団地に移ったものの、いろいろあって2015年にここに引っ越してきた。

間取りは3DKで家賃が約5万5000円。何かあったときのための有料の救急ベルつき電話が設置されたシニア向け住宅の一室だ。週に一度は電話で安否確認もしてくれる無料サービスがついている。

「私は独り身ですが、ひとりは苦になりません。むしろ誰にも気兼ねのいらない時間が好き。ここに越してきて、孤独死して発見が遅れたら周囲に迷惑がかかる、というひとり暮らしの不安も減りました」

部屋はすっきり片づき、清潔で、そこここに住む人の美的センスが感じられる。

団地サイズの小さな玄関を上がると短い廊下があり、その突き当たりはちょっとしたギャラリー風コーナーになっている。植木鉢をのせる花台をふたつ並べ、黒い板を渡して棚にし、「ややお金持ちだった30歳の頃」手に入れたという柳原睦夫作の陶芸品が飾られ、壁には「蹲る」という備前焼の花挿しが吊り下げられている。

このいかにも和風な花挿しに何かを生けて、現代アートにしてみたいと思いついた小笠原さん、大工道具箱に眠っていた、らせん状に巻いてあった太めの針金を、そのまま花挿しから垂らしてみたという。それが下の写真だ。

廊下の突き当たり。花台の上に板を渡し、30歳の頃に手に入れた陶芸品を置く。下の花器は母の遺品。吊り下げた花挿しには、巻いてあった針金をそのまま挿した。

カーテンのボリューム感が好きではないので窓にカーテンはなし。代わりに和紙風のブラインドが取りつけてある。布より掃除しやすく、巻き上げれば開放的な気分になれるという。また、レースカーテンの代わりにはメモ用紙を切った手作りのモビールを吊り下げている。

「窓の向こうの雑木林を暮らしの借景にしたい。でも外からの視線は遮りたい。そこでブラインドとモビールを考えました」

窓には和紙風素材のロールブラインドとメモ用紙で作ったモビールを。「モビールは外からの視線を適度に遮ってくれます」

また、あまり使わない北向きの洋間は趣味の部屋に。会津塗色粉蒔絵の小たんす、中近東の真鍮の水差し、横尾忠則の版画……。いただきものや若かりし頃に購入したものの中からお気に入りだけを並べた、その名も「ワタシ・ギャラリー」だ。

使わない北向きの部屋は、真鍮の水差し、スカートを解いたクロスなど、お気に入りだけを並べたワタシ・ギャラリーに。

「美しいものが好き」で京都の画廊勤務からスタートし、都内の美術館の学芸員や大学の非常勤講師として働いてきた。

「私にはできるだけ自由に生きたいという思いがありました。それで45歳のときフルタイムの仕事を辞めました。その後はフリーランスで美術に関する仕事をしてきました。

家財道具の多くは両親や兄の遺品で大切に使っています。年金生活ということもありますが、気に入っているもの、どうしても捨てられなかったものを、自分の好みに工夫するのが楽しいのです」

クッションは手芸教室を開いていた亡き母の作品。「家財道具は両親や兄の遺品が多いです」

お財布にも地球にも優しい「ケチカロジー」を実践

そんな小笠原さんは、予算1日1000円のケチケチ生活を30年近く続けている。

「幼い頃から物を買うよりお金を貯めることに関心があり、お小遣いをもらうと郵便局に走ってコツコツ貯金をするような子どもでした(笑)」

それは大人になっても変わらず、京都では1日300円しか使わない生活に挑戦したこともあるという。

「どのくらいお金を切り詰められるか? ゲーム感覚でしたが、お米さえも買えませんでした。1日500円生活も試しましたが、やはり暮らしは成り立たず……。40代で1日1000円生活に落ち着きました」

遊び感覚でケチ道を楽しんでいた若い頃と違い、本気で節約をしようと思ったのは老後への不安からだ。40歳から国民年金に加入していたが、公的年金受給額は少ない。少々の貯蓄ではやっていけなくなるだろうという思いがあった。

「無駄を省く、再利用することは、資源を節約する、環境に優しい生活でもあります。そこで節約(ケチ)で環境に優しい(エコロジー)生活を、語呂よくケチカロジーと名づけました。どうやって1日1000円で楽しく暮らすかと工夫し、今日もケチカロジーができたと思うと嬉しくなります(笑)」

母の着物をスカートにリメイク。「自分の若かりし頃の服もリフォームして着ています」

1日1000円生活を実現するために「今日、使うお金」として千円札をお財布に入れて出かける。実は予備としてクリップで留めた千円札もお財布に忍ばせているのだが……。

「倹約ばかりではストレスがたまりますから(笑)。ときには予算オーバーになることも。そんなわけで1日1000円を超える日もあります。ある日の出費が1500円だったら翌日は500円以内に。2000円を使ったら翌日は出費ゼロを目指して家から出ない。1カ月平均して、1日1000円の生活をしています」

現在の年金額は家賃にも満たないので、家賃や光熱費等の固定費は別会計で、貯金から出しているという。

すっきりと片づいたベッドルーム。「ランプシェードは母の手作りです」

※この記事は「ゆうゆう」2022年1月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

撮影/橋本 哲

【後編に続く】


© 株式会社主婦の友社