退職金「1,500万円」、年金「月17万円」でも…元大卒サラリーマンの老後を崩壊させる「3つのまさか」

十分な退職金、十分な年金、十分な貯蓄……「老後にお金の不安なし!」と準備万端だったはずが、なぜか苦境に陥るケースも珍しいことではありません。老後を崩壊させるきっかけとなる、想定外の出来事とは?

大卒サラリーマンが手にする「退職金」と「公的年金」

老後の安心・安全のために……まず、頼りになるのは「退職金」。

厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』によると、定年退職金の平均額は「大学・大学院卒」で1,896万円、月収換算で36.0ヵ月分。「高校卒」では1,682万円で、月収換算で38.6ヵ月分でした。また大学・大学院卒について、勤続年数別の定年退職金額をみていくと、「勤続20~24年」で1,021万円、「勤続25~29年」で1,559万円、「勤続30~34年」で1,891万円、「勤続35年以上」で2,037万円となっています。

一方、厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』によると、定年直前、55~59歳の大卒正社員の平均勤続年数は25.1年。従業員1,000人以上の大企業勤務で29.5年、従業員10~99人の中小企業では18.7年。規模の大きな企業のほうが安定して働き続けられるという事情もあるのでしょう、平均勤続年数は長くなります。

これらを加味すると、大企業勤務の大卒サラリーマン、定年退職金のボリュームゾーンは「1,500万円程度」といったところでしょうか。

そして老後を支えるのが公的年金。大卒サラリーマンの平均的な給与水準で計算すると、60歳の定年で現役を引退した場合の厚生年金は月10.3万円。そこに併給の国民年金(令和6年度月6.8万円)を足すと、月17.1万円になります。年金の取り額は額面の85~90%とされているので、実際は14.5万~15.3万円程度を毎月もらえると考えられます。

一方、総務省『家計調査 家計収支編(2023年)』によると、65歳以上の男性の1ヵ月の平均生活費は15万1,182円。ギリギリではありますが、年金だけで生活することもできそうです。

さらに、貯蓄事情もみていきましょう。金融広報中央委員会『令和5年 家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]』によると、将来を見据えた蓄え=金融資産があるというのは、単身世帯全体の64.0%。蓄えがなく、その日暮らしのような生活という単身者は36.0%に上りますが、それでも「将来のためにきちんと蓄えています」と人が多数派です。また金融資産の平均値は1,492万円、中央値で500万円です(いずれも金融資産保有世帯のみの数値)。

十分な備えがあっても…老後崩壊を招く、3つの想定外な出来事

平均的な退職金を手にし、平均的な年金ももらえる。老後を見据えた蓄えもきちんとある。3つ揃っていれば、老後の安泰は確約されたといってもいいでしょうか。しかし、何事にも“絶対”ということがないように、安泰かと思われた老後を崩壊させる出来事が……。

①老後崩壊を招く出来事「年金減額」

令和6年度の年金額は前年度に比べて2.7%引き上げられたものの、物価高の分を上回ることはできず、実質減額となりました。

そもそも公的年金には、給付と負担のバランスを自動的に調整する仕組みがあり、おおむね5年ごとに、財政検証という、最新の人口や経済の状況を反映した長期にわたる財政収支の見通しを作成しています。前回2019年には、2040年代に年金は2割目減りすることが示されました。

しかし昨今、少子化が想定以上のスピードで進んでいることは、ニュースで伝えられているとおり。年金2割目減りはもとより、それ以上の減額も考えられるでしょう。いまの水準で将来の年金額を見据えていると、年金の目減りに耐えられなくなり、一気に生活は破綻することになります。

②老後崩壊を招く出来事「医療費・介護費の負担増」

年を重ねていけば健康リスクは高まり、それまで病院知らずの人でも通院する機会は増えていくでしょう。高額療養費制度などもあり負担額はそれほどではないとはいえ、現役時代と比べるとはるかに出費は増加。家計をじわりじわりと圧迫します。

また後期高齢者の医療費の窓口負担割合が見直しになったように、負担額・負担率は、今後も現行通りとは限りません。いまの現役世代が高齢者になったとき、現行通りの負担で済むのかはあまりに不透明です。

③老後崩壊を招く出来事「住宅ローン返済」

昨今、晩婚化などに伴い、ライフステージは少しずつ後ろ倒しに。それに伴い、住宅購入年齢や、住宅ローンの完済予定年齢も上昇し、住宅ローンから解放されるのは70代というのも珍しいことではなくなりました。ただ住まいはローン完済すればそれで終わりというわけではなく、定期的に修繕が必要に。ローンの返済期間は30年程度ですが、完済前に、大規模な修繕が必要になるタイミングが訪れます。再びローンを活用すれば、老後ににも関わらず、返済額がどんと増える可能性も。安泰だと思っていた老後は、ローン負担の拡大で一気に苦しくなります。

2019年に勃発した「老後資金2,000万円問題」。高齢者夫婦の場合、老後に「年金+2,000万円が必要」というものですが、これはあくまでも現在の水準で考えたときの話。現役世代が老後になったときに、同じ水準で考えられるかはあまりに不透明です。

退職金も、年金も、貯蓄も、三拍子揃っていても、想定外の出来事で老後が崩壊してしまうことは決してゼロとはいえません。たとえば老後を30年としてシミュレーションしていても、それ以上に長生きをしたら……あっという間に破綻です。どのような場合でも対応できるよう、1年でも、2年でも「資産寿命を延ばす」という努力をするのも、ひとつの手です。

[参考資料]

厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』

厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』

総務省『家計調査 家計収支編(2023年)』

金融広報中央委員会『令和5年 家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]』

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