「すごく楽しみ」だった北朝鮮戦、長野風花が明かした勝利の要因…進化を止めないなでしこの10番

なでしこジャパン(日本女子代表)は28日、パリオリンピック2024女子サッカーアジア最終予選第2戦で朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)女子代表と対戦し、2-1で勝利した。試合後、同試合にフル出場したMF長野風花(リヴァプール/イングランド)が報道陣の取材に応じた。

サウジアラビアのジッダで開催された第1戦をスコアレスドローで終えたことで、シンプルに勝てばパリオリンピック2024本大会出場を決められるという条件の中で日本へ帰ってきた。だが、長野は第1戦について「失点はしなかったことは良かったですが、やっぱり内容、結果ともに私たちが求めてるものではなかったです」と反省点を口にする。「結構後ろで回して、それで詰まったら蹴る。あまりチームとして繋がりがなかった」と具体的な要素も挙げたが、その第1戦を経験したことで見えてきた部分があったことも事実だ。

「前には強いけど、ちょっとズラされたところに弱いというは、第1戦の時点で感じていました。縦パスを差し込んだ時、1発目は強く来るけど、落として次のボールに寄せていくのは、相手の選手も多分苦手としているところだったと思うので。第1戦ではその距離感にはなかなか人がいませんでしたし、そもそもそこにボールが入らないことが多かった。苦戦しましたけど、その分、相手のシステムだったり、どこに強く寄せてくるのかは、しっかりと身をもってわかりました」

ピッチ上で体感した部分に事前のスカウティングで分析した情報を組み合わせたことで、第2戦では同じ5バックの守備陣形を敷く北朝鮮女子代表に対して、アプローチが変化していった。徐々に守備網を掻い潜っていけた要因を、長野は「第1戦でなかった縦パスが入るようになって、そこからのワンタッチでの関わり、フリックみたいなプレーも増えてきていた」と、北朝鮮代表が“苦手”とするプレーを増やしたことにあると語る。「今日は本当に距離感が修正できて、しっかり3人目を使えば必ずチャンスはできるってイメージしていました。今日はしっかり相手を見ながらプレーできたと思います」と明かした長野は、76分にFW藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)の落としを受けると、ダイレクトで右サイドへスルーパスを送り、DF清水梨紗(ウェストハム/イングランド)を走らせる。“3人目の動き”が現れたこのプレーは、なでしこジャパンに勝利を呼び込む藤野の2点目に繋がった。

最終ラインからのボールの前進をよりスムーズに進めるという意味で、長野はシステム変更も大きかったと感じている。第1戦、もっと言えば直近のなでしこジャパンはDF熊谷紗希(ローマ/イタリア)をアンカーポジションに据える4-3-3で戦っていたが、この試合では熊谷を3バックの中央に落として、両サイドバックに高い位置を取らせる3-4-3が基本系に。FIFA女子ワールドカップオーストラリア&ニュージーランド2023を戦った時の布陣に“原点回帰”していた。

「今日は3-4-3になって、ゆいゆい(長谷川唯)だったり私のどちらかがボールに関わりながら前進できたっていうところでは、ワールドカップでもこのフォーメーションでしたし、やり慣れてるっていう面ではスムーズに行きました」

もっと根本的な部分で言うと、気持ちの部分でも完璧な準備ができていた。第1戦を踏まえた感情を「私たちはもっとできるって思っていて、本当に今日やるしかないっていうのは、みんな本当に思っていた」と表現すると、「勝つしかないという気持ちしかなかったので、チーム1人1人が自信を持ってくれてきたことが今日の結果に繋がったと思います」と堂々の発言。「昨日の前日練習からみんなすごい『やるぞ』という気持ちが出ていたので、『これならいけるな』って私もすごく思っていたので。本当にみんなで自信を持っていこうねっていう話をした中で、切符を掴み取れたので、とても嬉しいです」と話していたことから、チーム内の雰囲気もポジティブだったようだ。

加えて、長野個人としては「正直負ける気があまりしなかった」という。負ければオリンピックの出場権を逃すという状況の中で迎えた大一番だったが、「私自身は正直、すごく楽しみでした」。試合後のフラッシュインタビューでは中盤でコンビを組んだMF長谷川唯(マンチェスター・シティ/イングランド)が「まずは自分たちのために楽しんでプレーしたことが、今日の試合結果に繋がったかなと思います」と話していたが、長野自身もピッチ上で類似した感覚を持っていたようだ。

「どの試合であろうと、もちろんサッカーは楽しんでやるものなので。その楽しんだ中で、良いプレーが出ると私は思っています。もちろん、今日の試合はそれにプラスして、絶対勝たなきゃいけないという強い覚悟もありました」

パリオリンピック2024本大会の出場権を懸けた大一番に向けて、『国立競技場』には2万人を超えるファン・サポーターが集まった。大声援の中でプレーすることについて、長野は「苦しい時間帯で、サポーターの皆さんの声援っていうのがすごくパワーになった」と述べただけでなく、「やっぱりサッカー選手をしている以上、今日のようにたくさんのお客さんがいる中でピッチに立てるのは、やっぱりやりがいをすごく感じます」と自身のモチベーションに繋がっていたことも明かす。「すごくサッカー選手としても幸せなことなので、本当にすごく今日はサポーターの皆さんの存在が力になりました」とファン・サポーターへの感謝も伝えていた。

こうして大一番を白星で飾ったが、長野は「今日は本当に結果としては良かったですけど、まだまだ自分たちはボールコントロールできる時間帯もありますし、押し込まれた時間でどういうプレーを選択するかなど、改善点は多いです」と向上できる部分も口にする。「世界大会では高さ、力強さで優れた選手がたくさんいるチームと戦う。個人としてはフィジカルコンタクトだったり、どういう時間帯でどういうプレーをするかっていうチームの共通意識も大事です。オリンピックまでに残されている時間は本当に少ないので、しっかり1人1人が成長しかなけれなりません」と語ったが、次なる目標としてパリオリンピック2024での金メダルを掲げるならば、当然の意識なのかもしれない。

そして、国際大会の頂点に立つチームには、必ずと言っていいほどチームを救う背番号10の存在がある。“エースナンバー”を背負う者は期待されているからこそ、ある種の重圧にさらされることも少なくはない。だが、長野はそのようなプレッシャーすらも良い意味で力へ変えている。「この番号付けてる以上やっぱりそれにふさわしいプレーをしないといけないっていう思いはあります」と前置きしつつも、「でも、やっぱり背中を押してくれる。この番号を背負っていることによって、プレッシャーを感じるというよりも、本当に『私がやってやる』っていう気持ちが強くなります」と前向きな言葉を残していた。

チームを俯瞰した上で的確な課題を見出しつつ、それを乗り越えた時にはさらに上の目標を見る。一方でサッカーを楽しむ姿勢は絶対に忘れない。そんな長野がパリオリンピック2024本大会でどのようなプレーを見せてくれるのか、今から楽しみだ。

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