ゼンハイザー「ACCENTUM Plus Wireless」の音質は“価格以上”。ノイキャンも優秀でバランス良好

プロ用ヘッドホンやマイクで長年の実績を持ち、HiFiオーディオファンからもそのクオリティの高さで絶大な人気を誇るドイツの名門ブランド、ゼンハイザー。近年はワイヤレスイヤホンやヘッドホンのラインナップも充実して選択の幅が広がっている。

同ブランドでは既にフラグシップラインの「MOMENTUM」シリーズが定評を得ているが、そのエッセンスを引き継ぎつつ、よりシンプルな「ACCENTUM」が設定され、早くも製品第2弾となる本機「ACCENTUM Plus Wireless」が登場した。この記事では、本機のポジションや特徴、そして魅力を探って行く。

ゼンハイザーのワイヤレスヘッドホンラインナップとしてはMOMENTUMシリーズがフラグシップの位置づけで、ACCENTUMはその下位にあたるプレミアムモデル。両者の違いは、ハイレゾ相当(aptX Adaptive 96kHz/24bit)のほか、ドライバーの口径や通話およびノイズキャンセルに利用するマイクの数、タッチコントロールの機能など。

「ACCENTUM Plus Wireless」(予想実売価格38,390円前後/税込)。カラーはブラックとホワイトをラインナップする

また、先に発売済みのACCENTUM Wirelessと比べると、ノイズキャンセリングは周囲の騒音状況に応じて自動的に強度を調整するアダプティブ機能を有するほか、充実したタッチコントロール機能の搭載、ノイズキャンセリング用マイクの数が1基多い6基、aptX Adaptive(48kHz/24bit)への対応などがある。

つまり、ACCENTUM Wirelessをベースとしつつも、型名の “Plus” の通り、機能面でMOMENTUMに近づいた、ミドルハイクラス的な性格を持っていることがわかる。

本機を手にして感じるのは、オーバーヘッドかつアラウンドイヤー型のヘッドホンとしてはボリュームが小さく、非常に軽量であること。「MOMENTUM 4 Wireless」は重量がスペック値で約293gに対し、本機は約227gと約30%も軽い計算だ。グレードや価格を抜きにして「軽量」という観点でも本機は注目に値するだろう。

付属のキャリングケースを用いることで、持ち運びもさらにしやすくなる

挟圧は一般的なヘッドホンと比べると強めで、この点が特に気になるユーザーは試着による確認をお勧めしたいが、不快感を覚えないのはさすがにゼンハイザー。イヤーパッドは角度、厚み、柔らかさのバランスが良く、遮音性やホールド感を高める意図が感じられる。ほか、ヘッドバンドを最短に調整した際の “短さ” も、欧米ブランドの中では配慮を感じる。幅広いユーザーに快適な装着感をもたらしてくれそうだ。

肉厚のイヤーパッドが柔らかくフィットし、装着するだけで高い遮音性を実現する

音質は、結論から述べると非常に優秀。音の分離が良く、それが一つ一つの音の立体感、全体の立体感、空間の広さに繋がっている。

周波数バランス的な音質傾向は、リスナーそれぞれの聴覚特性や好みで評価が分かれて当然だが、本機は素の音が非常に良いという意味で、ゼンハイザーブランドを冠するにふさわしく、現フラグシップであるMOMENTUM 4 Wirelessと比べても遜色を感じない。ここに “音質傾向” という軸が加わると、むしろ本機を好ましく感じるリスナーがいても不思議はないだろう。アコースティック部はグレード差が表れやすい部分だが、一方でデジタル部の進化は日進月歩。新しい製品が有利なケースは少なくない。

ノイズキャンセリングがサウンド体験の向上にも寄与する

実際にいろいろな楽曲を聴くと、新鮮ともいうべき発見が多かった。筆者がリファレンスとしている楽曲の一つ、ダイアナ・クラールの「California Dreamin'」。長年聴き慣れた楽曲だが、ノイズキャンセリング機能がオンの状態でもホワイトノイズのような副作用をまったく感じず、非常に静かな室内でも微かに聞こえる環境騒音を低減して高S/Nなリスニング環境が整う。これにより、冒頭の無伴奏の歌い出しは空間の透明感が秀逸。ハスキーボイスもどこか艶やかで魅力的に響く。

ノイズキャンセリング機能は単に外界ノイズの低減に陥らず、サウンド体験の向上にも寄与する完成度の高さが、ゼンハイザーの良心、そして本機の魅力といって良いだろう。静けさを楽しむことができ、静けさの中で奏でられる繊細な表現がより豊かに感じられるのも格別。シルキーさが際立つ上質な体験ができた。

ノイズキャンセリングはただノイズを低減するだけでなく、繊細な表現をより感じられるようになる

次に非ハイレゾの配信音源も確認。最近筆者もヘビロテしているLE SSERAFIMの「Perfect Night」は流麗なメロディーが印象的な楽曲だが、実は多彩な重低音成分を含み、再生機器の質で聞こえ方や心象も大きく変わり、テストに重用している。

冒頭のバスドラム的な成分は、程よいアタックでその後に続く音色の変化も如実に感じられて立体的。ちなみに一般的なヘッドホンやイヤホンでは、アタックが強く耳障りで質感もなめされ、「ボソッ・ボソッ」と平面的かつ単調に聞こえることが多い。曲が進行して35秒あたりから第2波の重低音成分が到来。ベースのようで持続的な成分だが、本機では非常に低い音域ながら音程の違いが明瞭でグルーブ感の高い表現に繋がっている。

φ37mmのドライバーはサイズとしては特に大口径ではないが、HD 450BTの37mmドライバーをブラッシュアップしているとのことで、その違いもあるかもしれない。低音の質を重視するユーザーにもお勧めしたい。

ワイヤレスのほか、3.5mm端子での有線接続にも対応する。バッテリー持続時間はノイズキャンセリングオンで最長約50時間とかなり長いが、もし充電切れになっても安心だ

そのほか操作は、ACCENTUM Wirelessが4ボタンなのに対し、本機はタッチ操作が可能。しかも、上下スワイプによる音量調整、前後スワイプによる曲スキップが可能と、機能面も充実している。筆者の場合、普段はボタン操作が面倒でプレーヤー側に頼りがちなのだが、本機なら直感的に音量調整やスキップ操作が行えるので、常用できそうに感じた。音量調整は操作に対して動作が若干ながら遅れることがあるなど、やや詰めの甘い部分も感じたが、アプリ経由でファームウェアアップデートも可能なので、将来の改善に期待したい。ほか、実用上問題はないものの、アプリの日本語表現はもう一段の洗練度が欲しく感じた。逆にいえば、他に大きな不満点はないともいえる。

ノイズキャンセリングを含め絶対的な音質は非常に優秀で、コストパフォーマンスの面でも納得できる水準であることが確認できた。この点、ゼンハイザーが蓄積してきたアコースティック技術のノウハウや、フラグシップMOMENTUMシリーズの資産が上手く活用されて、本機の価値を「価格以上」に高めていると考えられる。

また操作の面ではACCENTUM Wirelessよりも明らかにワングレード上で、MOMENTUM 4 Wirelessに近い仕様が使い勝手を高めている。

本機は、価格面でMOMENTUM 4 WirelessとACCENTUM Wirelessの間を埋め、ラインナップとしてユーザーの選択肢を広げてくれるが、それ以上に、小型軽量でサウンド性能や機能も充実し、バランスの良さが光る1台。ゼンハイザーのワイヤレスヘッドホンの中核として注目して欲しい好モデルだ。

(企画協力:Sonova Consumer Hearing Japan)

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