VTuberグループ「あおぎり高校」は2月7日、X(旧Twitter)を更新。「メンバー宛のプレゼントにGPS発信器が隠されている事件が発生いたしました」と報告した。
「あおぎり高校」は2022年7月にプレゼントの受付停止を発表。現在は原則ファンレターのみを受け付けている。
このような現状にもかかわらず、送られてきた“プレゼント”にGPS発信器が隠されていたということで、SNS上では「怖すぎ」といった声や“厳しい対応”を望む声が上がっている。
「あおぎり高校」側も同ポストで「弊社顧問弁護士と協議し、刑事告訴を検討しております」としており、今後何かしらの法的な動きがみられそうだ。
事務所を介しても「ストーカー規制法」の対象となる
ではGPS発信器が隠された“悪質なプレゼント”を送りつける行為はどのような罪にあたるのか。刑事事件の対応も多い杉山大介弁護士はこう語る。
「『位置情報記録・送信装置を取り付けた物を交付すること』としてストーカー規制法が禁止する「位置情報無承諾取得等」(第2条第3項第2号)という行為に当てはまります」
今回はVTuber本人ではなく、事務所宛にプレゼントが届いているが、その場合も罪に問うことはできるのだろうか。
「ストーカー規制法では、つきまといや位置情報無承諾取得などの禁止行為の対象を、『当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者』と定めています。
要するに、その人が生活するテリトリーと評価できる人に対する行為も規制の対象に入っています。ネット社会の新しい類型ではない、伝統的なストーカーでも、被害者の家族にメールや手紙を送る行為によって摘発されている事例もありますね。
VTuberにとって仕事先であり、また唯一“中の人”を知っている事務所は、被害者のテリトリーに当然含まれると考えて良いと思います」
しかし、ストーカー規制法をもとに“犯人をいきなり処罰する”のは難しいという。
「ストーカー規制法は「行政法」です。犯罪としての取り締まりを主目的としておらず、警告や接近禁止命令などの行政的な手段をとるための法律です。つきまといや位置情報無断取得などを繰り返してはじめて、『ストーカー行為』という犯罪になります」(杉山弁護士)
「威力業務妨害」で取り締まりの可能性も
ではストーカー規制法以外に、こうした“悪質なプレゼント”を送りつける行為へ法的に対処する方法はないのだろうか。
杉山弁護士は「『あおぎり高校』のケースの場合、刑法で取り締まるなら業務妨害罪でしょうか」と話す。
「業務妨害は『業務を混乱させるような行為』を対象にしており、今回だと『ファンからのプレゼントの授受』といった、VTuberにとって重要なファンとの関係性を持続し活性化させるための業務を中止に追い込む行為であるとして、業務妨害行為に該当すると考えられます。
威力か偽計かの区別はあまり実益がないのですが、今回は危ない物を送り付けるという物理力が加わっているので、威力業務妨害(3年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金)ですかね」(杉山弁護士)
ただ、こうしたストーカー事件特有の難しさもあるという。
「この手のストーカーは、事件の裁判などですら、被害者と同じ出来事を共有できる機会と捉える思考を持っていたりすることもあるので、罰したり訴えたりしても抑止できない可能性があるところが、被害者にとって一番の悩みどころだったりします」(同前)
VTuberのみならず、アイドルなど芸能界でもGPS発信器や盗聴器がプレゼントに仕組まれていたという事案が度々発生している。
彼ら・彼女らがストーカー被害に悩まず、活動に専念出来る日は来るのだろうか…。