よみがえれ昭和の飾磨 風情あふれる宮堀川沿い、戦前建築の元割烹旅館「丸安」 保存願い3月8~10日に一般公開 姫路

「町家の日」に合わせて一般公開される元割烹旅館「丸安」。手前に架かるのが御幸橋=姫路市飾磨区宮

 昭和初期に存在した「飾磨市」の中心部、現在の兵庫県姫路市飾磨区宮に残る築92年の元割烹旅館が3月8~10日、一般公開される。40年ほど前に営業を終え、直近の約20年間は空き家となっていた。ちょうど1年前、建物を管理する女性と地域活性化に取り組む女性が知り合い、止まっていた時が動き出した。建物の保存を望む2人は「多くの人に内部を見てもらい、何か活用のアイデアが出てくればうれしい」と話す。(上杉順子)

 恵美酒宮天満神社の南、宮堀川沿いに立つ元「丸安」。登記簿によると1932(昭和7)年の建築という。細長い形をしたいわゆる「うなぎの寝床」の木造2階建てで、戦災を逃れ、戦後には増改築を重ねた。姫路港に近く、周辺には他に旅館もなかったため、高度経済成長期にはかなりのにぎわいを見せたという。すぐ近くには旧飾磨市役所があった。

 所有する三木達子さん(98)の息子の妻で、管理を担当する三木周子(ちかこ)さん(65)によると、丸安を開いたのは達子さんの母つねさん。住居部分もあり、周子さんが四十数年前に結婚した頃にはつねさんとその妹、達子さんの女性3人が暮らしていた。飲食店としてはまだ時々営業し、呉服の展示会が催されたり、年末には消防団や米穀店が宴会を開いたりしていたという。

 つねさんらが亡くなり、達子さんも高齢で施設に移ったため、約20年前からは空き家に。近くに住む周子さんが時折訪れ、風を通していた。猫やアライグマが入り込んで荒らしてしまった部分もあるが、「竹」をテーマにした意匠など、細部まで工夫を凝らした造りは健在。県や市の文化財には指定されていない。

 姑から管理を受け継ぎ、丸安を大切にしてきた周子さん。昨年の1月末頃、市の施設に置いてあったチラシに目が止まった。「うちが写ってる」。「マーチ(英語で3月)ヤ(8)」の語呂合わせで、毎年3月8日前後に開かれる催し「町家の日」に関連し、飾磨地区を歩いて巡るイベントをPRする内容だった。

 写真を選んだのは、この町歩きイベントを主催する「飾磨ひろめ隊」隊長の下津千修(ちのぶ)さん(58)=同市飾磨区恵美酒。ひろめ隊は飾磨の歴史や文化を発信するボランティア団体で、下津さんは宮堀川沿いの町並みが以前から気に入っていたが、丸安に入ったことはなかった。

 「前を歩くなら、良かったら玄関先だけでも開けておきますよ」。周子さんからの電話がきっかけで交流が始まり、今年は丸安が飾磨地区で開かれる「町家の日」のメイン会場の一つに。1階の座敷で舞踊と三味線のステージを催し、昭和の飾磨の映像も流す。大きな松の木が生えている浴場には、飾磨の古い町並みなどの写真を展示する。

 周子さんは「丸安を壊すのは簡単だけど、今はもう使えないような素材や建築技法が詰まっている。今後は専門家の助言などを受けながら残せる物は残し、活用できたらうれしい」。下津さんは「飾磨に残る古い建物を残していくには、今頑張るしかない。まずはたくさんの人に中を見てほしい」と意気込んでいる。

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 丸安の公開は8~10日の午前10時~午後3時。8日は午後1時半から昭和歌謡と舞踊のショー、9日は午前11時から民謡が楽しめる。また、9、10日の午後1時半からは、ひろめ隊による写真解説会がある。いずれも無料。

 9日には山陽電鉄飾磨駅から丸安まで、古い町並みを楽しみながら歩くイベントも実施。午前9時45分に同駅北口に集合し、正午ごろに丸安に到着する。参加費500円。問い合わせはひろめ隊の奥田さんTEL090.8799.4269

### ■花山院も渡った? 丸安の横に架かる「御幸橋」

 元割烹旅館「丸安」の南東角には、赤い欄干が印象的な「御幸(ごこう)橋」が架かる。御幸(ごこう、みゆき)は天皇や上皇の外出のこと。例えば姫路駅前の「姫路みゆき通り商店街」は、明治天皇が通ったことにちなむ。飾磨の御幸橋を渡ったと伝わるのは、交流サイト(SNS)でも毎週話題になる、あの人-。

 NHK大河ドラマ「光る君へ」の重要人物、本郷奏多さん演じる花山天皇(968~1008年)。花山院となった後、高僧・性空上人に会うため、上人が開いた書写山円教寺(姫路市書写)を訪れた際に渡ったとされる。

 丸安側から橋を隔てた場所の地名も「飾磨区御幸(ごこう)」となっている。飾磨ひろめ隊の下津千修さんは「『町家の日』前後の放送で、花山院の姫路行きが描かれるかも」と期待を寄せる。

 花山院は性空上人を2度訪ねたとされる。上人が隠居した弥勒寺(同市夢前町)の前にも「御幸橋」が架かる。(上杉順子)

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