湿度の高い環境を好むカビだが、空気が乾燥している冬も餅、みかん、干し芋など、身近なところで発生している。さらにカビの中には、人体に健康被害をおよぼす「カビ毒」を産生させるものもあり、昨年末には宮城県の学校給食に使われた岩手県産の小麦からカビ毒が確認されるという騒動もあった。
「熱に強い」カビ毒のやっかいさ
カビ毒は、植物の病原菌となるカビや、貯蔵穀物などを汚染するカビが産生する代謝物のうち、人や動物の健康へ悪影響をおよぼす毒素の総称だ。カビが8万種類以上あるのに対し、カビ毒は100種類以上と相対的には少ないが、穀類、ナッツ、リンゴなど、身近な農産物や食品もカビ毒に汚染されるリスクがある。また、カビ毒に汚染された飼料を家畜が食べた場合、肉や乳を介して摂取してしまう可能性もある。
NPO法人カビ相談センターの副理事長・久米田裕子氏は「カビ毒のやっかいなところは、カビそのものと違って熱に強く、加工や調理の過程で失活しないことです」と話す。
「カビ毒の摂取によって、直ちに重大な健康被害が発生するとは考えにくいですが、その食品にカビ毒が含まれているかは見た目では分からず、気づかないうちに継続的に摂取してしまう可能性もあります」
自宅での「カビ毒」発生リスクは?
穀類、ナッツ、リンゴなどで発生が確認されているカビ毒だが、これらの食材の保存状態が悪かった場合、自宅でも発生してしまう可能性はあるのだろうか。
「これらのカビ毒をつくるカビは、主には農作物を育てている栽培土壌に多く生息しています。昨年末のカビ毒騒動も、適切な時期に農薬散布が行われなかったことから小麦にカビが感染し、さらに収穫後の乾燥に時間がかかってしまったためにカビが増えて、高濃度のカビ毒を作ってしまったと考えられているようです。
もちろん、我々の生活環境中にはこれらカビ毒をつくるカビがまったくいないわけではありませんが、自宅でカビが生えてしまった食品をあえて食べなければ、心配することはないでしょう」(久米田氏)
カビ毒に汚染された農産物が流通しないよう、国内で生産されるものについては管理ガイドラインや検査規格が設けられ、輸入されるものについては検疫所で検査がなされている。しかし報道によれば、昨年末のカビ毒騒動では、農薬散布や乾燥の問題に加えて、出荷前の自主検査がルール通りに行われていなかったため、問題の小麦が流通してしまったようだ。
「カビの生えた食べもの」正しい対処法
空気が乾燥している冬でも、餅、みかん、干し芋など、カビは身近に発生している。「もったいないから」と、カビの生えた部分だけ切り取って食べている人もいるかもしれないが、リスクはないのだろうか。
「カビは食品などの表面だけに生えているのではなく、糸状の『菌糸』を、根のようにずっと中まで伸ばしています。そして万が一、カビ毒をつくるカビであると、その菌糸からカビ毒を出すことになります。
ただ、ほんの少し食べたからといって、嘔吐したりおなかを壊したりするような急性毒性の強いカビ毒はあまり知られていません。また、カビ毒の濃度はカビの菌体(菌そのもの全体)周辺が一番濃いため、菌糸を含めてカビの生えた部分を削ることにより、カビ毒の量は減少します。
しかし、だからといって残りの部分は食べても大丈夫かと言えば、やっぱりやめておいた方がよいでしょう。カビ毒は、カビを食べなくても知らず知らずのうちに農産物から接種する可能性があるため、慢性毒性のリスクは少しでも減らしたいものです」(久米田氏)